第2部第6話


緒美は首都高を降りる。瑞穂と竜介もそれについてきて停車する。

「僕としたことが…アンダー出してもたつくとは」

RX−7から降りてきた瑞穂は、ぽつりと呟いた。


「後ろから見てたんだがな、何かそのRX−7…セッティング変だぞ。アライメントが少しずれてると思うから、所々で変なアンダーが出てる」

「そうか…。わかる人にはわかるんだな。僕もまだまだか」

「だが、緒美よりはうまい。同じロードスターなら君の方がな」

「わかった。僕はしばらく別の場所で腕を磨いてくる。大阪、名古屋高速もサーキットになったって話だからな。それじゃ」

瑞穂はRX−7に乗って去っていった。


「ふう…よく勝てたな、あのRX−7に。ついて行ければいいと思ってはいたんだが」

素直に、緒美が勝ったことに感心している様子の竜介。

「え、ええ…もたついたんで、これは一気に行かなきゃいけないかなって思って」

「それはいい判断だ。さ、今日はこれで帰るぞ。ロードスターを改造しなければいけないからな」




翌日からさらなる走り込みと、ロードスターの改造が始まる。

軽量化、エンジン、足回り、ボディの強化をして格上のマシンにも対抗できるようにする。ロードスターはコーナリングが武器なので、

曲げやすいセッティングを竜介が施す。

それを緒美が走り込んで、メカの知識も覚えつつセットアップするといった具合だ。


環状線のチームにはハチロクだけのチームや、シルビアだけのチーム、セダンばかりのチームなどさまざまなチームが混在している。

それをロードスターで勝ち抜いていくのだ。

「よし、走り込むぞ。俺はもうすぐラリーのシーズンだ。緒美に教えるのは後2週間ちょっとが限界ってところだな」

「宜しくお願いします!」



いつものように環状線へ向かい、バトルにもだんだん勝てるようになってきた緒美は次々にバトルを挑んでいく。

ロードスターの戦闘力も上がり、コーナリングの技術も竜介譲りのテクニックで上がっていく。

「なかなか上手いぞ。緒美は気が強くて度胸があるからな。バトルでは大きな武器になる」

「何かそれ、褒めてるんだか、褒めて無いんだか…」

「褒めてる褒めてる」


ローリングガイ、ファインドライブ、マックスレーシングなど次々にチームを撃破していく緒美。

その中でローリングガイのリーダーから気になる話を聞いた。

「緒美ちゃん、あの…俺のハチロクに乗ってみてくれないか?」

「え…ええ?」

いきなり人の車に乗れと? 何でまた…と思いつつ、断る理由は無いので、とりあえずハチロクに乗って外回りを走ることに。

リーダーの車はハチロクの3ドアトレノ。かなり速い。


そして外回りを走って少しした頃、このハチロクに乗らせた訳が語られる。

「実は緒美ちゃんを乗せたのは、訳があるんだ。俺の兄貴がここをたまに走ってるんだが、

俺のチームのハチロクを見かけると、バトルを挑んでくるんでな。兄貴とどっちが速いのか、見てみたいと思って」

とんでも無い理由。

「そ、それって私にこのハチロクでバトルしろ・・と?」

「そうそう。別にぶつけても良いから、ガンガン攻め込んでくれ。・・・おっと、噂をすれば・・か」


リーダーの視線の先には赤いハチロクレビン。

「ああ、言っておくけど俺の兄貴、プロのレーサーだから」

「え、レーサー…?」

とんでも無い発言をしまくるこのリーダー。頭のネジがどっか吹っ飛んでると緒美は心底思う。

そんな奴に勝てるわけがないと無難に通り過ぎようとしたが、トレノにパッシングして追いかけてくるレビン…。

(なんで…うわああああああああ!!)



緒美は心の中で叫びつつ、良い経験になるかもしれないとも思い、バトルを受けてみる。

加速は同じくらいだが、コーナリングはレビンが速い。

(どうすればいい…! コーナーだらけのこの環状線で…そうだ! 銀座線!!)

何かを思い出したのか、必死にブロックしながら銀座線まで持ちこたえようとした緒美。


しかしその必要はなかった。千代田トンネル後の、連続高速アップダウンコーナーを抜けて

バックミラーを見ると、そこにはレビンの姿は映っていなかった。

もっとも、リーダーが「あっ」と声を上げたのも1つの原因だったが。

「ど、どうしたの…?」

「兄貴、スピンしてた…」

何とこの瞬間、相手のミスとはいえプロのレーサーに勝ってしまった緒美。



パーキングに戻り竜介に報告する。

「スピンしたんだって? 相手が?」

「ええ。レーサーがスピンって…珍しいですよね」

しかし、それに対して竜介は否定する。

「いや…俺もラリーやってる時はよくコースアウトしたり、スピンはする。人間である限り、ミスが無い奴なんていない」


その時、パーキングにレビンが入ってくるのが見えた。

緒美と竜介は停車したレビンに駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」


ドアを開けて降りてきたのは、茶髪に碧眼の青年だった。

「あれ、君は…? ってか、弟は?」

「弟さんならあそこに…。あ、あなたさっきスピンしてましたけど…」

「ああ、俺なら大丈夫」

そう言って弟のところへ向かう青年。だが何か話をしたかと思うと、再度緒美に向かって歩いてきた。


「あのハチロク、君が運転していたのか?」

「え、ええそうです」

すると、青年は驚きの表情を浮かべた。

「女でもあそこまで速いとは…荒削りだがあのハチロクをよくあそこまで…感心するよ」

「女でもって…車に乗ったら女も男も関係ないと思いますけど」

「はは、すまんすまん」




しかし次の瞬間、竜介を見た青年は驚きの声を上げた。

「……あああああああああーーーーーーーー!?」

うるささに思わず耳を塞ぐ緒美。

「な、何なんですか?」


しかしそんな緒美を気にもとめず、2人はお互いを確認し合う。

「あなたは国内ラリーで活躍してる、野上竜介選手ですよね!」

「俺よりあんたの方が有名だろ。プロレーサーの山本 俊明(やまもと としあき)君?」


青年の名前は山本というらしい。

しかしそのレーサーの俊明でも驚く相手が、先輩だったとは…。

「この人はF1のシートも期待されてるという、山本俊明ってレーシングドライバーだ。本当に緒美が勝ったのか?」

「ええ…俺、リアタイヤ交換するのうっかり忘れてて、それでオーバーが出ましてね」


ともかくプロのレーサーにまぐれとはいえ、勝てた緒美。

そんな緒美に、今日一番のビックリ発言が。

「今年、シーズン確かかぶってなかったよな?」

「ええ、確か」

「ならこいつにさ、ドラテク教えてやってくれないか?」

「え? ええまぁ…俺は別に構いませんけど…」



それに一番ビックリしているのは緒美と弟である。

「え、いやいやいやいやご迷惑でしょ!! レーサーの方に教えてもらうなんて…」

「というか俺らはどうなるんだよ! 俺らローリングガイのメンバーは!」

「お前らにもちゃんと教えるよ」


というわけで、とんとん拍子に凄いことになっていく緒美の日常であった。


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