第0.5部第6話


「そうか。まぁ、大変だったな令次」

沢村のショップに行くと、連と岸、そして沢村が待っていた。令次はここ数日の事を全て3人に話す。

「しかしまぁ、僕の耳にもその内入るんだろうな。その浩夜って奴が倒されたとあっちゃ、いよいよ令次も手ごわくなってきたな」

「そうだな。でも、まだスープラは大丈夫だろう。とりあえず13号地はそこまで苦労するライバルはいないんじゃないのかな」

そう言った連は、令次にライバルリストを見せる様に指示。


「えーと…ああ、これなら大丈夫か。13号地のゾーンボスは…環状線と新環状線、それに13号地のリーダー全て合わせた26人の内

21人と…環状線、新環状線のミドルボス、ゾーンボスを倒せば良いと聞いたことがある。

だから少しは今までよりかは、短く終わらせられるな」



という訳で13号地へはハチロクでやって来てみた令次。しかし、そこに居たチームは何と軽自動車のチームだけと、逆に大排気量車だけのチーム。

この両極端のチームのメンバーの内、とりあえず軽自動車のチームとバトルしてみる事に。

相手方もパワーアップしているとはいえ、所詮軽自動車。しかも13号地は殆ど直線。

首都高では何よりもパワーだ。

だが、先の方にある「大井ジャンクション」と言う所は分岐を左に入る。

まずは上り坂の後、きつい複合右コーナーを曲がり、更にその先にある右コーナーはかなりきつい。

だがそこを過ぎれば直線区間に戻るので、結論で言えばやっぱりハイパワー車が有利だ。

しかも道幅は直線区間に戻る所では1車線しかない為、先行して居れば100%ブロックできる。



そしてブロックして、直線で思いっきり引き離して勝利した令次。すると後ろからパッシングの光が!

(…まさか!)

そのパッシングの光を受けた時、令次は連の言葉を思い出していた。

(リーダーは21人以上、ミドルボスとゾーンボス倒してるから…ゾーンボスか!)


その予感は的中したらしく、パッシングしてきた車は灰色のホンダ・EF8CR−Xだった。でっかいGTウィングがついている。

はっきり言って令次からすると、似合っていなかった。

(だ、ダサい…)

しかしそのCR−Xも、和人や明達と同じく恐ろしく速かった。軽い車体を活かした加速力で一気にハチロクを追い抜き、

じりじりと引き離していく。令次もスリップストリームを使って食いつくが、

パワーの差が大きいのかその差は開く一方で、振り切られて敗北してしまったのであった。



だがこっちの車がスープラと言うのであれば話は別である。

リベンジの為再び13号地に赴き、大排気量車のチームメンバーを1人倒すと…来た。

ハザードで応対しバトルスタート。

最初は軽いCR−Xの加速力に負けそうになるが、ブロックして前に出させない。

そのまま環状線方面に戻るために駆け上がっていくと、そこには高速左コーナー、高速右コーナーが連続して襲って来る。


ここで令次は一瞬アクセルを抜き、フロントタイヤのグリップを回復させてきっちりコーナリング。

更に右コーナーはやや上りながら曲がっていくため、左コーナーより少しだけ長くアクセルを抜いてターンイン。

CR−Xも食い下がるが、その後は環状線までずっと直線。

250キロを越えたあたりでCR−Xのスピードが伸びなくなってきた為、ハチロクの時に味わった屈辱を

全く同じやり方でCR−Xに返した令次だった。

(ふう…)



ボスはこれで全て倒したはずなので、今度は残りのリーダーを討伐に向かう。

という訳で令次はまず、ハチロクからバケットシートやステアリングを移植して、ハチロクを売り払う。

そしてスープラ1本に絞り、13号地のリーダーを倒しに向かった。

環状線、新環状線のリーダーは全て倒しているので、13号地のリーダーも倒す…と言っても2チームしか居ないので楽だ。


軽自動車のチームはCR−Xより早く決着が着き、大排気量車のチームもそこまで苦労せずに倒すことが出来た。

ただ、13号地はあまり1日に走っている奴らがいなかったので、日数は結構かかった。


だが…大排気量車のチームを倒した後、少し環状線内回りでスープラを走らせていると、後ろからパッシングの光が!

