第1部第19話
失意と怒りの中下道へ下り、走る。
と、路肩にさっきのFDが停まっているのを発見。思わずそのFDの後ろへ停車する京介。
ドライバーはドアに寄りかかっていた。
「あ…あの…」
「ん? …ああ、さっきのポルシェの? さっきはどうも」
「あ…どうも。もしかしてあなたは…十二覇聖のリーダーですか・・?」
その問いに、男は首をゆっくりと縦に振った。
「ああ。俺の名を知らない奴はいないからな。俺は市松 孝司(いちまつ こうじ)。俺は令次に負けて、ドラテクの特訓の為にアメリカに渡ってな…。
で、久々に日本に帰ってきたら令次が負けた…。倒したのはあんただな?」
京介も首を縦に振る。
「俺にとってはまさに「トンビに油揚げ」って奴だ。あいつはぽっと出の割に速いから、必ず倒してやろうって思って挑んだが、負けた。
それで特訓して再チャレンジって時に、おいしいところをあんたに持って行かれた。
だから…さっきのバトルは俺にとっては無し、ということだ。
バンパープッシュはほんの挨拶代わりさ。俺も去年まで最速といわれてたからには、あんたを負かす自信がある。ターゲットはあんただ」
それを聞いた京介は、首を横に振った。
「どんな理由があろうと、さっきのバトルは負けだ。俺の油断が招いた結果だ。でも、そう言う話の流れなら、こっちも別に逃げるつもりはさらさら無い」
「よしわかった。ガソリンは残っているか?」
京介はガソリンの残量をチェックし、バッチりだと伝える。
「なら今からもう1度首都高へ上がるぞ。もう1度勝負だ。十二覇聖は必ず俺が守る! リーダーの白いカリスマの俺が必ずだ!」
一通り熱く語った後、2台は首都高へ。
というわけで最後のバトルが始まった。先行京介、後追い孝司。
相変わらずバンパーをつつく勢いで接近してくるFD。
(速いことは速いが、こっちもルマンで優勝経験があるロータリーエンジン。負けるわけにはいかねぇぜ!)
軽さも手伝って400馬力しかないものの、FDはポルシェに食いついていく。
(チッ!)
ポルシェのミラーを見れば、しっかり食いついてくる、BOMEXエアロのFD。
横羽線を駆け上がっていく2台。相変わらずテールトゥノーズだ。
テールをつつき回して、孝司は京介にプレッシャーを与える。
(オラオラ、もっとアクセルを踏んでみろ!)
ストレートでもコーナーでもしっかり食らいついてくるFD。かなり速い。さすが十二覇聖の最後を飾るだけはある。
京介はブロックするが、いとも簡単に前へ出られてしまった。
(速い…)
そこで京介はスクランブルブーストをオンにし、食らいつく。このポルシェにもスクランブルブーストは積んであるのだ。
(こうなったら、ブロー覚悟で食らいついて行ってやる!)
これでストレートで引き離される心配だけはなくなった。
しかし補強してあるエンジンでも、前のFDのようにブローする確率もないとは言えない。
それでも負けたくないので、京介は必死になってFDのテールに張り付く。
(パワーを上げたか? こっちも負けるわけにはいかねぇな?)
孝司も気合いを入れ、アクセルを更に踏み込んで高速コーナーをクリアしていく。
ブロックにしても、幾多もの修羅場をくぐってきているので、かなりうまい。
(去年まで連の奴と一緒に最強を誇っていたが、今は俺も墜ちたものだ。が、帰ってきて俺はまたトップに返り咲いた。
だがあんたが出てきたことで、俺はまた墜ちようとしている。あんたを倒し、必ず頂点の座を俺は守り抜く!)
そして勝負は横羽線を上り、環状線内回りへ。内回りの方がコーナーが多く、飛ばしにくい。
2台は横羽から環状に入る。
銀座の左カーブ…孝司は200キロで飛び込んだ! ターンインでブレーキを残す。
3速でテールスライドさせ、コーナーを抜ける。オーバーアクションは失速するだけ。失速しそうな所から、強烈なトラクションをかけてやる。
その走りには京介も、驚愕の表情だ。
(速い! 今までの奴らとは大違いだ!)
さらにその次の右コーナー。
コーナリングスピードはほぼ同じだが、立ち上がりで孝司のFDがぐいぐい前へ突き進んでいく!
(どんどん突き放していくぜ!)
孝司はアグレッシブに、シビアなFDをうまくコントロールしている。
(だめだ…コーナーを抜けた後が勝負になってねぇ! こんなんじゃ負けるぜ)
国産最強コーナリングマシンのFDに対し、コーナーで勝つのは厳しい。
というとどこで勝負するか? それは直線しかない。
それにまだ京介は気が付いていなかった。一見速そうに見える孝司の走りに、わずかなチャンスが見え隠れしているのを。
(落ち着け! 自分のリズムだ・・目の前の情報に惑わされるな!)
