第2部第3話
緒美が練習を始めて1ヶ月後。ここで竜介は、緒美を峠へ連れ出すことに。
だがまだ攻めることはしない。
緒美を箱根のターンパイクに連れて行った竜介、まずは頂上から40キロキープで下るよう指示。
「うわ〜、綺麗だな!」
景色を見ながら感動する緒美。
そして下まで下りきった時、竜介からこんな質問が。
「さて、質問。このターンパイク、7個目のコーナーはどんな感じのコーナー?」
「えっ?」
そんなこと考えずに走っていた緒美、もちろん答えられない。
「おいおい、俺はボーッと走れとは言ってねーぞ。峠を攻める上で一番重要なのはコースを覚えることだ。
ここはまだ比較的高速コースだからいいが、この前連れて行った長尾峠なんかコーナーだらけだ。…よし、もう一度行くぞ!」
という訳で、もう一度下りを走った緒美。しかしまたもや無理だった。
「まあ…いいや。これからは毎日とは言わないが、ガソリン代と相談してできるだけここを走りこめ。ただし、40キロキープだ!」
この2日後から、緒美は峠を走り込むようになった。
ただひたすらコースを覚えるために走って走って走りまくる。
竜介はちょうど国内ラリーのシーズンが始まってしまったので、これないのだ。
(あいつ…上手くやってるかな?)
そんなこんなで緒美の元に行ったのは1週間後。緒美は白のロードスターで竜介を出迎えた。
「おう。久しぶりだな」
「はい先輩。では早速行きましょう」
やけに自信満々だな・・と思いつつ、竜介はロードスターに乗り込む。
そのままターンパイクに到着して、緒美は下りを走り始めた。
(……迷いが無い。これは大体コースを覚えてきたな)
竜介は、この1週間で緒美が変わっていると実感するのだった。
「うん、大体良くなって来た」
「本当に!? ありがとうございます!」
しかしその時だった。いきなり緒美に1人の男が話しかけてきた。
「よぉ、こんなところでデートたぁ迷惑なことしてんな! 悪いが俺の遊び場で好き勝手されちゃ困るんだよ!」
しかもいきなり言いがかりと来た。
「おい、あんた…」
竜介は男をなだめようとしたが…。
「ああ!? 何だてめえ! ここはみんなのもんだ! お前1人の場所じゃねえ!」
(…あっちゃ〜、出たよ緒美の悪いクセ!)
緒美は高圧的な奴には、口が悪くなる。
「おー、こえー! 気の強い女は嫌いじゃないがな。だったら俺と勝負して、負けた方がここから永遠に去る、という条件でどうだ?」
いきなりバトルの申し込み。竜介は、緒美にはまだ早いと判断して、止めさせようとしたが…。
「いいわよ! やってやろうじゃない!」
竜介が心の中で、がっくりとなったのは言うまでもない。
「勝負は下り1本だ。俺が先行する」
相手は白のR33GT−R。
「緒美、これは分が悪い! 俺が代わりに…」
「負けるわけないじゃない…」
「もう…いいか」
諦めて竜介はロードスターのナビへ。そしてR33が加速し始めたのを見て、緒美もスタート。
勝負はあっけなく終わった。
R33とロードスターではパワーが違いすぎる上に、このターンパイクは箱根の中でもトップクラスの高速ステージ。
30秒もすればR33は、緒美の視界から消え去っていた。
竜介もナビシートからテクニックのアドバイスをしたが、ポテンシャルの違いだけはどうにもならない。
「ははっ! バーカ! そんなヘボイロードスターなんかで俺のGT−Rに挑んでくるんじゃねえよ! ……さて、約束だ。ここにはもう2度と来るんじゃねぇ!」
というわけで、この箱根ターンパイクから追い出されてしまった緒美であった。
「…緒美、お前はバトルにはまだ経験がない。負けたのは当然だ」
「………」
「それに知識も全然だ。あの車とこの車じゃあ、俺だってこのコースで勝てるか…いや、まず無理だ。今お前に必要なのはまず知識。それにテクニック」
「すいませんでした…私のせいで…」
「全くだぜ。…ったく、こうなったら首都高でも行ってみるか」
緒美はその言葉に耳を疑った。
「首都高って・・マジですか?」
「あのな、この箱根はもう走れないんだ! だったらサーキットに生まれ変わった首都高しかないだろう!」
「は…はい」
元々は自分が粋がってしまったのが原因。緒美はそのことを、凄い後悔するしかなかった。
「では…行きましょう」
緒美は竜介を隣に乗せ、ロードスターを首都高に向け発車させた。