第0.5部第9話
周二に勝った令次は、続いて新環状線へと向かう。
新環状線には環状線よりパワーのあるマシンが多数おり、大排気量の車が多くなってきた。
それでもR34の軽量化の効果はすさまじく、ノーマルの6速ミッションも良く回るようになって来た。
高速コーナーでは軽量化の恩恵がよく分かる。
今まではアクセルを一瞬抜かないとクリアできなかったコーナーが、今度はアクセル全開で駆け抜けていけるようになった。
(気持ち良い…!)
コーナーをアクセル全開で駆け抜けると、爽快感もその後のスピードの伸びも一味違う。
それに加えてここのチームメンバー達も、あまりパワーが出ていない重量級のマシンが殆ど。
なので軽量化によって得た加速力、そして鬼のようなトルクを発生するエンジンパワー、高速コーナリングも合わせて
ライバルを次々打ち破っていく。
だが、銀座から新環状線右回りへと入り、いくつかコーナーをクリアして、右、左、そして右と来るS字コーナーをクリアした時だった。
目の前に見たことが無い、水色のRX−7…旧型のFC3Sが走っていた。
見た事が無いライバルだったので、パッシングしてバトルを申し込む。
そのライバルはパッシングからバトルに入るまでの時間が長く、いわゆる「ワンダラー」と呼ばれる、チームに入らず一匹狼で走っている走り屋だった。
ハザードを消してバトルスタート。
直線は圧倒的にR34が速いが、RX−7はコーナーで差を詰めてくる。
(やっぱりロータリーはコーナーが速いな。中排気量車だと言うのに、よくついてくるもんだよ)
そのまま新環状線を走って行き、目の前に迫ってきたのは湾岸線手前の高速右コーナー。
ここでRX−7が、R34に対してブレーキングで差を詰める!
ギリギリまでブレーキングを我慢して、R34にくっつくRX−7。
(う…わ、そこまでブレーキ遅らせるのかよ!?)
R34のバックミラーに映るRX−7の姿が大きくなり、令次はぞくっ! とR34のシートで身を震わせた。
だが、この先に待っているのは長い長い直線の湾岸線区間。RX−7のパワーはあまり出て無いらしく、R34にじりじりと引き離されていく。
環状線だったが結構良い勝負になっていたかもしれないが、仕掛けられた場所が悪かった。
今回は先行振り切りで令次の勝ちだ。
そのまま湾岸線から新環状線へと合流し、環状線外回りへと合流してみる。
実はこのルートで合流したことが、今まで1度も無かったのだ。
(うわ、ここの合流の左、きついな)
新環状右回りから環状線外回りへと合流する所には、物凄くきつい左コーナーがある。ここでは2速に落とさないと曲がれないため、
かなり手前からブレーキングする必要があるのだ。
今はバトルでは無いので、90キロでゆっくり抜ける令次。すると目の前に、見たことが無い黄色のランエボ5が走っている。
まさか…と思って令次はパッシング。
そうするとやはり、バトルに入るまでの時間が長い。こいつもワンダラーだ。
バトルがスタートし、周二のNSXがクラッシュした右コーナーを駆け抜ける。
エボ5はグリップ走行で、堅実に駆け抜けていく。令次もグリップ走行でその後についていく。
が、エボ5がインを閉めてきたため、R34の左フロントとエボ5の右リヤが接触!
(あ…)
その勢いでふらついたエボ5はスピードが落ち、その横をすいーっ、と令次のR34が駆け抜ける。
あまりエボ5はパワーが出ていないのか、直線でどんどん引き離されていく。
そのまま何事もなく引き離し続け、エボ5に勝利した令次。
しかし、本当の問題はここからであった。
環状線外回りを1周して、下道に下りた令次を待っていたのは、さっきの黄色いランエボ5と、その前にバトルした水色のRX−7だった。
RX−7はボンネットを開けている。
そしてそのドライバー2人は、令次のR34を見つけた途端、手を振って停まるよう指示した。
「ど、どうかしたんですか?」
「あんた、さっきのR34だよな? 俺の車にぶつけてるんじゃねーよ!」
「あっ…それは申し訳ございませんでした…」
「申し訳ございませんじゃねーよ! どうすんだよこれよぉ!」
エボ5の男が指差した先には、右側に傷がついたエボ5のリアバンパー。
完璧に逆切れしてくるエボ5の男。しかしそれを見て、あわててRX−7の男が止めた。
「まぁ、まぁ、まぁ! 落ち着いてくださいよ! あなたはわざとぶつけたんじゃないんですよね?」
「はい! ラインの奪い合いで、インから入り込んだらぶつかってしまって…!」
「そんなの言い訳にならねーよ! バンパーの弁償しろよ、マジで!」
「ああもう2人とも落ち着いてくださいって! とにかく話し合いましょうよ!」
一旦RX−7の男がエボ5の男を落ち着かせ、お互いにまずは自己紹介。
RX−7の男とエボ5の男は名刺を差し出してきた。
「神崎 浩(かんざき ひろし)です。ファッションデザイナーをやっています」
「栗原 健太郎(くりはら けんたろう)だ。さて、このエボ5をどうするかだな…あとあんたのRX−7も」
「あ…」
そう、RX−7の浩は先ほど令次に負けた後新環状線をかっ飛ばしていたら、エンジンブロー。
とりあえず自走はできたものの、下道の途中でバトルの疲れもあってストップ。
そこでボンネットを開けていたら、健太郎と合流した、と言う訳だ。
このままここで言い争いを続けていても埒が明かないので、沢村のショップへと2台を持って行くことにした。
「でしたら、俺の知り合いのショップがあるんですけど、そこにもって行きませんか?」
「まぁ…それならいいけど」
「本当…仕事増やしてくれるよな」
新たに入ってきた2台のマシンを見て、沢村、岸、連はため息をついた。
「すみません…」
新環状線のハイレベルミドルボス、ハイレベルゾーンボスと戦う前のわずか数日前の出来事であった。