第2部第12話
「まさか、あそこのコーナリングで負けるとは思わなかった。狙っていたのか?」
予想もしないスパートで敗北を喫したアレイレル。
「ええ…抜くとしたら道幅の広いあそこあたりかなと思って、あそこのコーナリングで負けないようにタイヤを温存してね」
その言葉にアレイレルはフッと笑った。
「そうか。なら…いい。新環状は厳しいと思うが、頑張れよ」
新環状線は厳しい。パワーの差が今まで以上にありすぎる。
ランサーばかりのチームやインプレッサばかりのチーム、GT−Rばかりのチームになんてとても太刀打ちできない。
さすがにZ31では厳しい。これ以上のパワーアップをしても無駄だろう、と思い、乗り換えを決意する。
現在の資金はアレイレルから受け取った250万に、まだ少しだけ残っていた貯金を足して…280万。
Z31は京介のショップでノーマルパーツをかき集めてノーマルに戻し、余ったパーツは売りまくる。
シートやステアリングなどは売らずに残し、手元に残った金は330万になった。
その後中古車雑誌を見ていると、1台の車が目に入った。
(40万かぁ…。でもZ31よりパワーがありそうだし…どうだろ? やってみるか)
その中古車屋に早速出向き、京介と一緒に状態を確認。
「目立った傷や汚れは無しか…走行距離が9万キロ…相当ガタが来てるな。1からパーツを全部取り替えないとダメだな」
もしこの車を買ったとして、今の貯金が全て吹っ飛んでも良いというならチューンするが」
「そのつもりですよ」
緒美は即答した。その車を購入し、京介のショップに持って行って金を渡す。
車を買って残った金は、諸経費やら何やらで総額50万円を差し引き、残り280万。
パーツなども取り寄せる間、まずはノーマルで試走。
(Z31より安定感がある。車高は同じくらいかな…でも、ローダウン無しでこれくらいだったら運転しにくいわね…)
ノーマルなので攻めきることは出来ないが、かなりのハイペースで駆け抜ける。
そして3日後。パーツが届きチューニング開始。だが京介は車の下に潜り込み、頭を抱えた。
「忘れてた…この車、エキマニから下全部交換するとめんどくさいんだよなぁ」
メチャクチャ時間がかかりそうだなぁ、と思いつつ、レンチを手に取って作業を進める。その日数実に約5日。
めんどくさい。マジでめんどくさい。他に予約の客がいなかったのが幸いしたが…。
(ああ〜〜〜〜〜〜めんどくせえっ!!)
しかし引き受けてしまった以上は、最後までしっかり、きちんとやるというのがプロたる者。
複雑な構造と悪戦苦闘しながらも、何とか一通りのチューニングはすませた。
280万を使い、弄ったところはボディ、エンジン、足回りの強化、軽量化、エアロパーツ装着。最高出力は430馬力をたたき出す。
「わあ…凄い…。ありがとうございます」
「ここまで手がかかるとは思わなかった。俺…もう帰って寝る。少しエンジンをならしてから全開走行してくれよ」
京介はそう言い残し、肩を叩きながらマスタングで走り去っていった。
早速首都高に繰り出し、100キロで走りながら加速を確かめる。
何周も何周も新環状線を周り、体感したのはまず低速からスムーズに加速するそのトルク。
それでいてコーナーでも安定感がある。
(良いね…これならあの4WD軍団にも負けない!)
何日もかけて慣らし運転をした後、アクセル全開にして走る。
すると後ろから、1台の黄色いGTOが接近してパッシングしてくる。
(丁度良いわ。前哨戦って奴かしらね!)
緒美はハザードを出してバトルを受ける。だがそのGTO、やたら加速がいい。
(GTO…は、こっちよりもトルクあるからね…仕方ないね)
アクセルを踏み込んでGTOにくらいつく緒美。FRでハイパワーともなれば、むやみやたらにアクセル踏んでも加速しない。
じわりじわりとアクセルを踏み込み、台場から湾岸線に合流。
しかし向こうのGTOはどうやら、加速重視のセッティングだったようで、途中からスピードが伸びなくなってきた。
こっちの車はやや最高速を重視しているようなので、ストレートで抜くことに成功。
そのまま大きく回りこむ左コーナーを抜け、バックミラーを見るともうそこにGTOは映っていなかった。
テストバトルを終え、近くのパーキングへと車を滑り込ませる。
存分にこの車の性能は発揮できた。後はあの3チームを潰すだけだ。
と、その時轟音を響かせてさっきのGTOが入ってきた。
そしてそこから降りてきたのは何と和服を着た男。
(え…?)
まさかあれで運転してきたのか、と思いつつ、思い切って話しかけてみる。
「あ、あの…」
「ん? 何でしょう?」
礼儀正しい人だ。落ち着きと気品がある。髪の色はオレンジに黄緑と凄いことになっているが。
「あの…その姿で、このGTOを運転してきたんですか?」
「ええ、そうです。何かおかしいですか?」
(やっぱり変な人だった…)
男は森山(もりやま)と名乗った。
「私は文筆家をやっておりまして。あなたのその車…2台目ですか?」
「いいえ…これは3台目ですね」
「失礼致しました。何となく走り慣れていないように見えましたが、それにしてはコーナーの突っ込みが
素晴らしかったもので。もしかしたらマシンを乗り換えたばかりなのかな、と思いまして」
観察力があるなぁ、とまた関心。
「ええ…あの、和服で運転してて辛くないですか?」
「平気です。和服は日本人の心。落ち着くにはこの格好が一番です。…そうだ、今のマシンは空力的に良いマシンですね。
最高速では大きな武器になりますよ。ただ排熱が悪いので、冷却系のチューンは怠らない方が良いですね」
「あ、ありがとうございます…」
確かにこのマシンはそう言うものだ。湾岸線や横羽線では、ボディ形状が有利な武器になりそうだ。
「それでは、私はこれで失礼いたします。これからも頑張ってください」
「はい、ありがとうございました」
深々とお辞儀をし、走り去っていくGTOを見つめる緒美。
そして再度、自分の車に乗り込んで新環状線左回りへ。
早速ランエボチームの1台を発見。バトルを仕掛けてみる。
(果たしてどうかな?)
アクセルを踏み込んで加速。ダッシュでは負けるが、中間のスピードの伸びがZ31とは違う。
あっさりと湾岸線の部分でランエボを追い抜き、引き離して勝利した。
同じ400馬力でも違うものだなぁ、と実感。
その後もGT−R、インプレッサを見つけては次々に撃破する。
途中で何か、やたらブロックしたり急ブレーキかけてくる黄色いランエボ8がいたが、クラッシュさせて終了させた。