第1部第14話
令次とのバトルが終わり、京介はこれまで稼いだ金を使って新たなマシンを手に入れる事にした。
十二覇聖という新たな集団も現れてきた、と聞きつけて来ている。
何でもあの迅帝以上の腕の持ち主ばかりが揃い、首都高に君臨していると言う。
それを聞いた京介は沢村に相談してみる。
「そうか、あの姿を消していた12台が帰ってきたか。マシン的にはそんなに手強くは無い筈だ。…よし、こっちに来てみろ」
京介は沢村と一緒に店の奥へ。
そこにはブルーシートが被さった車が1台。
「これは?」
「俺の全てを注いだマシン。京介ならきっと扱える筈だ」
そう言ってシートを取り払う沢村。そこから出てきたのは…。
「え…これは…」
現れたのは黒の911ポルシェ。しかも沢村はターボモデルだという。
「最初は戸惑うかもしれないな。一応扱いやすいセッティングにしてはあるんだが」
「あ…ありがとうございます! あの、お代は…」
「1000万」
沢村の言葉に、京介の顔が一瞬にして固まる。
「と言いたいが、300でいい。ただ、十二覇聖の奴らを倒してくれると約束するなら…だ」
京介、一気に脱力。
「で…できるだけ頑張ってみます」
「そんな意気込みじゃダメだな」
「…わかりました。何回負けようと、必ずや全員を倒す事を誓います!」
「よっしゃ、それで良い!」
こうして京介は新たなマシン、ポルシェ911を現金払いで手に入れた。
早速首都高に繰り出し、そのスペックを確かめる。
(凄い! これは確か4WDだから、トラクションの掛かり方がFDとはまるで違う! でもFDより曲がらないな。アンダーがきつい部分がある)
しかしそれでもしっかりアンダーを殺し、911を曲げて行く。
まだまだ乗り切れていないと思いつつも、ポルシェに慣れることも兼ねてバトルを繰り広げて行く。
そんなことが10日ほど続いた頃だろうか。いつものようにC1の芝公園パーキングに繰り出す京介。
バトルを一段落させ休んでいると、突然見知らぬ女が声をかけてきた。
やけに明るい性格の、紫に近い青髪の女だ。
「どうもこんばんは! ねぇ、あなたが宝条京介君?」
「は、はぁ、そうですが…あの、あなたは?」
「私? 私は神橋 洋子(かみはし ようこ)。宜しく。……でも変ね。FDに乗っているって聞いたけど?」
「えっと、令次さんとのバトルで壊れて、今はこのポルシェに」
「そう…ならバトルは出来そうね」
その言葉に京介ははっとする。
「もしかしたら、俺とバトルを?」
「うん。私の車はあのGTO」
洋子が指さした先には、赤い初期型のGTOが確かに停まっている。
「わかりました、受けて立ちます。十二覇聖と戦うためにもいろんな人とバトルしているので」
すると、今度は洋子がはっとした。
「あの…私その十二覇聖のメンバーなんだけど…」
「え!?」
「だからあなたを探してたのよ。迅帝を倒した宝条京介の話は私達の耳にすぐさま届いたから。
じゃあ始めましょう。あなたが先行、私が後追い。…言っておくけど、十三鬼将の明よりは速い自信があるから、お互い頑張りましょう!」
そう言い、洋子はGTOに歩いていった。
(あの人が…いや、油断は禁物だな)
洋子の後ろ姿を見つめつつ、京介もポルシェに乗り込んだ。
C1外回りを舞台に、バトルが始まった。
なんと洋子のGTO、加速がかなり鋭い。簡単に京介の前に出ようとする。だが京介もしっかりブロックして前に出させない。
(パワーはこっちより上か? それとも加速重視のセッティングか?)
ぐっとアクセルを踏み込み、ポルシェを加速させていく京介。
洋子はアンダーを出さないようGTOを曲げていく。しかし突っ込みのスピードは京介に明らかに劣っていた。
(ストレートは確かに速い。が、俺のポルシェと同じくらいの重さなのにコーナーはこっちが速い。…これなら、行ける!)
