第2部第11話
ユウウツな天使と決着をつけ、東京に戻ってきた緒美。4日残った有給を返上し、またバイトの日々が始まった。
首都高に行く前に京介に事情を話し、名古屋で勝ち取った金50万を使ってZをチューニング。
そのまま首都高第2部がスタートした。
出会うチームが一変し、車もハイパワー、高性能な車種が多くなった。新たに湾岸線、横羽線、横浜環状線が走れるようになった。
とりあえずまずは環状線のチームから撃破していく。
正義気取りのR34のチームに、伝統のある環状線のチーム、スバル車だけのチームに、軽自動車だけのチーム。
それぞれ苦戦もしたし、負けもした。
それでもあきらめずに腕を磨き、チューンとセッティングを繰り返して、何日もかけて何とか勝利した。
もう倒すチームはいないなぁ、と思い環状線から新環状線へ向かおうと思ったが、PAで1人の男に声をかけられた。
何と外人。しかも銀髪で、ガタイがいい。
「あんた…か? ここらを荒らしまわっているという、Z31のドライバーは」
しかも日本語がぺらぺらである。
緒美は恋愛にはこれといって興味がないが、それでも素直にかっこいいと関心。
「はい、私のことです」
「正直だな。…そうだ、紹介が遅れたな。俺はアレイレル・エスイトクス。ここででかい顔されるのは正直、腹が立つ。バトルしてもらうぞ」
「いいでしょう、受けて立ちますよ。私は山下緒美。始めましょう」
コースは環状線外回りを1周。アレイレル先行、緒美後追いだ。
アレイレルの車は、TRDエアロがついた緑の80スープラ。
本線に合流しバトルスタート。
芝公園からスタートした2台は、まず連続S字を抜けて霞ヶ関トンネルへ。しかしストレートでのパワーが違いすぎる。
一応400馬力までパワーアップさせ、さらに軽量化もしたZ31ではあるが、それでもスープラの方が速い。
多分500馬力は出ているだろう。
(速い! コーナーも…うまい!)
コーナーも、スープラの重さを感じさせないコーナリングで駆け抜けるアレイレル。
クールな性格で、めったに動揺しない鋼鉄の心臓を持つことから、彼は「スティールハート」と呼ばれているのだ。
冷静に相手の実力を見極め、少しでも隙があれば容赦なく抜きにかかる。
先行でも油断することがない。
(プレッシャーをかけても駄目ね…)
コーナーで追いつき、突っ込みからコーナリング、立ち上がりの一瞬までテールトゥノーズで揺さぶりをかける。
バンパーも少しつついてみるが、まるで効果なし。
(だったら…同じFRだし、条件は同じよね)
千代田トンネルを抜け、連続高速コーナーに突入する。
ここの右コーナーで、今度はさっきよりも強くバンパープッシュ。体制を一瞬崩させ、その間に前に出る緒美。
この追い抜き方はレースでもよく使われる。
相手のインに飛び込み、半ば強引にぶつけながらでも前へ。そうでもしなければ前など取れないのだ。
(その抜き方をしてくるとは。レースをやっているようには見えなかったが…だが、まだ半分だ)
前を取られたアレイレルではあるが、スープラのパワーを生かして緒美にテールトゥノーズ。
プレッシャーのかけ方も緒美とは比べ物にならないくらいすさまじい。
(く…危険ね!)
バックミラーをひっくり返し、サイドミラーも折りたたむ。
空気抵抗が少し減るが、それよりもプレッシャーをかけられているのをこれ以上認めたくなかったからだ。
銀座のストレートで抜きにかかるアレイレルだが、予想もしないところでブロックされる。緒美は自分のラインしか見ていない。
(さっきミラーを折りたたんだということは、バックミラーも…)
だが、彼にとっては動揺するようなことでもない。どこで抜くか追い抜きのパターンを考える。
(汐留S字なら道幅も広いし、立ち上がりで抜いてそのままゴールだ)
一旦緒美のZ31から距離を置き、自分のリズムを作る。
そしてトンネルの出口からぐっと加速し、Z31の横に並びかけてコーナリング。
…が。
(……!?)
緒美の突っ込みスピードが自分と変わらない…いや、それ以上だ。
実は、彼女はここでスパートをかけ始めた。
遅すぎるスパートだったが、散々ブロックして粘ってきて、ここに来てスパートをかける。
アレイレルはその緒美のスパートのせいで前に出ることができず、逆にコーナリングで引き離されてしまう。
その後、スープラをブロックしたまま環状線への右コーナーを曲がり、緒美が先にゴールしたのであった。