第1部第4話


首都高サーキットを銀座で降りる。すると、さっきの2台も後から着いてきた。

京介は手近なところにローレルを停め、車から降りた。


シルエイティとZ32からもドライバーが降りてくる。

「よう…あんた、俺らを負かすとは恐れ入った」

「さすがだな…連戦連勝していた俺が負けるとは」

「あ…そ、そりゃどうも。えっと、あんたらは?」


シルエイティとZのドライバーは、それぞれ自己紹介をする。

高崎 和人(たかさき かずと)ってもんだ」

宮川 哲(みやかわ さとる)だ。俺等は師弟関係でな。こいつにドラテクを教えている。今となってはもう追い抜かされそうな勢いだが」

「いやいや、まだまだですよ、俺」

シルエイティのドライバーが高崎和人、Z32のドライバーが宮川 哲と言う。


「へえ…あ、俺は宝条京介って言います。…ところで、最近俺に目を付けているサーティンデビルズという奴らがいるみたいなんですが、何か知りませんか?」

その言葉に、和人と哲の顔色が変わった。

「え? あ…あんたが今噂の新参君か?」

「君が…サーティンデビルズのメンバーだ、俺等は一応」

「え…えええ!? と言う事は、これで2人倒した…ということですか?」



何と、2人はサーティンデビルズのメンバー。

「そう言うことになるな。俺は「裏切りのジャックナイフ」って呼ばれてる」

「俺は「トゥルースライド」と呼ばれているぜ。多分目を付けたのは流斗だろ」

「流斗…って誰ですか?」

「ああ…新環状線の方にいるアリスト乗り。でもその前に、恵が君を倒しに来るだろうな。

白にピンクの線が入ったS14シルビアに乗っているが、ストレートが速いから気をつけろ」

「はい。…でもあなた方も速かったですよね。さすがターボだ」


しかし、その発言に哲は首を横に振る。

「いや、俺のZ32はNAなんだ。それを1から仕上げてここまで速く走れるようになった。今は299馬力しか出ていないけど、

ギアを思いっきり加速重視に振ってあるから、加速じゃノーマルのマシンには負けないかな。

ただブレーキをでかいのに変えちまったから、車重が更に増えてしまってせっかくの性能が殺されてるのもなぁ…」


………沈黙。

「と…とにかくさ、君の腕でC1を走っていれば恵さんも出てくると思うから、がんばれよ」

「はい、がんばります!」


3人はがっちり握手をして別れた。

そして京介は、恵と呼ばれる人物のS14と戦うために、走り込みを続けることを心で誓うのだった。





和人と哲とのバトルから数日後。

「うまくなったじゃないか。こりゃそのうち俺がコーナリングで負ける日も近いかもな」

「冗談でしょ谷本さん…俺なんて谷本さんの足元にも及びませんよ!」

「いいや、京介は速くなると思う。前族でバイクやってたから、その経験もあるのかな」

ともかく、今日で仁史のコーナリング講習は終わりのようだ。


芝公園の出口で首都高サーキットを降り、京介は仁史を降ろした。

「じゃあ何かあれば、連絡してくれよ」

「はい、今までどうもありがとうございました」



仁史と別れ、京介は再び首都高サーキットへ。タイヤはまだ大丈夫そうだ。

(ここらのチームはあらかた倒したからな、もしかして今日辺りあのS14がでてくるかな?)

内心ドキドキしながらC1外回りを流す。すると…!


(はっ、お出ましか!)

バックミラーには白いS14。ピンクのストライプが入っている。哲から聞いた情報によれば、多分こいつがサーティンデビルズの3人目だろう。

そのS14は京介にパッシングしてきた。それに応じ、ハザードをつける。

(さあ、行くぜ!)

ハザードを消し、アクセルを床まで踏み込み京介はローレルを加速させる。


だが後ろからものすごいエキゾーストが響き渡って来る。後ろのシルビア、かなりの改造がされているようだ。

しかし京介もブロックしてそう簡単に前に出させはしない。ストレートが速いと言うことを事前に聞くことができたからだ。

(向こう、結構パワー出てるな? あっという間に後ろにピッタリくっつかれたぞ!)


何とか京介も踏ん張り、必死にブロックしていたがついにかわされた。

(ちっ、この区間はスピードが出るからな。だがこの先はトンネルが2つある。そこで勝負だ!)

しっかり前を見てシルビアを追いかけていく京介。

ストレートでどんどん離されていくが、奴は和人や哲と同じくコーナリングの前に過剰に減速している。だからいくら突き放されようが、コーナリングで追いつける。

しかしタイヤのこともあり、早めに勝負を決めたい。



そこで目をつけたのが2個目のトンネルの出口にある右コーナー。

ここは上りながらトンネルを出るコーナー。ストレートが事前に配置されており、目一杯踏んでくるとスピードが乗る。

しかも上りながらなので、前輪の加重が抜けることによるアンダーステアにも注意しなければならない。

そこでコーナー前に京介はしっかりブレーキング。それもやや手前で。

アクセルをじわじわと踏み込み、アンダーを出さないようにグリップでコーナリング。そのまま出口が見えたところでアクセル全開!


