第1部第3話


翌日、S14を探してC1外回りにやってきた京介。

緑ということで、見つけやすい…かと思いきや、PAには居ない。

(走ってるのかな? 探してみるか)


ローレルに乗って外回りに繰り出してみる。コーナリングの練習もかねて少し攻めてみる。

が、何だかグリップしない。

(カーブの途中で変な挙動が出るな。タイヤかな?)


実は、タイヤがノーマルのままなので踏ん張りが利かない。

(タイヤなんて今まで気にしてなかったが、これは交換した方がいいか)



すると、ふとバックミラーを覗いた京介の目に、軽いスキール音を響かせながら近づいて来る1台のマシンが。

(あ…緑のS14? こいつか)

お目当てのマシンが目の前に現れた。ニスモエアロのS14。

でも音がターボの音じゃない。NAだ。

(よし、仕掛けてみるか)

京介は合図にパッシングをしてみる。


すると、S14はハザードを点滅させる。

(ん? 停まるのか?)

そう思いアクセルを抜く京介だが、突然S14がハザードを消して加速しはじめた。

(なっ!? と、とりあえず追いかけてみっか)



京介も加速し、S14を追走。

銀座の分離帯2連発を抜け、その先のS字までの直線で一気にパワーで追い付いた。

(このままインから…!)


しかし、S14はとんでもない進入スピードから勢いよくテールを振り出し、そのままドリフトに移行。

何と詰めていた差が広まってしまった。


(うわ、あいつカーブ速いな!?)

京介も何とか食らいついていく…が、直線で差を詰めてもコーナリングで巻き返される。

しかもここはコーナーが多い環状線。

コーナリングがあまり得意ではない京介に取っては、苦しいバトルだ。


(前に出るには…どうする?)

京介は考える。勝っているのは直線のスピード。だとすれば、勝負できるのは直線しかない。

(よし…なら、直線で勝負だ!)

汐留S字を抜けてC1外回りへ。

コーナリングはとにかく相手に離されてもいいから、しっかり曲がって早めにアクセルを踏む。

こうすることで、直線のスピードを稼ぐ。



芝公園の2連続S字では離される。その次の下り坂から、すぐ後に来る右コーナーでも離される。

だがその後に来るのは、コーナーとは言えないくらいの高速コーナー。

ここで一気に差を縮めて、京介はS14を追い抜く!

(よっしゃあ!)

直線で一気に差を広げ、そのままきついコーナリングが必要ないところまでぶっちぎる。

ミラーを見れば、S14はもう映っていなかった。




銀座付近で降り、近くの路肩で停まる。すると、後ろからS14の排気音が聞こえてきた。

京介が振り返って見ると、さっきのS14だ。

そのS14はローレルの後ろで停車し、中からドライバーが降りてきた。


「速いんだな、君」

中から降りてきたのは燃えるような赤髪に、青い目が特徴的な男。

若干顔にしわがある。


「ど…どうも。あなたも結構速いですね。特にカーブが」

「あー、俺は今の現状意地が精一杯だ。もう若くないしな。…そうだ、紹介が遅れたな。谷本 仁史(たにもと ひとし)という者だ」

「宝条京介です」

「そうか…君は若いな。失礼だが年齢を聞いても良いかな?」

「23歳です」

「なるほど。俺は君より10も上だ」


コーナリングが苦手な自分、その自分に対して、コーナリングが上手いこの仁史という男。

京介は1つ頼み事をしてみた。

「あ…あの、谷本さん」

「何だ?」

「ええと…俺、コーナリングが苦手なんです。コーナリングを教えてもらえませんか?」


その京介の言葉に、仁史は目を見開いた。

「お、俺が!? まいったなぁ…あまり自信ないし、こんな自分で良いんなら、だけど…」

「お願いします! 俺、速くなりたいんです!」

「うーん…分かったよ。じゃあ暇な時に連絡するから、携帯の番号を教えてもらえるかな?」

「はい」



携帯の番号を交換し合い、その日京介は帰路についた。

これからどうなっていくのかは分からないが、今はただあのスカイラインと走ることだけを目標に走り続けよう。

いろいろなライバルと戦うことをしていれば、きっと会えるはずだから。





2日おきに京介はコーナリングの練習をする。

仁史は警備員をしており、3日に1回は非番なのでその日はコーナリングの練習に回してもらえる。

「まだだぞ…よし、ここでブレーキ!」

京介はタイミング通りにブレーキング。同じく仁史から教えてもらったヒール&トゥでコーナリング。

実はヒール&トゥが分からなかったので、仁史に教えてもらったのである。


「まだぎこちないな。ヒール&トゥの時には踏力が抜けないようにするんだ」

「はい」

「足に力を込めて、シートで踏ん張ってみろ。これだけでも、コーナー前の安定感は変わるはずだ」

軽快にアクセルを煽ってターンイン。


日を追うごとにだんだんと慣れていく京介。

元々バイクに乗っていただけあって、スピードに対する適応能力は高いのだろうか?

