第1部第20話(エピローグ)
(やってしまった…2度目)
またもやエンジンブロー。本当、沢村に申し訳ない。
沢村が手塩にかけたポルシェがゆっくりと、マフラーから白煙を出しながらスローダウンしていく。
仕方なく近くの待避所で緊急停止。
そのまま後ろからやってきた孝司のFDも、ポルシェの後ろに停車した。
「うわ…ブローしたか」
「ああ。フルブーストかけっぱなしであんたに食らいついていった。その結果がこれだ。最後あんたを抜いて、ブースト下げればよかったのかもしれないが…でも、もう遅いな」
エンジンフードを開けて、白煙が立ち上るエンジンルームをじっと見つめて、京介は一粒の涙を流した。
とりあえずここにいるわけにも行かないので、孝司のFDに牽引してもらって首都高サーキットから下りた。
「どうする? JAF呼ぶか?」
「いや、行きつけの店のオーナーに連絡して、このポルシェは引き取ってもらうよ」
そして一拍おいて、京介は孝司に呟いた。
「俺…これでもう引退するよ」
「何故だ? まだ若いだろ。それにせっかく、サーティーンデビルズも、俺らゾディアックも全員打ち破ったのに」
だが京介は、その孝司の疑問に、首を横に振って答える。
「勝つたびにエンジンブローを繰り返してしまうようなら、俺は走り屋失格だ。それもエンジンをきちんと補強してあるようなマシンをな。
それに俺…元族で、親にも沢山迷惑をかけてきた。これからはここで稼いだ金とメカの知識を元手に、きちんと就職する。
これ以上、親を悲しませるわけにも行かないからな」
その言葉に孝司は頷いた。
「そうか…なら俺は止めないさ。……そう言えば就職のあてならあるぞ?」
「えっ?」
意外な孝司の言葉に、京介の顔が呆然となる。
「東京にあるチューンショップで人材を募集している。行ってみろ」
「そうか…サンキューな。ポルシェだけじゃなく就職まで面倒見てもらって」
「良いって。それじゃな!」
孝司はFDに乗り込んで、そのまま夜の街へと消えていった。
2週間後。東京のチューニングショップで宝条京介は働き始めた。
仕事にはまだあまり慣れずに、怒られたりすることもよくある。しかし京介は歯を食いしばり、きちんと働いている。
更に新しく車も購入した。
アメリカのフォードマスタングの、マッハ1というマシンを沢村のツテで買って、休みの日中は乗り回している。
ただ首都高サーキットに乗っても、もうそこを攻めることは京介は無い。
走る方から造る方へと、日常が変化したのだから。
もう普通の人間に戻った京介が思う事は、ただ1つ。
今度は誰があの首都高で、新しいチャンプを名乗る事になるのだろうか…と。
第1部 完