第2部第4話
首都高速道路。ここは新しい首都高の開通により使われなくなったため、
政府がモータースポーツ振興のためにサーキットとして生まれ変わらせた。
緒美と京介がやってきたのは環状線。
テクニカルなコーナーが続き、ここの内回りならロードスターでも十分勝負できる。
「よし、まずはこの内回りを1周するんだ。もちろん全開でな」
竜介に指示され、緒美はコースに飛び出して行く。
ロードスターはノーマルなのでスピードが上がらないが、それでもターンパイクよりはスピードが乗っている。
「よし、ブレーキは今だ!」
ブレーキのポイントも早めにしなければいけない。
(スピードが速い! 目がついて行かない!)
緒美は戸惑いつつも今の自分にできる精一杯の走りをする。
そしてようやく1本走り終えた。
「ぎこちないんだけど、前から比べたら良くなってる。今度はここを走りこめ。だが間違っても粋がるなよ」
てな訳で、翌日から緒美は環状線を走り込むことに。
ターンパイクよりコースは覚えやすいが、他の走行している走り屋もいるため気をつけて攻めて行く。
(なんだかやけに地面がでこぼこね。そういうものなのかしら?)
実際この環状線、路面はつぎはぎだらけで合流もメチャクチャ。だが湾岸線や新環状と違って、腕を磨きやすいのも事実だ。
(とにかく、やれるだけやってみるしかないでしょ!)
緒美は深呼吸をし、さらにアクセルを踏み込んだ。
そして1ヶ月後。
(な、何か顔つきが少し変わってないか?)
この前より明らかにキリっとした表情。
それを見た竜介は緒美に、今日は一緒に走ってみようと持ちかけた。
「徐々にペース上げていくから、着いてこれないと思ったらパッシングしてくれ」
「わかりました!」
元気よく返事をし、環状線1周先導走行が始まった。
竜介のインプレッサが先行。緒美のロードスターが後から着いて行く。
(さて、お手並み拝見だ)
ストレートではアクセルを緩め、緒美がついてこれる距離を保って走る。緒美はそれはもう必死で食らいついていく。
ロードスターは突っ込みのスピードを高め、そこで食いつく。
(行ける所まで行くしかない!でも竜介先輩、さすがに速い!)
竜介を見失わないようにロードスターをプッシュする。ストレートでは待ってくれるし、コーナーでも若干ペースを落としてくれている。
一定の間隔を置いてついてこれるようあわせてくれているのだ。
(くっ、これはきついわね…)
それでもこれは、緒美自身が今まで体験したことのないスピード領域。
それに伴い首都高の恐ろしさが現れ始めた。
峠道とは違って、この首都高サーキットは走っている他の走り屋も大勢いる。
ターンパイクを攻めていたころは、他の車がめったに通らなかったので
気にする必要はなかったが、今回はそうはいかない。
ここではその他の車が、いろいろなラインを走っているのでアウト・イン・アウトが通用せず、
イン・イン・インで走らなければならなかったり、また当然その逆もあったりする。
さらに、首都高が公道であったころのように、落下物や砂や砂利などはオフィシャルがこまめに掃除してくれるので
気にする必要はなくなったが、それでも路面はガタガタで走りにくい。
サスペンションが古いロードスターにとっては、インプレッサよりも路面の凹凸をダイレクトに受けるので、ハンドルが取られやすい。
(きゃあっ! もう、走りにくいわね! ガタガタで…腰が痛い!)
それでもハンドルを握って、しっかり竜介についていく緒美。
(きちんと…ついてきているか?)
ミラーで確認すれば、荒削りながらも、何とか見える位置で食いついてきているロードスターが。
(ふむ。荒いがこのスピードについてこれるのか)
竜介は実力の4割も出していないが、それでも結構速い。緒美はこのスピードにきちんとついてきている。
(だが、まだまだやらなければならないことはたくさんある)
サーキットを降り、近くの路肩で停車。
「まずはとりあえず合格だ。最後まで見失わないようについてこれたからな。俺もラリーのシーズンで忙しいから、
これるときはきちんとこれるようにする。じゃ、今日はこれまでだ」
竜介はインプレッサに乗って帰っていった。
(竜介先輩についていけた…ついていけたんだ!)
緒美は嬉しさの余り、竜介のインプレッサが視界から消えたのを見届け、ガッツポーズをした。
それからラリーのない日は、ほとんど竜介が付きっきりで緒美に走りのテクニックを教えていた。
ちょっとずつではあるが、緒美は確実に上達していく。
そんなある日、首都高に行くと1人の男が話しかけてきた。
「女性の走り屋とは珍しいですね…」
「あ…は、はい?」
話しかけてきたのは茶髪に、青色の目をした男。
「何だ…あんた」
「僕は早瀬 瑞穂(はやせ みずほ)って言うんですが、良かったらバトルしませんか?」
「ば、バトルですか?」
緒美は竜介をちらり、と見たが、竜介は無反応。
「は、はい、いいですよ」
「ならこのC1内回りで勝負です。このパーキングからスタートして、先にある赤坂ストレートを抜けたところでゴールで」
「わかりました」
竜介は相手の車を見る。FC3S…旧型の、白いマツダRX−7だ。
「よし、なら始めましょう。カウントお願いします」
「わかった」