(パッシング…?)

もうリーダーもミドルボスもゾーンボスも倒したよなぁ、と思って右斜め後ろを振り向くと、その車の正体が判明した。

そしてそれと同時に、令次の顔が今までに無い位驚きの表情に変わった。

(あ、あれって…まさか!?)

白のFD3S・RX−7。令次はCR−Xの時と同じ様に、連の言葉を思い出していた。

連に初めて会った時の言葉を…。


『実は…俺、つい最近負けてるんだよ。白いFD3Sの、RX−7に』


白いRX−7は今まで環状線で何台か見てきたが、このRX−7は凄い音がしている。

結構パワーが出ていそうだ。

しかし…挑まれた以上、引く訳には行かない。ハザードを消してバトルスタート!

汐留S字を立ち上がった所からスタートし、2台はトンネルに入る。

S字コーナーではスープラがRX−7をブロックするが、RX−7は立ち上がりの加速も凄かった!

直線でひゅん、と左側に出てきたRX−7は、次のS字コーナーの1つ目、左コーナーのインをあっさりゲットしスープラの前へと出て行く。

(あ…くそ!!)


しかし、師匠の敵のRX−7とあってはこのまま食い下がる訳にも行かない。

令次は死ぬ気で食い下がるが、じりじりと引き離されていく。

(このまま…負けてたまるかぁぁ!!)

重いスープラを操り、軽いRX−7に食いついて行こうとするが、その時最悪の事態が起こった。

(…うわ!?)


いきなりエンジンブロー。原因は「棚落ち」と呼ばれるエンジンブローで、

エンジン内部の燃焼している部分が失火することにより、ピストンリングが収まっている部分が溶けてしまい吹き抜けになってしまうこと。

主な原因はブーストの上げ過ぎ、燃調が薄かったりすることだ。

令次の場合は無理にスープラのブーストを上げすぎたことにより、棚落ちしてしまった。


銀座から新環状線へと入る所、江戸橋ジャンクションの右コーナーの手前でエンジンブローしたスープラは

エンジンブローによって挙動を乱し、タイヤのグリップを失いスピンモードに。

(く…う!)

クラッチを切り、ブレーキを思いっきり踏んで、分離帯の壁にガリガリガリと音を立てつつスープラのスピードを落とす令次。

ここで令次の冷静さが光り、何とかスープラを止める事に成功した。


だが、失った物は余りにも大きかった。故意にではないにせよ、今までボス達の車を散々壊してきた令次は

最終的にクラッシュ、といった形でいっぺんに帰ってきた様だ。

(負けた…)

何とかそのまま惰性で非常帯まで進み、令次は携帯で連達に連絡し無事である事を説明。

沢村がキャリアカーを持って迎えに来てくれるらしい。

オフィシャルがすぐに駆けつけ、下道までキャリアカーで下ろしてもらった。後は沢村の仕事だ。



スープラの中でハンドルに突っ伏し、令次はがっくりと放心状態になっていた。

無理をさせすぎた結果、スープラを壊すということになってしまった。

(これから俺は…どうすれば良い…)

