第2部第14話
数日後。微調整を繰り返して再びGT−R、ランエボ、インプレッサを撃破していく緒美。
さすがに連続バトルは疲れるので、一旦PAに入って休憩。
そしてウィンカーを出しながら本線に合流した時だった。
目の前を1台の金色のコペンが通過していく。
何となくウィンカーを消す前にパッシングしてみると、そのコペンはバトルに応じた。
ハザードを消してバトルスタート。
しかし、このマシンの敵であるはずもなく、あっさりと勝利。
(軽自動車で首都高…前にも何かそんなチームいたっけなぁ)
珍しい人もいるもんだ、と思いながらも引き続き撃破していく。特にGT−Rのチームはメンバーが多いため、倒すのにも一苦労だ。
とりあえず今日はランエボとインプレッサのチームを撃破し、帰路につく。
しかしその帰り、後ろからさっきのコペンにパッシングされる緒美。
(ここ一般道だけど…何か用事でもあるのかな?)
とりあえずウィンカーを出して停車し、ハザードを焚いて停まった。すると窓をコンコンと叩かれる。
降りてきたのは、青い坊主頭が特徴的な男だった。
「さっきは振りきってくれてどうも…。この車の持ち主ってあなたですか?」
「はいそうですけど…あなたは?」
男は名刺を差し出してきた。そこには塚本 弘道(つかもと ひろみち)と明記してある。
「イエローデスペラードって言う、マナーの悪い黄色いランエボを倒して頂いて、ありがとうございます」
「あ…あのランエボ、お知り合いの方ですか?」
「とんでも無い。私はマナーの悪いドライバーが大嫌いでしてね。さっきあなた、ウィンカーを出しながらパッシングしてくれましたよね? あれ、感激しました」
「は、はあ…どういたしまして…」
こいつは何を言ってるんだ、と思いつつも、塚本から重要な証言を聞いた。
湾岸線の方であなたを捜している人がいる、ということを…。
そして塚本と別れ、あくびをかみ殺しつつ家に帰る緒美であった。
翌日。再び首都高新環状右回りに繰り出して、やっとGT−Rのチームを撃破。
リーダーの青いR34は速かったが、ギリギリで勝利。
そのまま勝利の余韻に浸りつつ帰ろう…と思った緒美だったが。
(パッシング?)
バックミラーを見ると、そこには青い大きなマシンが。音からするとGTOらしいが…。
ボンネットには大きな黄色い模様が描かれている。
(GTO…? まだタイヤには余力あるし、受けよう)
GTOが横並びになり、バトルスタート。しかしそのGTOは、森山のものとは全然加速が違う。
幸い湾岸線部分は通り過ぎたので、コーナーで追いつく。
だがGTOの鬼のようなトルクで、立ち上がりで引き離される。
これは長引かせてはまずい、と緒美は思い、短期決着をもくろむことに。
(重量級なのは変わらないけど…こっちの方が軽い! 勝負をかけるなら少し先のS字コーナー!)
レインボーブリッジ後の左、右と下りながら曲がるコーナーがある。
こっちはFRなので、コーナーの速度は、腕次第では4WDより速く走れる可能性がある。
ぐっと加速し、アクセル全開でギリギリのラインで駆け抜ける。GTOにはストレートで引き離されていくが、
レインボーブリッジ後の右コーナーで突っ込み勝負をして食らいつく。
そのまま勝負は問題のS字コーナーへと入っていく。1個目のS字をやや捨て気味に進入し、2個目のアプローチへ。
2個目でアウト側から進入して大きくラインを取り、立ち上がり重視でコーナーを抜けた!
(ここだ!)
立ち上がるスピードが若干GTOより速かった緒美は、GTOをかわして前に出た。
そのままGTOはスローダウンしていったが、今度は横羽の方から合流してきた車がパッシングしてきた。しかもまたでかい車。
(また…!? しかもこの威圧感…ドライバーの技量ではなくて、この車のでかさから来てる!)
パッシングされた以上断ることも出来ないので、一旦スピードを落としてハザードをつけて再スタート。
勝負は環状線内回りへと入っていく。後ろの車は高速左コーナーから、汐留S字までのストレートで
一旦前に出てきた。その車は緒美も知らない車だった。
(セダン…?)
