第0.5部第8話


首都高最強になった令次ではあったが、まだ完全になったと言う訳では無い。

確かに首都高最強、と名乗っていたのは、「パープルメテオ」の連と、「白いカリスマ」の孝司だった。


だが今度は湾岸線、横羽線がオープンし、環状線、新環状線にも

新たなチームや昔走っていたチームが、入れ替わるようにごっそりと流れ込んできた。

しかもその全てが、今までより強いライバル達。


更に入れ替わりに伴い、新たに湾岸線、横羽線のボスが決まっていくだけではなく、環状線と新環状線でも

「ハイレベルミドルボス」と「ハイレベルゾーンボス」なる者達が生まれた。

クラスの制限をなくし、とにかく速い者達だけを集めたボス達が。

つまり、今までのボス達とは違って、ハイパワー車ばかりということもありえる。



結論から言うと、令次の挑戦はまた、振り出しからスタートということになってしまった。

物語的に言えば第1部がやっと終わり、これから第2部がスタートするのだ。



「あーあ、何だか虚しいな」

「何が?」

「いやだってさ、僕、ゾーンボスじゃなくなっちゃったんだぜ?」

「…そうか?」

「そーだよ! だって、再編成が行われたんじゃあさ―――」


東京の繁華街にある居酒屋で、連と令次に対してマジで岸が愚痴っている。

酒を呑む事前提で来たので、タクシー代わりは令次のR34だ。

「―――おい、聞いてんのかよ?」

「いいや、全然聞いて無いよ。それよりも、だ」

「かーっ! 今のご時世愚痴の1つや2つ聞けないと、生きていけないよって! …んで、それよりも、何?」

愚痴を止め、岸は連の話を聞く側に回る。


「いやなぁ…俺も「首都高最強」と銘打ってはいるんだけど、でも、総入れ替えが行われたわけだから

新たなボス達のために一致団結することが重要だと思うんだよな」

「ほうほう、それでそれで?」

「それで、R34を沢村さんに頼んで、もう少しカスタムしてみようって訳。んで、情報収集もしようと」



という訳で、沢村の元へと向かった3人は、事情を説明して更なるカスタムを依頼する。

「そうか…新たなボス達がなぁ…」

「そうなんです。それで沢村さんに、R34を出来る限り改造してもらいたいんですけれど…」

「うーむ…」

しかし、まだ真の「首都高最速」になった訳では無い令次には、フルカスタマイズはまだ早いだろう。

そこでまずは、環状線を制覇してくる事を令次に指示した。

「今のまま湾岸線や横羽線に行っても、負けるだけだ。まずは更に速いライバル達が出てきた環状線に行って、スピード領域を体感してからだな」



その日は休みと言う事にし、翌日から環状線へと向かう。環状線は全部で4チームあり、そのチームメンバーはさほど速くは無い。

だが、チームリーダーは4チームのうち、3チームが速かった。

1チームはホンダのライトウェイト車ばかりが集まったチームだったのでさほど苦労はしなかったが、残りの3つは

いずれもアリスト、R34GT−R、NSXと、ハイパワーな車ばかり。


そこでお得意の銀座線・橋げた区間でアザーカーに詰まらせる手段を取り、何とかアリストのチームを撃破した。

すると後ろからパッシングの光が。

後ろを振り向いた令次が見た物は、紫の前期型の三菱GTOだった。


その後ろから追いかけていた岸と連も、見た事が無い車だ。

「なぁ連、何だろ、あのGTO…」

「もしかして、あれが噂の、ハイレベルミドルボス…か?」

そう、連の予想通り、再編成されたボス達の内の1人だ。


ハザードを消してバトルがスタート。しかしGTOは鬼のようなトルクで、その1.7トンの車重を感じさせずに一気にR34を追い抜く。

(うわ速っ!?)

あっけなく抜かれた令次だったが、それでも今までの経験を駆使して、銀座の直線終わりに来るS字コーナーで突っ込み勝負!

