第1部第17話
5日後。首都高にやってきた京介は残りのチームを撃破していく。湾岸、横羽、13号地、新環状、環状と1日刻みで制覇していく。
このポルシェの圧倒的な性能があれば、ほとんど負けることがない。中には手強いのもいて、何回か負けはした。
だがきちんとリベンジも果たした。
そして今日は…。
「あんたが…迅帝の師匠?」
下道で目の前に立つ男に話しかける。ガタイがいい金髪の男。
「ああ、そうだ」
「そうか…俺は宝条京介。あんたは?」
「椎名 連(しいな れん)だ。始めるぞ。あいつを倒した実力を見せてもらう」
そう言って「パープルメテオ」こと連は、R32GT−Rに乗り込んだ。
C1外回りを使って、芝公園からスタートする。最初は京介後追いだ。
下道から本線に合流し、アクセル全開。
連のR32GT−Rはあまりパワーがないようだ。ブーストアップで400馬力くらいといったところであろう。
京介のポルシェは540馬力くらいあるので、ストレートでは簡単に追いつける。
(加速はこっちが上か)
問題はコーナリングだ。フルブレーキングして2台はコーナーに突入。
連はR32とは思えないほど良いブレーキングからドリフトで進入。浅めにカウンターを当てつつ抜けていく。
(GT−Rでドリフト…パワーがあるな)
力強いその走りに京介も若干押され気味である。
京介もグリップ走行で食らいついていく。
(速い事は速いが…食いついていけない相手ではなさそうだ)
パワーと立ち上がりのスピードを活かして、テールに張り付いていく。
連は幾多ものバトルをくぐり抜けてきているので、滅多なことでは動揺しない。
(食いついてくるな。思った通りの良いドライバーだ)
ミラーでちらりとポルシェを見ながら、アクセルを踏み込んで加速していく。
勝負は霞ヶ関トンネルに突入。ここの出口で京介が仕掛ける!
下りながらの左コーナーなので早めにブレーキングし、連のインに飛び込んでいく。
連もラインは譲れないとばかりに、京介の行く手をブロックする。
(行かせない…)
だが京介は更に、驚くべきことをやってのけた。
何とトンネルを出てすぐの分岐へ行く道を、道幅目一杯まで使い、パワーを活かして抜き去る!
一歩間違えば分離帯にクラッシュし、京介は木っ端みじんだ。
(あ…危なかった!! やっぱり無理な追い抜きはするもんじゃないな!)
そう心の中で言いつつもきちんと連の前に出て、後はパワーで少しずつ連との差を広げていく京介だった。
「…速いな。速い。令次を倒したというその実力、はっきり見せてもらった」
「連さんも速かったです。あそこで無理な追い越しをしたのは、ほぼ賭けでした」
「そうか。気をつけろ。命は1つだぞ?」
「…はい!」
「じゃあ、次の奴の居所だが…横羽に行けばピンクの派手なスープラに乗ってる女がいるから。…それじゃあな」
3日後。その派手なスープラを探して探し回っている京介だが、いっこうに現れない。
(もう3日目だぜ?いい加減出てこいっての)
半ばうんざりしつつ、新環状線を流す京介。
…と。
(んあ?)
バックミラーにパッシングの光が。よく見るとそれは…ピンクのスープラ!
ライトが片方おかしなことになっているが…。
(変わったライトだな? 多分こいつが連さんの言っていたスープラだろう)
ハザードを点灯させバトル開始。スープラの加速はものすごく、すぐに京介の前に出て行く。
(恐ろしいまでのトルクだな)
前に出て行くスープラはまるで、GTマシンのような風貌だ。
しかしコーナリングがなんだか不安定。それに加えてブレーキングも不安定。危なっかしいことこの上ない。
(おいおい、危ないな)
だがそれを差し引いても加速が恐ろしい。コーナーの立ち上がりで、一気にスープラに引き離されるポルシェ。
RRベースの4WDにもかかわらず、加速でスープラに負けているではないか。
(立ち上がりで負けているが、突っ込みの安定性ではこっちが断然上だ!)
加速以外では、あまり怖い存在でもないのかもしれない。相手はただのパワーマシンだということが判明した。
ひとつ京介は大きな深呼吸をし、アクセルを思い切り踏み込む。
パワーで当然負けるが、コーナーが来れば余裕で追いつける。
相手はどうもサスに問題があるみたいだ。
(でも、この先は湾岸線か。…このままだとまずいな)
そう思った京介、現在の地点である新環状線右回りの高速コーナーでスープラをインからパス。
そのままもたつくスープラを引き離していく。
そして湾岸線手前の大きな高速右コーナーで、さらに引き離した。
しかし、ここからスープラの加速が生きてくる。
背筋が凍るほどの加速でスープラはポルシェに食らい付き、スリップストリームも平行して抜きにかかる。
(うわ…そこまで食いついてくるのかよ?)
あっという間にバンパーをつつかれ、湾岸線に合流した途端抜かれてしまう。
圧倒的な加速力は紅の悪魔以上だろう。
…だが、310キロくらいからスープラは、スピードが伸びなくなってきた。
(そうか、あいつは加速重視だから…)
とにかくトルク重視で仕上げられたエンジン。しかし裏を返せば最高速は全然ということ。
京介のポルシェは湾岸の時程最高速重視ではないが、340キロくらい出るようにはセッティングされている。
というわけで、スピードが伸びていかないスープラを、最高速の差で楽勝でぶち抜き勝負あり。
1分もすればスープラは、バックミラーから完全に消し飛んでいた。