第2部第13話
数日後の日曜日。緒美はC1内回り芝公園パーキングへやってきていた。
すると恵とS15シルビアを発見。
「あれ、恵さん?」
「緒美ちゃん? 久しぶりね。あなたも走りに来たの?」
「ええ。車も買い換えたんですよ」
緒美の言葉に、恵は緒美のマシンを見る。
「あら、本当ね。その車…高速ステージには凄く有利そうじゃない」
「はい。今日はC1でまだ倒していないライバル達を倒しに来たんです」
「そうなの…」
と、ここで恵から意外な提案が。
「話は変わるけど…緒美ちゃん、シルビア運転してみない?」
「え?」
「今までFRのマシンばかりを乗り継いできているわよね? 私は自分で言うのもなんだけど、FR至上主義なの。
でも、走り屋に一般的に普及しているシルビアには、まだ乗った事無いでしょ?」
「そうですね…」
「緒美ちゃんがシルビアに乗ったらどんな走りするのか興味あるから。ね、1回だけ良いかしら?」
「恵さんがそこまで言うなら…1回だけですよ」
と言う訳で恵のシルビアに乗り込み、緒美は恵と共にC1内回りから新環状左回りへ。
「何だか、2リッターにしては凄くパワーがありますね」
「ええ。タービンは大きいのを入れているし、足回りもしっかりパワーを受け止められるようにしてあるわ」
直線で思いっきり加速し、首都高サーキットを駆け抜けるシルビア。
だが、緒美が一旦減速した途端、後ろから煽ってくる1台の車が。
「ん?」
「煽って来てるわね」
バックミラーで緒美がその車を確認すると、何だか小型のマシンの様であった。
恵も後ろを振り向いて、その車を見てみる。
「あれは…シルエットからして、MR−Sかしらね?」
そしてそのMR−Sは何と、シルビアにパッシングをしてくる。
「…良いですか?」
「勿論。さっき言った通り、どんな走りをするのか興味があるわ」
「わかりました」
緒美は2速へシフトダウンし、ハザードをつける。そして5秒後にフル加速。MR−Sを引き離す。
そのまま湾岸線から新環状線の大きな左コーナーへ。
ここでしっかりと減速し、堅実にグリップ走行で、突っ込みで差を詰めてくるMR−Sを立ち上がりで引き離す。
その後はコーナーとは呼べない、直線に近い超高速コーナーが続くため、パワーで振り切って決着した緒美だった。
有明でPAに入り、シルビアを空いている駐車スペースへ。
そして2人がシルビアから降りると、目の前をさっきのMR−Sが通り過ぎ、数メートル先のスペースに駐車した。
2人はそのMR−Sの元へ。
「こんばんは〜」
「…ああ、どうも。こんばんは」
青と黄緑の2色でカラーリングされた髪を持つ男。だが何だか目がギラギラしている。
「俺は本山(もとやま)って言います。よろしく」
「山下です」
「飯田です、宜しく」
「所で、このシルビアを運転していたのはどちらの方ですか?」
「ああ、私です」
それを聞いた本山は、緒美を見てああ、と頷いた。
「何ヶ月か前に見た事があるシルビアだと思ったけど、あんた…ユウウツな天使だな」
どうやらこの男は、緒美をシルビアの持ち主と勘違いしているらしい。
「え? いえ、違います。持ち主はこっちの人です。私は今日、少し運転させてもらったんですよ」
「ふうん、そうなんですか」
そう言って、本山はシルビアのナンバープレートを見る。そして意味深な事を呟いた。
「やっぱりか…」
「え?」
「俺、ジャングルで生活していた事があって、視力だけは良いもんでね。なにわナンバーの車だな」
「ええ、そうですけど…」
恵はこのシルビアを大阪で知人から買ったのだ。
そして、本山から恵に変わった質問が。
「でも…あんたはなにわナンバーなのに、俺を馬鹿にしないのか?」
「え、何でですか…?」
「俺、学生時代に「トロトロ走ってるおもたら東北の人間か」と、「なにわ」ナンバーの走り屋からバカにされたんだよ。
何でだよ、俺は何もしていないんだ。なのに何で…」
そんな本山に、恵は諭すように話しかけた。
「お気持ちは判りますが…でも、大阪の人間でも良い人はたくさん居ます。大阪の人間全員がそうではありません」
「そうだな…。すまなかった。それじゃ、またな」
本山は自販機の方へと歩き去っていった。その後姿を見て、緒美はポツリと呟いた。
「1人の人間の影響で、イメージってのは変わるもんですね」
「そうね。私達も、気をつけなくちゃね」
「そうですね。では、C1に戻りましょうか」
2人の女はC1へ戻る為に、シルビアに乗り込んだ。