第0部第8話


「本当に申し訳ございませんでした! 僕が悪かったです!」

ボコボコになったNSXと、ボロボロにされた自分のプライド。

その2つの事実を受け止め、メガネの男はPAで待っていた連に土下座で謝罪した。

土下座している男の前では、連が仁王立ちで怒りのオーラを放っていた。


「あれだけ大口叩いてた割には、派手にやったもんだな。ええ?」

土下座している男の銀髪で覆われた後頭部を、連はぐりぐりとスニーカーの裏で踏み潰す。

「ぶわ…!」

「んで? あんたは直線で追い抜くのは腕が無いとか言っておきながら、直線で追い抜いていきやがって。

そして負けたんだから赤っ恥だよな、マジでよ」

「ごめんなさい…本当に…」


「おい、夢見の生霊が負けたぜ…」

「しかも土下座させられてるよ……いい気味だ」

周りでは遠巻きに、ギャラリーとなった走り屋達がひそひそと話をしている。

やはりこの男は相当嫌われていたようだ。

しかし、連は自分まで別の方向で有名になったらまずいな、と思い、この辺りで止めておくことに。

「ふん…まぁ、いい。もう勘弁してやるから帰れよ」


だが、足をどけられて顔を上げた男は、とんでもないことを言いだした。

「すんません…でも、その前に1つ頼みたいことがある」

「何だよ?」

「僕を弟子にしてくれ!」


「……は?」


何と、いきなり訳の分からない事を抜かしだしたこの男。

「で、弟子って…」

「正直に言うと、四天王になってからの僕を打ち負かした奴は、あんたが初めてだ。…頼む!」


しかし、男の要求に連は首を横に振った。

「…悪いが俺にはまだやるべき事がある。今は弟子なんて取っている暇は無いんだ」

「そ、そんな」

「すまないな、期待にこたえてやれなくて」

その連の言葉に、男は少し寂しそうな顔つきになった。

「そうか、わかったよ。ならせめて…あんたの名前だけでも教えてくれないか? 僕は岸 泰紀(きし やすのり)だ」

「椎名 連だ」

「覚えておくよ。僕は数年前に北海道から来て凄い奴に出会えたんだ。きっとまたどこかで会うだろ。…じゃあな」



こうして、連は文字通り首都高最速になった…はずだったが、ライバルリストにはまだまだ空きがある。

これを埋めないと、最速にはなれないはずだ。

(残りは大体30人程か…)

残りのチームも速い車とドライバーがいるので、四天王を全て倒したということで連は沢村の元へ向かった。


「そうか、四天王を全員倒したか…」

「はい、後は残りのチームだけですね。俺のR32に…最高のカスタムをお願いします」

首都高最速を名乗るために。

沢村もその考えには了承し、エンジンパワーを更に引き上げ、そのほかのパーツも軽量な強化品に取り替える。

パワーは537馬力を搾り出すまでにパワーアップされた。

「これが今の俺に出来る、最高のカスタムだ。後はお前自身だ、連」

「はい、ありがとうございました」

「…いいって」



最高速こそ変わってはいないが、最高速に到達するまでの時間が短くなった。

これまでより更に、4WDの武器である立ち上がりの加速が活かせそうである。

(これなら…!)

そしてその読みは当たり、突っ込みで少しミスしても立ち上がりの加速で取り返せるようになった。

(行ける、行けるぜ!)

だが、やっぱり物事は上手く行かないもの。

上手い具合に勝ち続けていた連だったが、PAに戻って休憩していると、気になる話が飛び込んできた。


あの四天王より更に上を行く裏四天王、通称「The 4 Devils」が現れたという。


突然現れた4台のマシンは、いずれも高性能車ばかり。しかもかなりのハイチューンが施されているらしい。

中には外車も混じっているのだとか。

「裏四天王…何の漫画だ?」

そんな追加キャラは漫画やゲームの中ぐらいの話だと思っていたが、また倒すべき目標が増えたようだ。



しかし肝心の車種がわからないため、いつものごとくライバルリストを埋めていく。

後20人ほどで裏四天王以外が全て埋まるのだ。

(裏四天王か…何なんだよ、マジで。でも速いんだろうなぁ)

呆れと恐れが入り混じった感情を抱きつつ、新たなライバルを倒していく。


すると、外回りで女だけのチームのリーダーを倒した後、連は何だか後ろから物凄い威圧感を感じた。

(……なんか、スッゲー嫌な予感がする)

恐る恐るミラーを見ると、そこにはHIDのヘッドライトを装備した赤いマシン…まではよかった。

パッシングしてくるそのマシンが横に並んだ時、連の背中に嫌な汗が流れる。

(…ツノ?)

屋根には何故かツノが生え、ボンネットには変な紋章を象ったステッカー、サイドには「06R」の文字。

ベースは藤尾のS15シルビアと同じく、今年出たばかりのR34GT−Rだ。

(どう見てもあのアニメのパクリだろ…パロディか?)


でも、こんなマシンは今まで見たことが無い。

R34自体は見たことが何回かあるが、これはさすがに無い。むしろ見たく無い。

あのアニメのごとく3倍速くなったりするまでは行かないと思いたい。

という訳で、ハザードを消してバトルスタート。しかしその瞬間、違うことで連は驚くことに。


(…うわ早っ!?)