自分のリズムで走ること。相手のペースにあわせるのではなく、自分のペースで行く。
そうすれば孝司をパスできる。
(まずは…何としても、あのRX−7に追いつくんだ!!)
バトルは新環状線へ入っていく。新環状線右回りではコーナーが最初に続くので、ここで孝司はポルシェを引き離していく。
京介はそれに惑わされず、自分の走りで対抗。
(焦るな! 俺は俺の走りをする。そして勝負を仕掛けるのは湾岸だ!)
1つ1つ丁寧に、グリップ走行で京介は駆け抜ける。
キレたコーナリングをしているFDとは徐々に差が広がっていくが、それでもじっとガマンだ。
それに加えてコーナーがだんだん中速から高速に、直線の量も増えてくる。
(見えてくるぞ…FDが!)
じりじりと高速セクションではパワーで差を詰める。ブーストかけっぱなしなのでエンジンも少しまずいが、それでもアクセルを踏み込む。
(近づいてくる! いける! だが焦ったら終わりだ!)
前を見据えてアザーカーをしっかりかわし、FDを追いかける。
そして、いよいよ2台は湾岸に入った。思ったより交通量が多く、孝司は攻めづらそうだ。
(クソ…だが向こうも条件は同じか)
2台ともなるべく、直線的にアザーカーをパス。京介はパワーを活かして差を詰めてくる。
だがここで、一旦京介が間を取った。
徐々にスピードを乗せていこうとする孝司に対し、京介はまだスピードを上げない。
(何だ?)
少しずつ、孝司のFDのバックミラーのポルシェが、小さくなっていく。
(まぁいい。これで俺が振り切って勝利だ!)
全開でアザーカー集団を駆け抜け、一瞬のオールクリアがやってきた。ここで孝司はアクセル全開!
400馬力をしっかり使い切って加速していく。
一応、320キロくらいまででるようにギア比をいじってあるのだ。
もう1度バックミラーに目をやる孝司。
(ポルシェはまだいるのか。引き離して…ひきはな…し!?)
そのポルシェは、すぐにバックミラーに大きく映るようになった。
孝司以上の立ち上がりでFDに食らいつく!
孝司はスラロームしながら徐々に全開加速に移っていった。
抜けきったところでアクセル全開だ。
対して京介は少し間をおき、スラロームしなくても済むようなラインができあがるのを待った。
他の参加者が動き、一本の道ができあがる。そして、いきなりアクセル全開だ。
こうすることでぐんぐんと孝司のFDに京介が迫ってきている。孝司はアクセルを全開にするまで時間がかかった。
そのタイムラグを利用し、いつのまにかぴったり後ろにくっついたのだ!
(そしてここでスリップストリーム!)
空気抵抗の少なくなったポルシェはさらに加速する。
ついにFDの横に並び、港トンネルに入った。
(行かせるかよ!)
孝司も限界までアクセルを踏み込み、ブーストコントローラーをいじくって、一時的にパワーを430馬力まであげる。
もうどっちも、ここまで来ると意地の張り合いだ。
(向こうもパワーを上げた! だがこの先は大井Uターン! どっちかが先に飛び込めるかで、この勝負が決まる!)
2台は完全に横一線!
猛獣のように反響し、トンネル内にエンジン音が響き渡る!
そしてトンネルを抜けて、勝負は大井Uターンへ。
ここで孝司はイン側から並んでいく。しかし京介も引かない。
(おいマジか!? もし俺がアウトに吹っ飛んだら、俺もろとも吹っ飛ぶぞ!?)
2台併走したまま、京介は無謀とも言えるオーバースピードでの突入を敢行する!
この状況下でのラインの奪い合いは、左コーナーで外側になる京介が圧倒的に不利である。
接触してバランスを崩せば京介はアウトに流され、分岐の中央分離帯に激突して木っ端みじんだ。
これは連を追い抜く時にも使った技である。
(死にてぇか!? 曲がれっこねえぜ!)
「曲がる…曲がれえ!!」
まさにギリギリ、紙一重だった。ギリギリで分離帯をかすめ、京介は孝司の前に出ることに成功した!
(よっしゃあああああ!!)
(ざ…けんなあああああっ!!)
今度は上った後に右ブラインドコーナー。幸いにもここでアザーカーはいなかった。
コーナリングでは圧倒的に有利なインを京介はゲットし、孝司の前に出る。
そしてそのまま大井でUターンし終え、横羽線を再度駆け上がっていく。
(…ダメだ…踏めねえ! 俺の負けか…!)
孝司はゆっくりとアクセルから足を離した。この瞬間、京介の勝利が決定した。
だがその刹那!
「うわっ!?」
ものすごい音が、ポルシェのリアから首都高に響き渡った。