第0.5部第13話
残るは横羽線のみだ。そのためにまずはやるべきカスタマイズをする。
まずは回頭性を良くし、空気抵抗を減らすためにライト周りの軽量化、フロントグリルにカバーをつけて空気抵抗を少しでも軽減。
問題なのがタイヤだが、レース用のスリックタイヤだと高すぎる上に、本気で走れば何セットもいる。
その代わり、足とブレーキバランスのセッティングを煮詰め、ハイグリップタイヤでなくとも速いコーナリングが出来るようにセットアップを繰り返す。
だが、やはりいざ走ってみるとノーマルタイヤだと怖い。なのでスポーツタイヤを入れると、少しだけグリップに安心感が出てきた。
(はぁ…少しはコーナリングの限界が上がったかな)
横羽線は湾岸線とは違い、直線というよりも高速コーナーが連続する区間。
コーナリングでアンダーを出したら、超高速で外側の壁に向かって飛んでしまい、大クラッシュだ。
コーナー突っ込みではブレーキで減速し、コーナリング中もアクセルを抜いてしっかりフロントに加重を乗せたままコーナリング。
立ち上がりではエンジンパワーと4WDシステムで、怒涛の立ち上がりを見せる。
ギア比も湾岸線のように最高速重視ではなく、やや加速重視に振って、330キロをトップスピードに設定。
横羽線のライバルチームは4チーム。
ホンダのS2000、青いR34GT−Rが横羽線上りチームのリーダー。
しかし横羽線下りのチームは赤い22Bインプレッサと、黄色いNSXがリーダーで恐ろしく速い。
どちらも加速力が半端無いのだ。
横羽線下りのライバルは湾岸線方面へと行き、更に新環状線左回りを通り、銀座からまた横羽線へ入って戻ってくる、というルートを取る。
そこで令次が取った戦法は、横羽線下り方面の、なるべく湾岸線に近い場所からコースイン。
大黒ふ頭からコースインすると、なかなか出会えないのだ。
そしてじっくりと時間をかけつつ、1人ずつ、確実にチームメンバーを撃破していく。
更にライバルリストを令次、連、岸の3人で埋めて行き、チームリーダーが出て来そうになったら、そのチームのメンバーを倒して湾岸線方面へと車を流す。
それから横羽線下りのチームメンバーとバトルだ。
勿論チームメンバーを倒す前に、ギア比を最高速重視にして、チームリーダーとのバトルに挑む。
湾岸線方面のライバルと同じく、横羽線のチームメンバーはあまり車がカスタマイズされていないらしい。
岸が言うには「ライトカスタム程度かなー」…だそうだ。
そして3日に分けて、インプレッサとNSXのリーダーを倒し、湾岸線を上り方面へと向かってR34で流す。
すると後ろから、誰かがパッシングしてきた。
チームリーダー、4人のうち半分…2人を倒したのだ。ミドルボスのお出ましだろう。
(…来たか!)
パッシングしてきたのは赤いZ32フェアレディZ。タービンの音が凄い。
(さあ…かかってこい!)
ハザードで応対し、SPゲージがたまり、ハザードを消して加速。
グッとアクセルを踏み込み、両者とも250キロを突破。
だが、やはり横羽線のミドルボスは加速重視のセッティングだったようだ。
335キロを越えたあたりで、すでにスタートダッシュでZ32を引き離していた令次だったが、その差は更に開く。
(…勝負にならないな…)
相手のZ32は、車は完璧に仕上がっていたはずだったが、セッティングがどうやらダメだったらしい。
あっさりそのまま振り切り、ぶっちぎりで勝利した令次であった。
沢村のショップへとそのまま向かい、連、岸、沢村の3人に結果報告。
「やりましたよ…ミドルボス倒しました!」
「マジで? やったじゃん令次!」
「これであと1人だな。俺と同じ首都高最速まで、後もう少しだな!」
「そうか…なら、最後の仕上げのカスタムと行くか…」
と言う訳で最後の仕上げにまずは、ニスモ製のシンプルなエアロパーツで武装。
それからホイールを軽い、120万円のマグネシウムホイールに変更して、足回りの重量軽減と運動性能アップを図る。
タイヤもついに、レース用のスリックタイヤに交換した。
これで完全に、レースマシン並みのカスタマイズを施された令次のR34GT−R。
残りのライバルは横羽線上り方面だ。
再びギア比を330キロを上限にセットアップし、加速力重視のセッティングでライバル達を倒していく。
最大級のグリップ力を発するタイヤに、低速からモリモリ加速するトルクフルなエンジン。
軽いボディに、最高のメカニックの手によって決められた足回り。そしてこれを操る令次の連仕込みのテクニック。
最速へと向けて、ゆっくり、ゆっくり1歩ずつ突き進んで行く。
それから数日後。情報収集をしていた連、令次、岸の3人の中で、連が気になる話を聞いた。
横羽線のゾーンボスは、80スープラに乗った女だと言うのだ。
連がこの話を聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのはあいつのことだ。