京介がやったのは、いわゆる立ち上がり重視のコーナリング。

いつもより早くブレーキングして、コーナーの出口で早めにアクセルを踏めるようにしたのだ。

そのおかげで少しシルビアとの差が縮まった。

しかもその先は高速コーナーが連続する区間。シルビアはひとつひとつ丁寧にブレーキングして駆け抜けて行くが、

そのせいで京介との差はどんどん無くなって行く。

(よし、後ろにピッタリ着いたぜ!)


そこから京介の反撃が始まった。

八重洲と外回りの分岐で減速したシルビアに強引に並んで、そのまま左コーナーに突入。

ここでもシルビアは減速したため、アウトからでも強引に前に出られた。


そして止めは新環状とC1の分岐。前にいるアザーカーのヴォクシーをかわし、その勢いで仁史から習った

振りっ返しのドリフトで…と思いきや、途中でドリフトが戻ってしまう。

仕方ないのでいつも通りグリップで進入する京介。

過剰に減速したシルビアを尻目に、京介はコーナリングで差を広げて勝負あり。京介の振り切り勝ちだ。




銀座で首都高を降りた京介。ローレルから降り、タバコを出して火をつける。

(サーティンデビルズってのも、大したことないな)

自分に自信を持ったのか、そんなことを思ってしまう。すると、不意に声をかけられた。


「どうもこんばんは。さっきは振り切ってくれて……」

「っ!?」

京介が振り返ってみると、そこにはピンク色のロングヘアーの女が。

「どうも初めまして。サーティンデビルズの1人、飯田 恵(いいだ めぐみ)です」

「ほ…宝条京介です」


京介はまじまじと、恵と名乗った女の顔を見つめる。

(結構可愛いな)

「あ、あの、私の顔に何かついてます?」

「いや、何でもないです。…ところで、さっきサーティンデビルズの1人と言いましたけど…」

「はい、私はユウウツな天使と呼ばれています。……あ、そうそう。もしよかったら、新環状の方に行ってみてはどうですかね?」

「えっ?」



唐突な恵からの提案。

「そこに次の3人がいるはずです。全員がセダンに乗ってます。でもセダンだからって油断すると、ちょっと手こずるかもしれません」

「そ、そうなんですか?」

「はい。そのローレルだと厳しいかな」

「そうですか…分かりました。気をつけます。…それにしてもあなた、何かあのシルビアを運転している感じには見えないですね。おっとりしているというか…」

「え…あ、私…本当は凄く大人しくて、内気なんです。シルビアを運転するようになっても、地味なんですよ」

「地味? そうは見えないけどな。このシルビア、何馬力くらいでてるんですか?」

「えっと、340馬力ですね。この間計りました」


恵のシルビアは、結構パワーが出ているマシンのようだ。

「信じられないですね…それだけのマシンを乗りこなせるような人が…」

「良くほら…ハンドル握ると性格が変わる人っているじゃないですか。私もなんです。前に男の人と付き合ってたんですけど、

この間別れちゃいまして…。その人、S2000に乗ってる人なんです。一応同じサーティンデビルズのメンバーです」

「ああ…まぁ、俺は人の過去に首突っ込むことはしないですよ」

「そうですか…」




すると、不意に恵がS14の助手席のドアを開けた。

「どうぞ、乗ってください」

「はい?」

「少しドライブしませんか? ローレルは近くに停めて」

「え、ええ。構いませんよ」

というわけで近くのコインパーキングに車を入れ、S14で再び首都高へ。

「新環状の方、行ってみます?」

「お願いします」


でも、首都高に上がってスピードを上げた恵は…。

「オラオラ〜っ!! ちんたら走ってんじゃねえぞ前ェ!! 潰すぞこのヤロオオオオオオ!! ダブルクラッシュと行こうぜえ!! ひゃははははっははははっは!!」

京介はこの恵の変わりっぷりに、顔がこわばってしまった。

結局、新環状のコースを覚えるのに精一杯で、恵に話しかけることなんかとてもできなかった。その後首都高を降りて、再びコインパーキングへ。


「どうでした? 新環状は」

「はは…ま、まぁ、良かったですね。ストレートが多いからパワー勝負になるかなー……なんて」

さっきのおぞましい光景を、乾き笑いでごまかす京介。

「良かった、喜んで頂けて。…では、私はこれで。今日はどうもありがとうございました」

ぺこりとお辞儀をして去っていった恵。

京介はそのS14の後ろ姿を見て、こう呟いたと言う。


「多分…別れたのはあの二重人格のせいだろうな…」


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