第2部第5話
「3,2,1、GO!」
竜介の手が振り下ろされ、ロードスターとRX−7がスタートしていった。最初はうまくクラッチをつないだ瑞穂のRX−7が先行する。
その後を追って、竜介がインプレッサをスタートさせた。
(特等席で観戦…と)
基本的にパワーが段違いの上に4WDなので、らくらく追いついていける。
(竜介先輩ついてきてる…これは負けられないわね!)
バックミラーでインプレッサがついてきているのを見た緒美は、ハンドルをしっかり握り締めてRX−7を追いかける。
前を走る白のRX−7を見つめつつ、環状線のバトルがスタートした。
瑞穂のRX−7は、エンジンはライトチューンだが、足回りは強力なブレーキを入れてサスも変えてある。
緒美のロードスターはマフラーとサスが変わっている。どちらも竜介がつけたものだ。
スペックだけ見れば、瑞穂のRX−7が有利である。
(先行逃げ切りを狙って行こう…)
江戸橋のコーナーの先からは高速アップダウンのコーナーが連続する。2台はそこからスタートだ。
最初は高速区間だけあり、RX−7がじりじりとロードスターを引き離す。
(速い…けど…ついていけないわけじゃなさそう)
コーナリング速度では負けていないが、パワーの差が出ている。これを巻き返すにはどうするか?コーナリングしかない。
ロードスターの武器はRX−7より軽い車重にある。そのおかげでコーナーは若干緒美が速い。高速区間では負ける。
しかしこれから先の赤坂ストレートまではフラットでテクニカルな区間。
ここから緒美の巻き返しが始まる。
(パワーの差はあるにしても、あのRX−7相手なら今の緒美でも十分に勝てるな。RX−7は所々アンダーっぽい挙動が
顔を覗かせる。下手ではないんだが、ツメが甘い。そこを緒美が赤坂までに見抜けるかどうかだ)
竜介はもう瑞穂の弱点を見抜いていた。さすが現役のラリードライバーだけのことはある。
そんな竜介の考えをよそに、バトルは千代田トンネルへ。
ここの入り口は下りながらの左コーナーになっており、きつめの部類に入る。瑞穂はややアンダーを出しつつコーナリング。
だが緒美は少しブレーキを遅らせ、一気に瑞穂に食らいつく。
(追いついてきたな。だがパワー的には、こっちが有利だ)
瑞穂はこのまま逃げ切れる、と確信してRX−7を加速させる。しかし瑞穂はこの時、大きなミスを犯していた。
千代田トンネルを出て霞ヶ関トンネルへ。
入り口の大きな高速右コーナー。ここで瑞穂はターンインするが、フロントタイヤのグリップが効かない。
あわててコーナリングスピードを抑え、クラッシュから逃れた。
(…何故だ…? ブレーキのタイミングも、進入もばっちりだったはずなのに…)
そう、タイミングはばっちりだった。
だが…車の状態が悪くなっているのだ。
ここで、緒美との差が1車身縮まる。
(差がつまった…?)
高速区間で無意識の内に飛ばしていた瑞穂。それがタイヤに大きな負担をかけていた。ブレーキがいくら効いても、
タイヤがへたってきては加速しないし、ブレーキングだって不安定になる。
緒美は感じていた。
勝負は今だ。このチャンスを逃さない手はない。
(カーブで向こうの車がふくらむようになってきた…なら、こっちにも絶対にチャンスはある!)
食らいついてきてはいたが、さっきの突っ込み以外は丁寧な運転をしていた緒美。タイヤはまだいける。
(緒美、チャンスだ!)
竜介も心の中でエールを送る。
そのエールに応えるかのように、赤坂ストレート前の右コーナーでもたつくRX−7を、緒美はインから少々強引にパス。
(抜かれた!?)
赤坂ストレートを、緒美のロードスターが先に駆け抜けていった。