せっかく用意してもらったスープラを、師匠の敵を取ってやる! という無謀な挑戦でクラッシュさせ、これではあの3人に合わす顔が無い。


そしてそのまま何分経っただろうか。

ピッ、ピッ、とクラクションが鳴ったかと思い、令次がその音の方を見ると、1台のキャリアカーがやってきていた。

その後ろには紫のR32の姿も。


「おい、令次! 大丈夫か!?」

「怪我、してないか!?」

キャリアカーから降りて来た沢村と岸が、駆け寄って令次に安否の確認をする。

「いえ、大丈夫です…でも、スープラが…」

「そうか…よし岸、これとりあえず載せるぞ。令次は降りてくれ」

スープラから下りた令次は、ショックを隠しきれないまま連の元へと向かった。

「どうした? 何があったんだ?」

「す…すみません連さん…俺、無茶しすぎました…」

「そうか。…とにかく、向こうについたらゆっくり話、聞かせてくれよ。今は気持ちを落ち着かせよう」



沢村の工場へとスープラが運ばれ、令次は3人に事情を1から10まで説明し終えた。

しかし当の3人は別に怒るでもなく、心配そうな顔をしていた。

「あ、あの…怒って無いんですか…?」

「いや、別に僕等は怒っちゃ居ないよ。令次が無事でよかったなって」

「そうそう…俺の敵を取ろうとしてくれたんだもんな…むしろ良く頑張った、って言ってやりたいよ」

「令次に怪我も無かったしな」

だが、スープラはもう走れそうも無い。ならこれからどうするか、だ。


悩んだ沢村は、1つの決断を下す。

「スープラでも立ち上がりで負けたというのなら、それ以上のトラクションを持つ車を用意するか」

「え?」

「それにこの先、湾岸線や横羽線まで行くのなら…FRならギャップで跳ねてスピン、と言う事もありえる。

…よし、令次。このスープラは知り合いのショップに頼んで、中古エンジンに載せかえる。そしてボディも直して売る。

それと今までのライバル達を倒してきた実績も見て…あの車を用意する」

どんな車? と令次は思ったが、ここは沢村に任せてみるしかないようだ。

岸も連も若干呆然としていた。

「まぁとりあえず、2週間ほど待っててくれ。それまでにあのRX−7に対抗できる様な車を用意する」



それから5日後。令次は医大の帰りに首都高サーキットの入り口にやって来てみた。

(俺はもう1度、あのRX−7と勝負して、勝てるのかな…)

不安と、少しの期待…もう1度走れるという期待が頭をよぎる。


すると、不意に誰かに声をかけられた。

「あんた…何をしてるんだ?」

「は…はい?」

振り向くと、そこには青と水色の2色で髪がカラーリングされた、結構体つきの良い女が1人。

「いや、首都高上がろうと思ったら、この入り口でジーっと首都高を見上げてる人が居たもんで気になったんだよ」

「は、はぁ」


しかし、その女の後ろには驚くべき車が1台停まっていた。

(あれ…あの車って…)

「どうかしたのか?」

「いや、あの車は…あなたのですか?」

「そうだ。俺の車だ。…何か気になるのか?」


俺、とは変わった一人称の女だな、と令次は思いつつ、確認は取れたので一安心。

「えーともしかしたら、あのGTウィング着けてるCR−Xとは、俺バトルしたと思うんですよ」

「え?」

「前に白い80スープラとバトルしませんでしたか?」

その質問に、女も「ああ…」と何かを思い出したらしく呟いた。

「確かにバトルしたな…って、まさか…」

「それ、運転してたのは俺です。あの時はどうも」

「マジかよ…まだ結構若いじゃん」


女はスープラのドライバーがまだ若い令次だとわかり、驚きの顔で令次を見つめた。

「そうか…一応名前を聞いておこうか?」

「宝坂令次です」

「変わった名前だな。俺は遠藤 真由美(えんどう まゆみ)だ。ちなみに俺とか、この口調は昔からの癖だから気にしないでくれ」

「はぁ…」


ちなみに何故真由美がこの直線コースの13号地で、CR−Xに乗っているのかと言うと「ただ単に金が無いから」だそうだ。

だが、真由美はここで衝撃の事実を令次に明かした。

「俺は…もう少ししたらプロのオーディションを受ける」

「え? それって…」

「レーシングドライバーになるって事だ。まぁ、まだ決まっては居ないがな。競争率が物凄いオーディションだけど…頑張ってみるぜ」

「そ…そうですか。頑張ってくださいね…」


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