(和美さんか…)
かつて、環状線で自分のR32GT−Rと死闘を繰り広げた、百瀬和美。
令次と岸にその事を教え、気をつけるように、と指示。
「確かになぁ…和美、速いからな」
「呼び捨て?」
「聞いた話によると、僕と同い年らしいよ。まぁ、会った事無いからちゃんと、会う時は敬語で話すけど」
「大丈夫ですかね…」
「何だ? 令次らしくないな。やけに弱気じゃないか」
「最初に相手の情報が入ってきていると、何だかビビリが入って…」
しかし、そんな令次に対し、岸と連は令次の両肩に片方ずつ手を置く。
「心配するな、ここまでやって来れたんだ。孝司だって、ミドルボスだって倒した令次なら、多分大丈夫だと僕は思う」
「ああ。俺の一番弟子として、悔いの無い走りをして来いよ」
「岸さん…連さん…」
連と岸から勇気をもらい、最後のバトルへと令次は赴く。
横羽線上りで、まずは残る2チームのリーダーを打ち負かす。
S2000はあっさりと振り切って勝利。
R34同士のバトルは相手も速かったが、300キロを越えたあたりで相手がついてこなくなったので、そのまま引き離して勝利。
そして…いよいよゾーンボスのお出ましだ。
バックミラーにパッシングの光が。よく見るとそれは…ピンクのスープラ! ライトが片方おかしな事になっているが。
(変わったライトだな? 多分こいつが連さんの言っていたスープラだろう)
ハザードを点灯させバトル開始。しかし、スープラの加速はものすごく、離れようとしない。
4WDのスタートダッシュでも引き離させないとなれば、トルク重視のエンジンカスタマイズだろう。
(恐ろしいまでのトルクだな)
後ろから煽ってくるスープラはまるで、GTマシンのような風貌だ。
しかしコーナリングの為に高速コーナーに入った時だった。バックミラーをちらりと見ると確かに、
スープラは速いスピードでコーナリングしている。が、何だか挙動が不安定。
それに加えて次のコーナーではブレーキング競争になるが、ブレーキングも不安定。
横に並んでいた令次にとっては、危なっかしい事この上ない。
(おいおい、危ないな)
だがそれを差し引いても加速が恐ろしい。そこで逆に考えてみる令次。
(加速は確かに驚異的だけど、あのコーナー進入から、コーナリング中の動きを見る限り…これならいけるかも!)
あまり怖い存在でもないのかもしれない。相手はただのパワーマシンだということが判明した。
相手はどうもサスに問題があるみたいだ。
それに加え、とにかくトルク重視で仕上げられたエンジン。しかし裏を返せば最高速は全然ということ。
令次はひとつ大きな深呼吸をし、アクセルを思い切り踏み込む。R34のセッティングは横羽線仕様のままで、
湾岸の時ほど最高速重視ではないが、330キロくらい出るようにはセッティングされている。
というわけで、スピードが伸びていかないスープラを最高速でぶっちぎり、1分もすればそのスープラはバックミラーから完全に消し飛んでいた。
近くのランプで首都高サーキットを下り、そのまま下道で停車。すると遠くから2JZのエンジン音が。
(まさかとは思うが…やっぱりか)
さっきのピンクのスープラがやってきて、R34の後ろで停車した。
スープラの中からは女が降りてくる。連から聞いた名前を、令次は女に向かって口に出した。
「…百瀬和美…さん?」
「あら…何故私の名前を?」
やはり、百瀬和美で当たりだった様だ。
「俺は宝坂令次って言う者ですが、あなたの事は連さんから聞きました。ゾーンボスはあなただって…」
「連…? ああ、椎名 連くんね? そうよ、私は百瀬 和美(ももせ かずみ)。でも、まだ私で終わりじゃないわ…」
「え?」
和美から謎の発言が飛び出してきた。
「ここにはかつて、この首都高がサーキットになる前に、死んだって噂されている亡霊がいるって話なの。あなたも気をつけた方が良いわよ」
そう言い残し、和美がスープラに乗り込もうとした…その時だった。令次にとっては聞き覚えのあるエンジン音が、2人の耳に届いてくる。
そして姿を現したのは、この前のミドルボス…赤のZ32だった。
「あれ…?」
「あら、グレイル君…?」
和美の口から漏れた、横文字っぽい名前に、ドライバーはどういう人なのか大体令次には予想がついた。
Z32から降りてきたのは、やはりその名前にふさわしい、外人のドライバーだった。
「ハイ、和美。それからこの前のR34の人…。俺はさっきのバトルを後ろから見ていたんだ」
しかも、日本語が結構ペラペラである。
「あ、どうもお久しぶりです…と言っても、実際に会うのは初めてですね。俺は宝坂令次です。初めまして」
「グレイル・カルスだ。和美さんとは知り合いなんだが…」
「まぁ、確かに知り合いだけど…私達は2人ともやられちゃったわね。
他のボスもみんなやられちゃったっていうし。今の首都高最速は、確かにあなたね。おめでとう!」
この瞬間、新たな首都高最速の男が、誕生したのであった。