第0.5部第14話
「ここにはかつて、この首都高サーキットが、サーキットになる前に、死んだって噂されている亡霊がいるって話なの。あなたも気をつけたほうが良いわよ」
和美から聞かされたこの話がどうしても気になり、令次は岸や連も巻き込んで情報収集を開始。
すると、連がそのドライバーとバトルしたことがある、という話をしてくれた。
ドライバーの正体はわからない。女か男なのかも。乗っているのがミッドナイトブルーのS30・日産フェアレディZということ。
「首都高に巣食う魔物」、「何十年も前に走っていた伝説の走り屋の亡霊」など、いろいろな噂があるが、
いずれの説にも共通して言えるのは、真に走りを極めた者の前にしか現れないということである。
ボディは往年の名車だが、その中身はまるで別モノ。
まるで魔力を宿しているかのような加速力と、常識を超えた旋回能力はまさに伝説と呼ぶにふさわしい。
先行している時は追うものの気力を削ぎ、追跡中は絶えずプレッシャーを与え続ける。
そんな噂を聞き、令次の背中に嫌な汗が流れる。だが真実を確かめないことにはどうしようもない。
湾岸線を下り方面に向かって走りつつ、身震いをする令次。ハンドルを握り締める手がぶるぶる震える。
(ああ怖い…もしかしたらすぐ後ろにいたりして…)
そう思って、チラッとバックミラーを見た令次の目に映ったものは……。
(あ……!)
ミッドナイトブルーのS30Z。しかもパッシングされた。SPメーターが反応する。
断ることはできなさそうだ。体が動かないのだ。
そしてバトルがスタート。しかし噂どおりの恐ろしい加速で、前に出て行くZ。
(速い…!)
令次も追いすがるが、それでも差が縮まらない。S30Zの軽いボディに、ハイパワーなエンジンは強力だ。
(何て加速だ! 確かに噂どおり、あいつはバケモノか・・・!?)
あのS30Zはおそらく限界まで軽量化され、ボディの補強も施されているはずだ。
こっちもフルブースト状態で追いかけていく。
最高速はS30ZもR34も、340キロとあまり変わらないようだったが、最初の加速で引き離された差が
縮まることは無かった。徐々にSPゲージが減っていく。
(何も出来ないのか…!!)
アザーカーを避けつつ、食い下がろうとする令次だったが時すでに遅し。
SPゲージの警告音が途切れ、S30Zに無様にも敗北してしまったのであった。
(負けた…あれは一体何だったんだ…? あのS30Z…よりによって湾岸線でぶっちぎられるなんて…)
スピードを120キロまで落とし、がっくりと落ち込みながら、令次は自分の家へと帰ることになった。
(俺本当に、首都高で最強になったのかな…)
自室のベッドに寝っ転がって天井を見つめながら、S30Zのことを思い出していた令次。
どうやら、まだまだ「首都高最強」という訳ではなさそうだ。
一晩考え、悩み、落ち込んだ令次は、翌日の夜すっきりとした顔で、1つの考えを出した。
(これは連さんと、岸さんにもぜひ、手伝ってもらわなければな…)
令次は携帯を取り出し、連と岸に連絡を入れだした。
「これから3人で話し合いことがあるんで、首都高の芝公園入り口に来てください。…待ってます」
…人間の血液には、沸点がある。
一度沸騰したら、決して下げられない温度が…
…だから、
“玉座”なんて、退屈な椅子に用はない。
…まだ見ぬ獲物を求めて、
終わらない夜へと、還って行く…