…したのだが、何とGTO、すいーっとかなり丁寧なライン取りでR34を寄せ付けずにクリア。

そのS字で思いっきり引き離された令次は、SPゲージを減らしてしまい勝負ありとなった。



「やっぱり強かったですね…」

「ああ。もう、今のR34の性能じゃあ、無理そうだよ。向こうのGTO、かなりいじってあるみたいだったし」

「軽量化もして無いんだろ? だったら、それやろうぜ? 僕らからも沢村さんにお願いしてみる!」


首都高を降りて一通り感想を述べた3人は、R34とNSXで沢村の元へ向かった。

事情を聞いた沢村は渋い顔をしたが、3人で必死に頭を下げたことで、何とか了解してくれた。

「……一応今日は、環状線でもう一段階上のレベルに行ける様に、ブレーキを最大級の奴に変更する。それから軽量化も出来る限り、して見るか」



少し酔い気味の岸、連、沢村の3人で、今までより格段にコーナリングを良くする為、まず限界まで軽量化をする。

全ての快適装備を外し、荷物を下ろし、内張りもはがしてフロント以外のガラスをアクリル製に。

前と後ろのフェンダーとトランクにはFRPの素材を使う。

更にボディ補強に関してはクロモリ鋼のロールケージを入れ、サイドシルに補強版を装着し、限界までボディ剛性を高める。

ブレーキは最高級の物を使い、ストッピングパワーを最大限引き出せるようにする。



そして3日後。令次は連のR32で走り込みをしていたが、R34が完成したのでR34で走りに行くことに。

連と岸は仕事が忙しく、来れないらしい。

早速環状線内回りに上がった令次は、今までとは違い、動きに軽快さが出ていることを実感していた。

しかもブレーキもよく利くので、かなりR34にしては奥まで突っ込めるようになった。

バトルの方も突っ込み勝負が出来るようになり、まさしく上々である。


そしてバトルを1戦終え、令次が内回りをR34で流していると、後ろからパッシングの光が。

この前の紫のGTOである。

リベンジバトルとして、環状線外回りを舞台にバトルが始まった。

向こうのGTOは確かにパワフルだが、今度は加速で負けていない。軽量化のおかげだ。

ぐっとアクセルを踏み込み、R34を加速させていく。突っ込みのスピードも今度はGTOと変わらない。

(…これなら、行ける!)

令次の走りにだんだん自信が出てきていた。R34の利点であるトラクションの良さ、強化されたブレーキを活かして

速いスピードから早めにブレーキング。スパッと向きを変えて立ち上がって加速。

これを皮切りに少しずつGTOを引き離して行く。


そして丸ノ内トンネルを抜け、その後の高速コーナーを抜けた時にはもう、GTOはミラーに映っていなかった。



バトルを一段落させ近くのPAで令次が休んでいると、さっきのGTOが隣に停まり、中からドライバーが降りてきて令次に声をかけてきた。

「どうもこんばんは! ねぇ、あなたが宝坂令次君?」

「は、はぁ、そうですが」

何とドライバーは、やけに気さくな紫色の髪の女だった。


「あの、あなたは?」

「私? 私は神橋 洋子(かみはし ようこ)。よろしく」

「よろしく…。ミドルボスの方…ですか?」

「ええ、そうよ。あなたの噂は聞いているわ。白いカリスマって人を打ち破ったって」


そして洋子は一呼吸置くと、ゾーンボスについて語り始める。

「ここのハイレベルゾーンボスはかなり速いわ。そのR34…見た目ノーマルっぽいけど、足回りとかは改造してあるの?」

「いえ…ええと、エンジンのパワーアップに軽量化、後ブレーキの強化…ですかね」

「それだけ!? よくそれであれだけの走りが出来るわね…。よっぽど腕が良いみたいね。

でも、コーナリング性能がゾーンボスは肝になるかな。頑張ってね! それじゃね!」


一通り喋り尽した洋子は、風のようにGTOに乗り込んで、軽快に去って行ったのであった。

(明るい女の人だったなー…)



バトルの方は段々R34に慣れてきたこともあり、連から見てもかなり良い走り方をしているらしい。

「かなり上手くなったな。俺と岸と沢村さんで軽量化しただけあって、動きが軽いだろ?」

「ええ、かなり良い感じです」

「後ろから見てても、僕のNSXとあまり変わらないくらい、良いコーナリングだ」


残りの2チームもあっけなく…とまでは行かないが、環状線外回りで銀座線をうまく使って倒す事に成功。

ハイパワーなのもあるが、コーナーではやや不安が残る。



すると後ろからパッシングしてくる1台の車が。それは何と、岸と同じNSX…だが、エアロが岸と違って派手だ。

令次にはそれが、ここのゾーンボスだと確信が出来ていた。

(このNSX…かなり速そうだ! 洋子さんの言っていた通り、軽いNSXは速そうだな!)


