第2部第20話(エピローグ)
あの後緒美と竜介はホテルへ戻り、一晩じっくり休んでから東京へ戻ってきた。休みはあと1日残っている。
つかの間の休息を取れば、また日常の繰り返しだ。
3つのエリアを全て制覇した緒美は、どこかポッカリと穴が開いてしまったようにボーっとしていた。
(何か…つまんなくなっちゃったな…)
そこで、この気持ちは何だろうと、竜介に相談してみることにした。
「そうか…今度はサーキットにでも行くか?」
「サーキット…ええ、そうします」
首都高からの引退を決意した緒美。しかし緒美にはまだ、やり残していることが1つだけあった。
それは…。
(まだ自分自身を…超えていない!)
そう、最後に乗り越えるは自分自身との戦い。
最後の〆に、と環状線に出向き、タイムアタックの準備をする。
目指すは4:00以内だ。
「じゃあ行くぞ。3,2,1…GO!」
竜介の手が振り下ろされ、パーキングエリアから飛び出していったZ32。
思えばこの数ヶ月間、本当にいろいろなことがあった。
車という機械に出会い、つまらない日常を脱却することができた。
初めて峠に向かい、自分の慢心を見事に打ち砕かれた。
首都高に来て、さまざまな人とも出会った。プロレーサー、軍人、エリアのボス…。
名古屋や阪神に遠征にも出かけた。
車も数台乗り換えた。
300キロオーバーの世界も体験し、そこから見事に勝利して帰ってきた。
そして今、緒美は最後のチェッカーを受ける。タイムは…。
「3分…58秒351!」
この瞬間、自分自身に緒美は勝ったのであった。
全てを終えた緒美は、とても満足そうな顔をしつつ、この日首都高を下りていった。
Z32も使い込んだため売却し、代わりにニュービートルのRSIを買って
ノーマルのままでサーキットを攻める毎日になった。
何のために走るのか?
すべてのエリアを制覇するため…すべてのRIVALに勝利するため…理由などいらない。
ただ「走りたい」という【意志】さえあれば。
第2部 完