紫の大型セダン。トヨタのエンブレムがついており、うっすらと「セルシオ」の文字が見える。
加速はあまり変わらないようだ。
その上勝負もあっけなかった。汐留S字コーナーで突っ込み勝負を仕掛け、あっさりとセルシオをパス。
そのまま立ち上がりでも引き離し、銀座を駆け抜ければもうセルシオなど、どのミラーにも映っていなかったのであった。
(疲れた…連続バトルは何回もチーム戦で経験してるけど、今回の2人は速かった…)
いやセルシオはそうでもなかっただろ、という突っ込みはしてはいけない。
そのまま首都高サーキットを降りて近くの通りで車を停める。
すると重低音を響かせて、さっきの2台もついてきていたのが緒美の目に入った。
そのまま緒美の車の両隣にGTOとセルシオを停め、中からドライバーが降りてきた。
「そのZ32…あんたの?」
緒美のマシンはZ32だった。黒の純正フルエアロ。
「そうですけど…あなた達はさっきの…」
「はい。あ、僕はハールと申します」
「稲本(いなもと)だ。よろしく。山下緒美って君だろ? シュマイザーから噂には聞いてるよ」
セルシオの男がハール、GTOの男が稲本と名乗った。
「これで新環状は終わりかな…あ、そうだ。これから湾岸線と横羽線へ行こうと思うんですけど、そっちのボスってどんな人達ですか?」
「えーと…湾岸は俺と同じGTO乗りの女がいる。俺から実力つけたら、バトルしてくれるよう連絡しとく。
横羽はFCのセブン乗りが1人いるな。FCだからってなめてかかったら痛い目見るぞ。ストレートが異常に速い。
横浜環状はこれまた女で、70スープラに乗ってる。男勝りな奴だからガンガン攻めてくるぞ」
「ありがとうございます。では私はこれで…」
そう言い残して缶ジュースを1本買い、Z32に乗り込んで家路についた。
首都高の残るボスは、後3人だ。
翌日から、先にコーナーの多い横羽環状から攻めるべく、生麦方面からコースインした緒美。
リズム的には新環状線と似ているのかと思いきや、アップダウンあり、トンネルありの意外と難しいコース。
左回りはレストランのオーナーが作ったチームと、アメリカの軍人ばかりで構成されたチームが。
その軍人ばかりのチームのリーダー、スティーブ・ブライソンから緒美は面白い話を聞いた。
「俺の知り合いが今、関西に出張しているから向こうに行ったらよろしく伝えてくれよ」
関西に知り合い…?
そう言えば、あの瑞穂とか言う奴はどうしているんだろう、と思いつつ、レストランのチームも撃破した。
しかし、そこの右回りではバイパーばかりのチームが速かった。音楽かけまくっているチームもいたがそっちはどうでもよかった。
とにかく大排気量過ぎて顔がポカーンとなる。ストレートで離される。
コーナーで何とか食らいつき、抜いた後はひたすらブロックという戦法もとった。
リーダーの黒いバイパーには5回程負けたが。
後は若い美少年ばかりのチームもいたが、そっちは相手にならないと言う感じで全員撃破した。
バイパーのチームよりは全然弱かった。
レストランのチームを撃破し終えた緒美が帰ろうとすると、後ろからパッシングの光が。
バックミラーに目をやると、そこには懐かしい、リトラクタブルヘッドライト。
これは…70スープラだ。
(来た…。同じ女として、ますます負けられないでしょ!)
ハザードを消してバトルスタート。
加速したまま石川町ジャンクションの右コーナーを抜け、トンネルへと飛び込んでいくZとスープラ。
だんだん道幅が広くなっていくこのトンネルで、スープラが横から追い抜いていく。
(パワーで負けるのはわかってる…でもこの後が勝負!)