その勢いでいろいろなチームともバトルしたりもした。



そんなある日。京介は仁史から気になる話を聞いた。

「京介、お前、サーティンデビルズに目を付けられているみたいだな」

「なんすか…そのサーティンデビルズって?」

「この首都高で速い奴らだけが集まったチームだ。総勢14人。13人を従えているリーダーは「迅帝」と言うんだ。

暑い夜にこの首都高サーキットに現れ、あっという間に制覇したという奴でな。しかもまだ20代そこそこという噂だ」

「へえ、おもしろそうじゃないですか」

「なめちゃいけないぜ。今までバトルしてきたチームの奴らとは格が違う。まず車のチューンが凄い。

そこで、だ。バトルで勝ったら京介は金をもらっているよな?」


そう、実は京介、賭けバトルで日々の生活費を稼いでいるのだ。負ければ大損、勝てば生活できるという。

「ええ…負けた時もありましたね。幸い掛け金が少なかったから良かったですが」

「ほどほどにな…。それでその13鬼将は賭け金もハンパじゃないぞ。今度ばかりはやめておいた方が無難かもな」



しかし京介は首を横に振った。

「…俺は逃げませんよ」

「おいおい…無茶だぞ。どうしてもやめないというなら無理に止めはしないがな」

「はい、そのために必要なことも考えてます」

「ほう? 何をだ?」

「車をチューンしようと思います」

「ふんふん、それでどこをチューンするんだ?」


「タイヤの踏ん張りが甘いんで、できるだけハイグリップなタイヤを履こうと思います。

それからこのサスはスポーツサスなんで、少しだけ車高を下げて、直線の安定性も確保しようかと」

「うーん、まぁいいけど、あまり車高を下げすぎるとコーナリングが今まで以上に不安定になるし、踏ん張りも効かなくなるから気をつけろよ。

それからタイヤだけど、あまりハイグリップ過ぎるのを履くと、長いバトルに耐えられなくなる。そこを考えて買った方が良いな」

「はい」


と言うわけで、早速その日からチューンに取りかかる京介。ZKのメンテナンスはこれでも自分でしていたため、

ディーラーから整備解説書を取り寄せてバイクと同じようにばらしてみる。

わからなくなりそうなところはカメラで写真を撮っておく。


整備解説書を取り寄せるだけでも3週間はかかり、その間はチューンする前のローレルで、

賭けバトルで生活費を稼いでいた。


乱鬼龍の車に詳しい奴にも手伝ってもらい、解説書を取り寄せた時間を含め、

1ヶ月かかってようやくチューニングが完了した。




ローレルをチューンして、C1に繰り出す京介。タイヤとブレーキをバトルの賞金ででかくして初めての走行。

前よりも良く止まるようになったし、コーナリングも安定するようになった。

(エアロがないが、前よりは大分安定するようになった。良い感じだ)

少し攻めてもその違いがはっきりわかる。若干リアのふらつきは残るが、突っ込みのスピードを今までより高めて行ける。


と、快調に飛ばしていた京介の後方から迫るヘッドライトが。

(んん? 何か速いのが2台来てる)

バックミラーを覗けば、そこには黄色い車と暗い青の車が。京介はあまり4輪には詳しくない。

しかもその2台はローレルにパッシングしてきた。

(やる気か? 上等だ、受けて立ってやる!)


ハザードを出して少し点滅させ、消してフルスロットル! だが2台もピッタリくっついてくる。

それどころかストレートで抜かれた。その車は…。

(ん? あれは確か日産のシルエイティと、フェアレディZだったかな?)


見たことない、しかも2台相手にバトルは初めて。

それに加え、この2台ストレートがやたら速い。ローレルはタービン交換仕様だというのに、ぐいぐい引き離されて行く。

(速いな!? くそ、ならコーナリングで勝負だ!)

仁史から習ったコーナリングで、京介は勝負をかけることに。今走っているのは内回り。

スピードが乗りにくいのでなんとか引き離されてはいない。



京介は後ろから2台を観察してみる。

(なんか、過剰にコーナリングする時にブレーキを踏むなぁ? ここで着いて行けるといいがな)

赤坂ストレートを抜け、前の2台より少しブレーキングを遅くする。すると、一気に食いつく事が出来た!


(よし…これからは俺のターンだ!)

そこから決着までは早かった。その先にある芝公園の連続S字までに、シルエイティに食い付いてパス。

芝公園の連続S字で、コーナリングで流されたZをパスして決着した。


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