第2部第18話
永治、令次とのバトルから数日後。4日残った有給を全てまた使う。
その前のバイトを終わらせて、最初に向かうは大阪。
何故かというと、そこにいるインプレッサの走り屋に緒美が呼ばれたというのだ。
夕方から5時間かけて、Zで走り続けて大阪市内へ。そこから少し時間をつぶし、大阪環状線へと上がっていく。
(なんか、走っている連中が違うわね)
環状線はともかく、まだ湾岸線のほうへ行ってなかったので行ってバトルしてみる。
さすがに大阪もレベルは高い。
ここで有名なのは、「ダーツ」と呼ばれるメンバーが多いチームらしいが…最近誰かに潰されたらしい。
「潰された…まさか、瑞穂が…?」
確証がもてないまま、テストバトルを繰り返す緒美。
夜の8時から12時まで、休憩やタイヤ交換をはさみつつバトルしていく。
情報交換もしてみると、どうやら潰したのは緒美の知り合いらしい。4時間のバトルでなかなか湾岸線にも慣れてきた。
走ってみると結構、トップスピードまで踏み切れるコースだ。
一旦一般道に下りてそこからまた上がるのだが、それにも慣れた。
(青いインプレッサの走り屋か…)
ハイスピードで駆け抜けつつ、湾岸線上り方面を環状線に向かって走り、そのインプレッサを探す。
すると目の前に1台のスタリオンが現れた。パッシングしてバトル開始。
もうすぐで環状線なので、コーナーが多い地帯だ。
そしてこのスタリオン、意外と速い。ストレートでは鬼のような加速を見せる。
だが、Z32だって空力的には優れている。
スリップストリームで喰らい付き、ピットエリアの入り口を通り過ぎて左コーナーを抜けていく。
目の前に迫ってくるのは右コーナー。
全体的には緩やかだが、スピードが乗っているとアンダーが出てクラッシュする可能性がある。
その後にはすぐ、若干左にカーブしてから大きく右へコーナリング。
ここの左側には分岐があり、膨らむとそっちへ滑っていってしまうので、慎重にコーナリングする。
すぐ後に緩やかな左コーナーが来るので、右のコーナリングで差を詰めてスタリオンをその左コーナーでパスした。
しかしすぐ先にも若干きつい右コーナーがあるので、丁寧にコーナリング。
そこからストレートスピードの差を生かし、スタリオンをぐいぐい引き離して決着がついた。
そのまま環状線へ向かい、中ノ島PAに駐車。さっきのスタリオンもついてきた。
「どうもこんばんは。君だよな、チームアルファのスティーブを倒した女って」
「え? あ、ああ…もしかして、あなたが…」
スタリオンから降りてきたのは、茶髪の日本人だった。
「俺は黒羽 真治(くろば しんじ)。スティーブから話は聞いている。噂どおり速いな」
「ありがとうございます。ところで…私、青いインプレッサのドライバーを探しているんです。どうもその人が、こっちに私を呼んだみたいで。何かご存じないですか?」
「青いインプレッサ…ああ、GC8なら環状線をよく走っているな。行って見ると良い」
「ありがとうございます」
そのインプレッサを探して、クールダウンした後また環状線へ。すると案外簡単に見つかった。
パッシングをしてバトルを開始する。
しかしそのインプレッサの走り方を見た瞬間、緒美は何だか懐かしい感じを覚えた。
(この感じ…この走り方…そしてインプレッサ…まさか!?)
ストレートのスピードはこっちが速いが、コーナリングではわずかに向こうが速く、前に出られない。
坂を駆け上がって橋の上のS字コーナーを右、左、右と駆け抜ける。
最後の右はツインドリフトが決まった。
相手はゼロカウンターを使いこなし、しっかりコーナリングして突っ込みで突き放す。
4WDのトラクションを生かした、立ち上がりの加速もあって速いのだ。
…そして、やっぱりこの走り方は…間違いない。初めてロードスターで、後ろを追いかけたときと同じ…!
(竜介先輩…!)
そう、師弟対決という形になってしまった。現役のプロラリードライバーは速い。
(気づいたのかな…緒美。まあ、俺だってお前の存在に気づいてしまったがな。こういった形で再会できて、しかもバトルとは。
首都高ではトップに立てない。だから、ここでトップに立った。簡単にトップの座は渡さない!)
竜介も100%の力で応対する。手加減一切なしの本気モードだ。
大阪城を左に見据えつつ、長いストレートから右のバンクを抜け、再び加速。
ここでZが前へ出る。その先のS字コーナーでは何とかブロックして前に出させない。
だが突き当たりのきつい右コーナーでは、インプレッサの軽さを生かして竜介がブレーキング勝負を仕掛け、前に出た。
(先輩速い! …でも、私だってプライドがある! もうあの頃の私とは違いますよ!)
その瞬間、Zの音が変わったような感じが竜介に伝わってきた。
(何だこの感じは…!?)
2つ目の連続コーナーを抜け、右へと抜ける複合コーナー。ここで緒美が勝負をかけに来た。
(行きますよ! ここまでです、先輩!)
まずは突っ込み重視と見せかけ、緒美はブレーキを遅らせる。
竜介はそれを見てブレーキをもっと奥まで遅らせるが、まだ余裕があることに気がつく。
(まさか!)
相手だけつっこみ重視でブレーキングさせる。
緒美はこの右コーナーを小さく回って、大きく外に出る走り方をとった。
(くそっ! 失速した!)
加速でもたつくインプレッサと、立ち上がり重視でクリアした緒美。
その後のストレートで、緒美が竜介を追い抜いていった。
その姿を見た竜介は、すっとアクセルから足を離した。
(俺が負ける…か。餅は餅屋、というように、高速ステージではあいつにかなわなかったというわけだな・・・)
力と力。一歩も譲れぬ想いをより強い意志と信念で凌駕した時、運命は一つの奇跡を授ける。
<阪神最速>という称号と共に。