スリップストリームを使って食らいつき、トンネル出口の中速右コーナーで突っ込み勝負をして追い抜く。
そこは緩やかなS字になっており、次に来た左コーナーを大きく旋回してトンネルを抜けた。
そのまますっと前に出てブロック。
そこからは少しストレートが続き、スープラがブロックをかいくぐって並んでくる。
目の前に迫るはやや上りながらの中速右コーナー。
ここでかなり良い突っ込みを見せるZだが、スープラは少しもたつく。
(あれ?)
どうもこのスープラ、ただのパワーマシンらしい。速いことは速いが、コーナーではこっちが有利なようだ。
その事を知った緒美、コーナーでも臆することなくガンガン踏み始める。
上り切った後はすぐ下りながらの右コーナー。上には別の道路が見える。
両側に鉄の柱を臨みつつ、イン側にいるR32GT−Rを避けて、コーナーでもアクセル全開。
スープラも食らいついてこようとするが、リアが駄々滑りしている。
そして次に迫ってきた中速左コーナーを抜けるとスープラは完全に視界から消え去っていった。
…かに思えたが、その後の左コーナーで少し突っ込みすぎて失速してしまった緒美は、またもや追いつかれてしまう。
(うわーーーーしつこい!)
コツンとバンパープッシュまでされ、完全に流れが相手に……は向かなかった。
もうタイヤが終わってしまったのだろうか。すっとスピードを緩めてスープラが後退していった。
(はぁあああああああ…疲れた…)
今日はもう帰ろう…と高速を降り、帰りがてら京介の整備工場へ寄っていくことにした。
「こんばんは〜…」
「おう、どうした…って、凄い汗だぞ。バトルの帰りか?」
「ええ…紫の70スープラとバトルしてきまして…何とか振りきりました」
その言葉に京介の顔が変わる。
「70スープラ? それってもしかして…」
その言葉の続きは、京介の目で証明された。さっきの70スープラがここまでやって来たのだった。
「もうタイヤ取り替えないと…あれ、お前もしかして、さっきのZ32の?」
明の言った通りだった。女ではあるが、女っぽくない。
「あなたは…?」
「俺? 遠藤 真由美(えんどう まゆみ)。…京介の知り合いなの?」
「ええ。あの、明さんの知り合いだって話を聞いてきたんですけれど」
「明? ああ、あいつが負けたってのはお前さんかい。若いんだな随分。それにしても…他人の車にあまり口を出すべきでは
ないと思うんだが、あのZ32・・・高速区間では少し非力だな」
真由美の言った通り、今のままでは確かに非力だ。
湾岸線なんて300キロオーバーが当たり前なので、もう少しパワーがないと辛い。
「あー…そうか…確かに真由美さんのスープラ、パワーありますもんね」
京介は少し考え、工具を取り出した。
「よし、プロレーサーに勝ったご褒美に、湾岸線と横羽線で通用するチューニングしてやるよ」
「え、プロのレーサーって?」
まさかと思い、真由美の方を振り返る。
「…そうだよ、俺はプロだ。あんなキレてる突っ込みなんて、サーキットではよく見られるんだが…あそこでは滅多に見たことがねぇ」
思わず後ずさりしてハデに転倒する緒美。一体どこのギャグマンガかと。
「ま、まぁびっくりするのも仕方ないだろうな…」
尻をさすりながら立ち上がり、そんな自分に苦笑いしている京介を横目に、改めて自己紹介。
「山下緒美です。さっきはいいバトルをありがとうございました」
「こちらこそ。俺も少し力を貸す。少し前まで横羽走ってたから、走り方は伝授できる」
というわけで。5日かけてZをまずは横羽線仕様にセッティング。
真由美がナビシートに座って走り方を伝授することになった。
「サンダードラゴンは確かに強かったな。あのバイパーだけのチームだろ? 俺のスープラでも勝てるかどうか。…ま、それはいいとして…だ。
この横羽線ではパワーはもちろんだが、高速コーナーをいかに処理するかで決まる」
丁度目の前に迫ってきた高速コーナーをお手本に、真由美が横から指示。
「よっしゃ、まずは右コーナーだな。ここは今の性能なら…アウトキープでアクセル全開だ」
4速全開でアクセル全開。すると壁ギリギリながらも全開で駆け抜けることが出来た。
横羽線では度胸も、今以上に必要なようだ。