第0部第10話(エピローグ)
PAに戻った連は、さっきのポルシェがPAに入ってくるのを見ている。そのポルシェからは物凄い威圧感が漂ってくる。
(凄いパワーを感じるぜ…)
普通に走っていてもこれだけの威圧感があるのだ。だが、そのドライバーがポルシェから下りてきたのを見た途端、連は自分の目を疑った。
(な…!? なん…だと…!?)
髪の色が車とは対照的に、メチャクチャ派手である。オレンジ、緑、黒の3色…。
連がポカーンとして口を開けて見とれていると、そのドライバーは連に気がついた。
そして固まっている連の前でひらひらと手を振る。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「はっ!? あ、し、失礼しました。髪の色に唖然として…」
「ああ、これね。よく言われるよ。派手だって。もしかして、さっきのR32の人かな?」
「はい、椎名 連です。もしかしてあなたは…」
「そう。俺は渡辺 亮(わたなべ りょう)。一応裏四天王をやらせてもらってる。君が噂のR32か。確かに「エキゾーストイヴ」を倒しただけあって、速いな」
「エキゾーストイヴ…?」
何だその名前は、と連は首を傾げたが、亮はそれに気がつき即座に訂正。
「百瀬和美って人がいるんだけど、その人のあだ名だよ」
ああ、あの裏四天王で、格闘家の女か、と連も思い出したようだ。
「俺は何だか、負け数がゼロってだけで「ZERO」とか呼ばれてるんだけど、実際呼んでもらいたくは無いよ。
…ま、それは良いとして、最後の裏四天王は俺はまったく知らないんだ」
「…へ?」
亮によると、亡霊だとか幽霊だとか物騒な噂が流れていることしか知らないのだという。
残る裏四天王はあと1人。亮は確かに速かったが、それ以上の存在がいるらしい。
最後の仕上げに各PAで情報収集を開始。
集めまくった情報を整理すると、こういうものだった。
ドライバーの正体はわからない。女か男なのかも。乗っているのがミッドナイトブルーのS30・日産フェアレディZということ。
「首都高に巣食う魔物」、「何十年も前に走っていた伝説の走り屋の亡霊」など、いろいろな噂があるが、
いずれの説にも共通して言えるのは、真に走りを極めた者の前にしか現れないということである。
ボディは往年の名車だが、その中身はまるで別モノ。
まるで魔力を宿しているかのような加速力と、常識を超えた旋回能力はまさに伝説と呼ぶにふさわしい。
先行している時は追うものの気力を削ぎ、追跡中は絶えずプレッシャーを与え続ける。
そんな噂を聞き、連の背中に嫌な汗が流れる。
C1外回りを走りつつ、身震いをする連。ハンドルを握り締める手がぶるぶる震える。
(ああ怖い…もしかしたらすぐ後ろにいたりして…)
そう思って、チラッとバックミラーを見た連の目に映ったものは……。
(あ……!)
ミッドナイトブルーのS30Z。しかもパッシングされた。
SPメーターが反応する。
断ることはできなさそうだ。体が動かないのだ。今いる地点は丁度、C1と新環状線の分岐手前。
銀座線へ続く右コーナーの少し手前だ。
そしてバトルがスタート。しかし噂どおりの恐ろしい加速で、前に出て行くZ。
(速い…!)
連も追いすがるが、それでも差が縮まらない。軽いボディにハイパワーなエンジンは強力だ。
だがコーナーはやはり、常識を超えてるとはいえ古いサスペンション。20年の時を経たR32とZの間には大きな差があった。
銀座へ続く右中速コーナーへの突っ込みで、前を取って引き離す連。
しかしコーナーを立ち上がって坂を駆け下り、バックミラーを覗くとZが物凄い勢いで追いすがってきた。
(うわあああああ!?)
怖さを押さえ込み、目尻に涙を浮かべながらも爆走する。
26歳にもなってこれかよ…ともう1人の自分が呆れながらも、やっぱり怖いものは怖い。
しかし橋げた区間から先は、他の参加者が走っていたためにラインが思うように取れない。
Zの古いサスペンションでは、急旋回や急減速は辛そうだ。
R32の旋回性能を活かし、ここで一気に突き放す。
橋げたを過ぎ、S字もこれまでに無い突っ込みで駆け抜ける。トンネルのS字も同様にだ。
最後は極限まで立ち上がり重視のコーナリングに徹し、追いつかれ無いようにスピードを上げて何とか振り切った。
(はぁ…これで…終わった!)
全てのバトルが終了し、連は文字通り首都高最速になったのであった。
「全て終わったか…」
「はい、終わりましたよ沢村さん。今まで本当にありがとうございました」
シルビアの頃から、今までずっと面倒を見てくれた沢村洞爺に対し、連はお礼を言いに出向いた。
R32はこのまま乗り続けていく。
せっかくの限定モデルのニスモ仕様だ。しかもここまでカスタムしたため、簡単に手放すことも出来ない。
だが街乗りには537馬力もいらない。
なので沢村に頼み、406馬力までパワーを落としてもらった。
これから先、新たなコースとなる新環状や湾岸線、横羽線が開通する。
それまでは首都高サーキット、そして富士スピードウェイや筑波サーキットでドラテクの特訓だ。
まだまだ連の走る道に、終わりは見えない。
そう、首都高全域がサーキットになった時、また新たな挑戦が始まるのだから。
第0部 完