先行後追いでバトルスタート。この環状線はテクニカルコースと言っても過言ではない。

(向こうの方が軽いから、立ち上がりで引き離すしかないな!)

最初から汐留S字。ここはしっかり減速してコーナリング。


その後細かいコーナーを抜け、以前令次が前。NSXはプレッシャーをかけて揺さぶるが、令次は動じない。

精神的な強さもバトルの中で身につけているようだ。

(いくら煽られようが、この狭い環状線。アザーカーも居るし2台並ぶのは不可能だ!)

バックミラーを見ないようにしつつ、あくまで我が道を爆走する令次。



そして勝負は佳境へ。芝公園の連続S字を抜け、次にやってきた右中速コーナーでNSXが抜きにかかる。

NSXは当然のごとく、軽い車重を活かしてインからブレーキング勝負。

…だが、NSXのその計算が狂った。


NSXがアンダーを出して、R34の前にふくらんでくる。

(ちょ…待ておい!!)

とっさに令次はフルブレーキングで回避。NSXはそのまま壁に向かってすっ飛んでいく。

令次はフルブレーキングから右いっぱいにハンドルを切り、NSXをイン側に避けて回避。


NSXの方も軽い車重が幸いし、ギリギリ止まれた様だ。

これで大きく令次に差を広げられたNSXは、SPゲージを全て削られて敗北していった。



下道に下りた令次はそのまま沢村のショップへ。

すると、さっきのNSXが途中で現れて、そのまま沢村のショップへ着いてきてしまった。

中では岸、連、令次が待っていた。

「よう、遅かったな令次。僕達結構待ってたんだぜ」

「…あれ? そのNSXは誰…だ?」

「知り合いか?」

「あ、いえ、えーと…さっきバトルした人なんですけど…」


すると、NSXからは緑色の髪の男が降りてきた。

「ここでこのR34を改造しているのか。噂どおり、かなり速かったぜ」

「…あなたはハイレベルゾーンボスの…?」

「そうだ。宝坂令次の噂は聞いているよ。向こうの3人は知り合いか?」

「はい。師匠と、一緒に走っている人と、ここの店長の方です。…あなたは一体…」


令次と共に沢村達の元へと近づいたゾーンボスの男は、改めて自己紹介。

「俺は松原 周二(まつばら しゅうじ)。ハイレベルの環状線ゾーンボスだ。昔は環状線のチームに居たんだ」

環状線だけで首都高最速になった連は、周二のその発言に興味を持った。

「環状線の?」

「ああ。椎名 連だろ? 話は聞いた事がある。紫のR32で良い走りをしているってな。そしてその弟子が、この宝坂令次だな。

「白いカリスマ」の市松孝司を倒したって話は聞いたが、あいつは昔から俺とライバル関係なんだ。

あいつを倒した腕は、はっきり見せてもらったぜ」



次に周二は岸の方を向いて口を開く。

「…さらに、そっちのメガネの人は岸 泰紀か。同じNSX乗りとして有名だよ」

「そ…そりゃどうも…あれはタイプSゼロ?」


岸のNSXは、NA2のタイプSゼロと呼ばれる軽量モデル。

しかし、周二は横に首を振った。

「俺のNSXはNA1のタイプR。しかしタイプRでも勝てないとなると、もう少しカスタムしないとな」


最後に周二は、沢村に対して頭を下げた。

「このショップの店長の方ですよね?」

「そうだが…」

「俺のNSXも、ここでカスタムさせてください」


気難しい沢村ではあるが、ゾーンボスから直々に頭を下げられては断りきれない。

「…ああ、わかった。でも、それに見合うだけの走りはしっかりしてくれよ」

「勿論です」



令次達の活動には周二は加わらないが、沢村のショップにまた1人、お得意さんが増える事になるのであった。


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