第1部第15話


陽介とのバトルから数日後。京介は黄色いS15シルビアと、新環状線右回りでバトルしていた。

話は数分前にさかのぼる。

新環状線を走り込んでいた京介の後ろから、このS15がパッシングしてきたというわけだ。

もちろん即座に応じ、今こうしてバトル中。


このシルビアは、なんとコーナリングスピードが京介より速い。

(くっ…)



わざとテールにピッタリ張り付き、アクセルをブンブンふかして弄ぶように尊大な走りをしてくるシルビア。それにより

フラストレーションがたまっていく京介。

それがミスを引き起こした。湾岸線手前の大きく回り込む右コーナー。ここで酷いアンダーを出してしまい、京介はシルビアに抜かれてしまう。

(うわ…)

苛つきのあまりハンドルを叩く。何とか気持ちを落ち着かせようと、京介はすぅ、はぁ、と深呼吸した。

そしてシルビアのテールを見る。

(大丈夫だ。パワーはこっちの方が断然上! しかもこの先は湾岸線!)

気を取り直してアクセルを踏み込み、シルビアを追いかける。京介の走りに冴えが戻ってきた。



真夜中なのでアザーカーの数は多い。そこを縫うように駆け抜けていくシルビアとポルシェ。

そして勝負は再び新環状線へ。

冷静さを取り戻した京介は、上りながらブレーキングする右コーナーで勝負を仕掛ける。

(ここだ!)

シルビアより若干早めにブレーキング。そのままインから抜き去り、圧倒的な加速力を見せつけてバックミラーから消し去った。




だが。

(な、何だ?)

新たなパッシングの光。ふとミラーを見ると、青い大きな車が近づいてきている。

(何だ? 見たこと無い車だな?)

大型セダンが近づいてきている。どうやらバトルの申し込みらしく、京介は了承した。


ぴったりセダンはポルシェにくっついてくる。ボディの大きさも相まって、少し京介は息苦しさを感じていた。

(何だか圧迫感を感じるな)

とりあえず張り付かれたままなのは嫌なので、アクセルを踏み込んで引き離しにかかる。

しかし、後ろのセダンは強引に抜きにかかってきた!

(あ、危ねっ!)


やっぱり大型セダン。ちらっと日産のエンブレムが確認できた。そしてテールには「セドリック」の文字が。

(セドリック…? 日産の車なのか。知らない車だが、パワーは相当あるみたいだな)

抜かれはしたが、気を取り直してポルシェを加速させていく京介。



ピッタリテールに張り付いてじっくり観察してみる。セドリックは何だかふらついているではないか。

(危なっかしいな。早めに抜いてしまえ!)

そう思った京介は環状線内回り最初のS字、汐留S字で抜きにかかる。


アウトいっぱいから進入し、左でインにつく。

そして右に切り返すがインには寄り切らず、大きくラインを取って立ち上がっていく。

その後のトンネルまでの短い下り坂になっているストレートで、セドリックを抜き返した。


そのまま銀座区間で、アクセルを殆ど抜くことなく、京介はセドリックを振り切ったのだった。




京介は銀座で降り、近くの人気の無い路上へ。すると後ろから2台のマシンが。

1台はさっきのセドリック、もう1台は黄色いシルビア。その2台はポルシェの後ろに停車し、中からドライバーが降りてきた。

セドリックのドライバーは、青い髪が印象的な碧眼の外人だった。

「どうも、初めまして。俺はハクロ・ディール。よろしくな」

結構流暢な日本語で話しかけてくる。


シルビアの金髪のドライバーも自己紹介。

穂村 浩夜(ほむら こうや)だ。よろしくな。周二や陽介を倒したポルシェってあんただろ?」

もしかして、この2人は…。

「え、ええ…もしかしてあなた達は…」

「ああ、お察しの通り、十二覇聖のメンバーだよ。それにしても俺等もやられたって事は、後は湾岸と横羽しか残っていないってことだな」

「そうそう…湾岸線に行ってみろ。俺等よりストレートが速い3台が待ち受けているからな」


そうして一息ついたディールだったが、次の瞬間京介は、彼の性格を目の当たりにする事に。

「…さて、焼肉でも食いに行くか、浩夜?」


そのディールの言葉に、浩夜は「へ?」と気の抜けた声を上げる。

「え…あんたさっきラーメンって言ったはずじゃ…」

「はああああ!? 俺が焼肉って言ったら焼肉なんだよ!」

浩夜はその言葉に少しげんなりしているようだ。どうもこのディールという男、かなりワガママらしい。

はぁ、とため息をついて浩夜は了承し、2人はそれぞれのマシンに乗って去っていった。



浩夜とディールとのバトルを終え、翌日京介は湾岸線へ。

オーナーに頼み込んで、超最高速重視のセッティングを施してもらう。

加速は凄く悪くなったが、最高速の伸びが今までとは比べものにならない程良くなっている。

いろいろなチームの奴らとバトルする中で、スピードも300キロオーバーは当たり前、330キロに達しようとしている。

(うわ…凄いな。目がついていかねぇぜ…)

前にも300キロオーバーのバトルをしたことがあったが、やはり今でも怖い。とりあえず100キロまでスピードを落とした。


すると、後ろからパッシングの光が。ミラーを見ると、白い見慣れない車が1台。

正確には緑がサイドステップの所に塗られている。

(ん? 不思議な車だな? やけに全高が低い…それにこの音は、ロータリーエンジン?)

