第2部第2話
3ヶ月後。忙しいスケジュールの合間を縫って、緒美はやっと免許を取得した。
(やっと取れた…長かった!)
やっとの思いで免許を取得した緒美は、まず竜介の家へ。
「先輩! 免許取れました!」
「お、よくやったな! じゃあまずは、運転のトレーニングと行くか!」
という訳で、竜介のインプレッサで特訓が始まった。といってもいきなり峠を走るという訳ではなく、人気のない手頃な広場を見つけて車を停めた。
「よし、交代」
今度は緒美がインプレッサを運転することに。竜介はここで空き缶を取り出した。
「これを今から遠くに投げるから、前輪で踏むんだ。ただし、左右どっちかに曲がりながらな」
「曲がりながら?」
「そう。では…ほい!」
カラン、と音がして、空き缶が転がって止まった。
それを確認した緒美はインプレッサを発車させる。
「もう少し…もう少し…あれ?」
失敗した。感触が感じられなかった。
「もう一度だ。結構難しいだろう? これが1発でできるようになればいいんだがな」
緒美はその後3回挑戦して、ようやく成功した。
「よし、じゃあ時間も無いから今度は定常円だ」
竜介は緒美に、一定のスピードとハンドルの切る量を維持して走るよう指示。緒美は40キロで右いっぱいにハンドルを切って曲がって行く。
しかし、一定の操作を続けていると必ず気の緩みが出てくるもの。
「スピードが落ちて来てる」
「あ…は、はいっ!」
焦った緒美はいきなりアクセルをガバッと開けてしまった。それによりインプレッサはテールスライドを誘発する。
「う…うわっ!」
「きゃああっ!?」
今度も焦ってブレーキ。インプレッサはすぐさま急停止。
「ああびっくりした…! 何ごとも今みたいな急な操作は禁物だ。教習所でも習った筈だが、気を付けて行かないと事故起こさないとも限らないぜ?」
その言葉に緒美は思わず身震いした。自分の今の運転では、普通の道路上を走るのも危ないと悟ったからだ。
「交代。帰るぞ」
緒美は悔しさのあまり、帰る途中に竜介に気が付かれないように涙を拭った。
1週間後。緒美は仕事が終わった後に竜介と共に中古車を探していた。しかし免許を取ってしまった為に金がない。
「…予算はどのくらいだ?」
緒美は金額を正直に、竜介に答えた。
「え〜、10万位ですかね?」
それを聞いた竜介は、思わず口に含んでいたコーラを吹き出した。
「ぶはっ! ごほっ! …10万!? お前、それは少ないだろ! もっと多く見積りしておくべきだ!」
「そんな…何とかなりませんか?」
「なるとかならないとかそういうことじゃなくてさ…まぁ、解体屋にでも行けば?」
その言葉を信じて、緒美は竜介が帰った後に解体屋にやって来た。
しかし不気味だ。薄暗い上にカラスも鳴いている。
(ここか…)
中に入ると、無愛想そうなオヤジが1人。
「あっあの! すいません!」
「…なんだい嬢ちゃん。ここは危険だぞ?」
だが緒美はそれにかまわず続ける。
「車…売ってもらえると聞いて来てみたんです!」
その言葉にオヤジは目を丸くする。
「車? 欲しいの?」
「はい! スポーツカーが良いです。お願いします!」
「スポーツカー…? だったらこっち」
オヤジに連れて行かれた先には、1台の車が佇んでいた。
「これ。エンジンはバッチリ吹け上がるよ。5万でいいや!」
なんと予算の半額の、5万!
「ご、ごまん…ところで、この車は何と言う名前ですか?」
「これ? ユーノスロードスターってんだ。大切に乗ってくれ!」
「…で、このロードスター買ったって訳か? 何考えてんだ…」
「だってスポーツカーって言ったら、これを紹介されたんですよ?」
竜介は緒美の発言に、片手で頭を抑えた。
翌日から緒美は1人で、仕事が終わった後から特訓しはじめた。
仕事が終わっては友人の誘いもそこそこに、毎日帰る途中で広場によっては定常円。
たまに空き缶で練習もする。
こうして、緒美の毎日の夜は更けていくのであった。