加速が恐ろしく速い。R34はR32に比べてトルクアップが果たされたらしく、同じRB26DETTでも少し違う。

…が、これは何だか別格だ。

よっぽどのハイチューンが施されているのだろう。このR34、ストレートがめちゃくちゃ速い。

コーナーは連が速いがストレートで取り返される。

そのため、加速に勝るこの痛いR34をどこで抜くかを、連は必死に考える。

外回りはスピードも乗るので直線で仕掛けるのはつらい。

(この先にあるコーナーといえば汐留S字か! そしてその先にある分岐の右コーナー!)

あまりのんびりもしていられない。R34より軽いR32とはいえ、限界走行を続ければブレーキが利かなくなってしまう。

(利きがいい今の内に、1回こっきりの超ヤバブレーキングで仕掛けるか…)


このR34はかなり上手いが、連にとっては抜けない相手じゃない。まずは汐留S字前のトンネルのコーナーで接近。

大きくラインを取り立ち上がり重視でコーナリング。

ラインが苦しい分R34のテールは一時的に離れるが、その分ワイドなコーナリングラインが描けるのでコーナリングスピードが稼げる。

そしてスリップストリームに入って、汐留S字の左コーナーで120%の突っ込み!

先行のR34も一緒になってコーナリングしようとしたが、R34の重さではブレーキングが足りずにアンダーを出してしまう。

そのままインから抜き去り、連は逃げ切って何とか勝利した。

新しい車が必ず、速いわけではないということだ。



PAへ入り、何だか精神的に疲れたので休憩を取る。

だがあろうことか、あのR34がここにやってきた。

(うえ…)

こんなのがあのスピードで走っているのか……と頭が痛くなった連だったが、そのドライバーを見て更にびっくり。

その搭乗主のコスプレをしている。更にこっちに向かって歩いてきた。


(頼む…こっち来るな!)

連の表情は変わらないが、内心では今すぐにここから逃げ出したい。真っ先に逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

だがそんな思いとは裏腹に、コスプレ野郎に話しかけられた! 最悪だ!

「どうしたあんた? 表情が暗いぞ?」

それはあんたのせいだよ、と言いたくなったが、言っても仕方ないので連は冷静に流す。

「いえ、大丈夫です。初めまして、椎名 連です」

「連…ね。俺は白井 永治(しらい えいじ)だ。裏四天王の1人。よろしくな。ところで聞いて欲しいんだが、ファーストについて……」

その後、PAでは3時間にも及ぶ某ロボットアニメの講義が永治から連に行われた。

精神も体力も使い果たした連は、疲労困憊のまま家に帰るのであった。



そして数日後。某ロボットアニメの夢に数日間うなされていた連の元に、新たな情報が舞い込んできた。

次の裏四天王は、由佳と同じく女のドライバーらしい。

それまではまた、ライバルリストを埋める日々だ。ライバルリストもほとんど埋まり、残るは10人。

しかしこの10人は結構速く、なかなか苦戦した。

何回か負けたりもした。首都高の四天王を倒したからと言って、まだ1番速いと言う事にはなってないようだ。


その10人の内、外回りでNSXばかりのチームのリーダーを倒した時だった。後ろから物凄いエキゾーストが響いて来る。

そしてその車はパッシングを浴びせて来た。

(…お出ましか!)

横に並んで来たのはピンクのJZA80スープラ。しかもボディ中央には赤と緑のストライプが入っている。


そのまま銀座に突入した所でバトル開始。

コースは2回目の下り坂を一気に駆け抜け、ここでR32がスープラとの差を少し広げる。

スープラは岸のNSXと同じく3リッターのエンジンを持つが、NSXと違うのはターボがついている。その代わりR32より車重が重い。

銀座の橋げたコーナーで一気に食いつかれる連のR32。

(くそ…!)

後ろのスープラが全然離れない。だが連は気を落ち着かせ、その後自分を奮い立たせる。

(…焦るな。コーナーに入れば引き離せる! この先の汐留S字まで我慢だ!)


そう思っていたが、スープラのコーナーへの突っ込みは恐ろしかった。

汐留S字でインからスパッと抜かれてしまう。どうやら、物凄いブレーキング技術を持っている様だ。

(……くっ)

2台は更にペースをあげて加速。外回りに再び戻り、連続シケインで目いっぱいのフルブレーキからコーナリングする裏四天王のスープラ。

それに対して、立ち上がりとその後の加速で勝負する連のR32。

とはいえ立ち上がりで差が詰まっても、まだスープラの後ろにいるR32のSPゲージは少しずつ減っていく。

(SPが…! でもこうなった以上、綺麗な勝ち方にこだわってもいられないな!)


外回りでは、赤坂ストレートに当たる長い直線が霞ヶ関トンネルの前に存在する。

そこで連はスリップストリームという、空気抵抗を減らす技術を用いてスープラの後ろに喰らい付く。

(行くぞ、スープラ!)

そして四天王のスープラがフルブレーキ。だが連は、そのスープラより少しブレーキを遅らせて突入! スープラはやはり重い。

それ故に霞ヶ関トンネル前のこの右コーナーは、かなりスピードを落とさないと曲がれない。

しかしR32は軽く、スープラより少しブレーキを遅らせても、アンダーステアを殺せればしっかり曲がって行ける。車重の差だ。

もし相手のスープラの女が同じR32に乗っていれば、裏四天王の女の勝利だったかもしれない。

今回は連の勝ちとなった。


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