ロータリー独特の音が聞こえてくる。




とりあえず湾岸線のバトルに慣れる為にも、ハザードを点灯させてバトルスタート。

相手の加速は…。

(……凄い)


ヒュンと右に出てきたかと思えば、すさまじい勢いで加速していく。しかもそのスタイル、全然見たこと無い車だ。でもやたら速い。

何とか引き離されないように、必死にスリップストリームに入って食らいついていく。

(加速が凄い。少しでもハンドル操作をミスったら即クラッシュだ!)

ぎゅっとハンドルを握りしめ、京介は謎のロータリーマシンに食らいついていく。


しかし。どうやら相手の車は加速重視のセッティングだったようだ。

320キロを超えた辺りでスピードが伸びなくなってきた。それが京介に自信を取り戻させた。

(あれ? 向こうのスピードが伸びない…よし、俺の方が速い!)

スリップをギリギリまで使い、相手の後ろから飛び出してオーバーテイク。

すると相手はゆっくりゆっくりスローダウンしていった。京介も続けてスローダウン。

(ふう…なんて加速するんだ、あの車は…)




だが休息もつかの間。新たなパッシングの光がやってきた。

現在の位置は空港に向かう途中にあるトンネルの、料金所だったところをくぐり抜けたところだ。

すぐに次のトンネルに入る。


ちらっと入る前にバックミラーを見ると、濃い紫に塗装されたトヨタのソアラが。音からするとターボらしい。

クールダウンに入って間もないが、水温、油温共にまだ大丈夫そうだ。

ハザードで応答し、第2ラウンドがスタート。


このソアラの加速も凄い。兼山のソアラとは全然違う。

(ハイパワーマシンばっかりか! 湾岸線だから仕方ないのか)

どこか諦めに似た感情を抱きつつ、ソアラをブロックして突っ走る京介。

さっきの車とは違ってやや最高速重視にしてあるようだ。

(くそっ…これはまずいかもしれないな!)


少しでも油断を見せれば抜かれてしまう。とっさにバックミラーをひっくり返し、前だけを見て集中。

アクセルを床まで踏み込み、メーターを320以上まで回して振り切る。


それでもソアラは……あれ?

(いない…?)

何と、ソアラがいない。前にも横にも、後ろにもミラーの死角にも。

とりあえず勝ったと見て良いのだろうか?

(………………)

どことなく後味が悪いが、勝ちは勝ち、だろう。




でもそんな京介に、また別のマシンが接近してきた。トンネルを抜けてしばらくバトルとクルージングを繰り返していた時のことだ。

それをバックミラーで見た京介は、思わず「おわあっ!」という声を上げてしまう。

ボンネットから角が生えている………。

しかもパッシングの光が赤い。ライトカバーは真っ黒。

なんだこれ…音を聞く限りではRBの音。ライトの形からすると…わかんない。


とりあえずパッシングされたからには受けてみる。

赤い車の加速はさっきの2台以上だった。ものすごく速い。かなり速い!

そして前に出られてしまう。


と、ここでベース車が判明。

(R34GT−R?)

ライトの形からやっとベースがR34だとわかった。でもこれ、まるで某ロボットアニメみたいなマシンではないか。

角が生えてる、サイドには06S、リアのディフューザーも突き抜けている。

凄いを通り越して気持ち悪い。変態級だ。


京介も口をあんぐりとさせたまま固まっている。

(なんだあれ…あれでここ走りに来てるとか、狂気の沙汰だぜ!)

違った意味で、と最後に付け足してみる。


だが走りは外見に似合わず、ものすごい速い。一般車の間を華麗に縫っていくように走っていくその走り。

そしてそのエンジンパワー。明らかに350キロは出ているらしく、少しずつ引き離されていく。

(速い…引き離される!!)

少しずつ、でも確実にベイブリッジの上で小さくなっていくR34を見ながら、京介はアクセルから足を離そうとした。

しかし…。


(…あれ?)

コーナー前で過剰に減速するR34。

(こいつ…もしかして)


とりあえず何か確信した京介、コーナーへの突っ込みで遅れていた分を少し取り戻す。

その後大きく右に回り込むコーナーでも、R34のスピードは格段に遅い。

ここで一気に差を詰め、インからオーバーテイク。


その後に抜かれないようブロックしつつ、シケインで完全にR34を引き離す。

(まさかあれ…完全な直線番長だから、コーナリングは全然…!?)

そうとわかればもう怖いものはない。

その後の直線では差を詰められるが、横羽線前の大きな右コーナーで、完全にR34を振り切ることに成功した京介だった。


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