第2部第15話
真由美を同乗させたまま、横羽線上りでバトルスタート。
現在、緒美のZは500馬力を搾り出している。加えて軽量化もリアシートにおもりを載せて、前だけを軽量化した。
トラクションを稼ぐためである。
横羽線上りではよくわからないチームが2つ…だが、片方のチームのリーダーが乗っているフォードGTが速い。
「こいつ…前は34GT−Rに乗ってたんだけど…こんな車に買い換えたのかよ」
スリップストリームを使って喰らい付き、右の高速コーナーでアンダーを出したところをパス。
そのまま昭和島ジャンクションの先のコーナリングで、一気に引き離して勝負ありだ。
「ふう…さて、そろそろ俺は帰る。Zももうタイヤが駄目だろうから、京介のショップに持っていきな」
まだ横羽線上りは制覇していないが、一旦持って行くことにした。
「結構いい走りをする。俺と横羽線でやっても、いい勝負するかもしれねぇな」
「そんなにですか? 緒美ちゃんが?」
「ああ。今度は横羽下りを攻めるときになったら呼んでくれ。まだ俺は、次のレースまでには時間があるからな。じゃ、またな」
70スープラが重低音を響かせて、京介の工場から去っていった。
「どうする? まだ走りに行くのか?」
「いいえ、今日はもう帰りますね。また明日来ます」
「わかった」
翌日からは真由美を乗せ、横羽線下り方面へ。しかし…ここ、やたらメンバーの多いチームが多い。
インプレッサとランエボ混在のチーム、何か知らないけど犬の名前があだ名についてるチーム。
混在のチームの方は8人もいたので、全員撃破まで6日もかかってしまった。
犬のチームの方は軽く撃破。
しかし、それよりもっと酷いチームがいた。首都高の憧れのチームと言われている
集団がいるのだが、やたらメンバーが多い。その数何と10人。
しかも…しかもだ。料金所手前でバトルを仕掛けていけば、なぜだか奴らは減速する。
料金所はラインさえ見切れば全開でいけるのだが、やはり怖いのであろうか。
それか、緒美が異常なのであろうか?
その繰り返しで、さらに5日かけて全員倒す。リーダーの緑の32GT−Rも、料金所戦法で振りきった。
基本的に1日1〜2戦くらいしかしていなかったためか、Zの調子はすこぶる良い。
しかしR32GT−Rを振りきった直後であった。
後ろからロータリーエンジンの音が聞こえてきたため、緒美がバックミラーを覗くと、そこには赤いFCのRX−7が。
すると真由美が口を開く。
「弘樹だ…」
「え?」
「俺の知り合い。ってか、ライバルかな。…このZ32でも厳しいかもしれねぇな」
明の言っていたことも思い出す。そうだ、このRX−7は!
ハザードを消してバトルスタート。すぐさま緒美はRX−7をブロック。
(加速が凄いってこと、聞いといてよかった!)
前に出ようとするRX−7をブロックしたまま、横羽線を下っていく緒美。
料金所戦法は通り過ぎたので使えない。
そのため、後ろからのプレッシャーに負けないようにバックミラーをひっくり返す。そしてサイドミラーも折りたたむ。
「ちょ…何やってるんだよ!」
ブロックしようとして、誤ってチャージでもすればRX−7もろとも吹っ飛んで行きかねない。
ミラーを折りたたむことは、それだけ危険なことだった。
しかし緒美も必死だ。ここまで来た以上負けるわけにはいかないのだ。
アクセルを底まで踏み込み、RX−7と死闘を繰り広げる。
そして勝負は、横羽線から橋に向かう所にある左コーナーで決着した。
突っ込み勝負で行くと見せかけ、立ち上がり重視でコーナリング。
RX−7は突っ込み重視でコーナリングしてしまったため立ち上がりの加速が伸びない。
そのまま一気に引き離し、勝負ありだ。
「ふぅ〜…全く、危険だぜ…。ほら、ミラー戻せよミラーを!」
「はぁ、疲れた…! 真由美さん、私、今日はもう降りますね」
「そうした方が良い。スポーツでは休憩も大事だからな」
「ふぅ…じゃ、工場まで送ってくれ」
真由美を京介の工場まで送り届ける。すると隣にさっきのRX−7がやって来た。
「あれ、この車…」
「何だ、弘樹ついてきたのかよ」
女2人がZから降りると、RX−7のドライバーも降りてきた。
緑の髪をはねさせ、手には青とシルバーのグローブをはめている。
「真由美? 何でお前がこのZに?」
「まぁいろいろあってね。あ、紹介するぜ。この子は山下緒美ちゃん。緒美、この人は沢田 弘樹(さわだ ひろき)って言うんだ」
「緒美です…」
「沢田だ。さっきはどうも。女があれだけの走りをするとは、恐れ入ったもんだ」
「俺のことは女として見ていないのか?」
「当然」
「……」
その時、工場から京介がやってきた。
「何か騒がしいと思ったら…弘樹さんじゃないですか」
「京介…ああ、ここで働いているという話は聞いていたが、本当だったんだな」
顔見知りなのか? という話を聞いてみると、どうやら真由美と弘樹は昔、同じチームで活動していたという。
京介に2人とも打ち負かされてしまったようだが。
「京介さんって、凄かったんですね…」
「もう昔の話だ。さて…後残るは湾岸線だけか?」
すると弘樹が口を開く。
「湾岸か…俺の昔のホームコースだったところだ」
「そうだったんですか?」
「ああ。300キロオーバーは当たり前になるから、動体視力がないと厳しいかもな」
300キロ。それはもう未知の世界だ。
横羽線でそれに近いスピードは出したことがあるが、それ以上は…。
「まるで車がパイロンのように見えてくる。サーキットになって走り屋が増加したんだが、
大抵の奴は140キロくらいで走ってる奴が殆どなんだ。そんな奴らの横を300キロオーバーで走り抜ける。
ちょっとでも避けるタイミングを誤ったら、壁かそいつらにぶつかって大クラッシュ。命はないな」
緒美は身震いした。そんな所を最後に残してしまったなんて…。
「でも、そこを制覇しないとあいつとは戦えないよ。迅帝とは」
「…ええ。その覚悟は出来ています」
「本当に良いんだな? やめるなら今の内だぞ」
「大丈夫です。もう腹はくくりました」
「わかった。ならこのZ32に目一杯のパワーチューンをしてやるよ」
「宜しくお願いします」