たとえ十二覇聖だからと言って、ビビるほどではないということがわかった。
京介の走りにだんだん自信が戻って行く。ポルシェの利点であるトラクションの良さ、RRであることのブレーキングの安定性を生かして、
速いスピードから早めにブレーキング。スパッと向きを変えて立ち上がって加速。
(走りにキレが…!)
洋子も京介の走りが変わった事に気が付いた。
京介はこれを皮切りに少しずつGTOを引き離して行く。
そして丸ノ内トンネルを抜け、その後の高速コーナーを抜けた時にはもう、洋子とGTOはミラーに映っていなかった。
「はあ…とんでもない突っ込みするのね。ポルシェとは思えないあの突っ込み、恐るべしよ」
「いや、洋子さんのGTOもものすごい加速なんですね。C1じゃなかったら負けてましたよ」
「そうかしら? ありがとう。C1だから結構加速重視にギアセッティングしてあるのよ。
…さて、次のメンバーはね…NSXに乗ってて、1年前、このC1の達人と呼ばれてた人。でも、あなたならきっと勝てるわ。頑張ってね」
洋子はそう言い残し、GTOに乗り込んで帰っていった。
「またNSXと戦うのか…」
前回の事を思い出し、京介はため息をつきながら倉庫に戻るのであった。
数日後、またC1までやって来た京介。
だがNSXの姿は無いため、軽くウォームアップランをして時間を潰す。
それから30分位した頃だろうか、駐車場の中にVTECのエンジン音が響き渡ってきた。
それに呼応するかのごとく、シートで寝ていた京介はポルシェから降りて音の主…NSXに近づく。
(あのNSX…金色だ)
NSXの中から降りてきたのは緑髪の男だった。
「宝条京介だな? 洋子から話は聞いた。今度の相手は俺だ」
「NSXだろうが俺は勝つ。それだけだ」
「あんたが先行。先に内回り1周した方が勝ち。それで良いな?」
「ああ、良いぜ」
「俺は松原 周二(まつばら しゅうじ)。行くぞ」
2人はそれぞれのマシンに乗り込んだ。
先行後追いでバトルスタート。ポルシェにとってC1、しかも内回りはきつい。
NSXは軽量なボディのおかげで、ポルシェよりは楽だ。
(揺さぶるぞ…!)
周二はプレッシャーをかけて揺さぶるが、京介は動じない。精神的な強さも身につけているようだ。
(いくら煽られようが、前に居ればこっちが有利だ!)
バックミラーを見ない様にしつつ、あくまで我が道を爆走する京介。
そして勝負は佳境へ。終盤にある汐留S字前のストレートで周二が抜きにかかる。
(ここで勝負だ、ポルシェ!)
京介がブレーキングしたのを見てから周二はブレーキング。
…だが、周二はここで計算が狂った。NSXがアンダーを出して、ポルシェの方にふくらんで来る。
(ちょ…そんな! 俺の方に…)
とっさにフルブレーキングで京介は回避。NSXはそのまま壁に向かってすっ飛んでいく。
(くっ…止まれ、ポルシェ!)
サイドブレーキを引き、NSXとポルシェは双方車をスピンさせ、何とか事故だけは免れた。
そのままPAにたどり着き、2人が車から降りた。
「俺とした事が……タイヤの消耗を計算に入れてなかった。最悪だぜ…」
周二は序盤から中盤にかけて、京介に対しプレッシャーをかけ続けた。それがタイヤの消耗を早めてしまい、
アンダーステアが出てスピンせざるをえなくなったと言う訳である。
「…じゃあ、次の十二覇聖の情報だ。新環状の方に行ってみろ。速い180SXが居る筈だ」
それだけ言うと、周二はNSXに乗って去っていった。
「待ってたぞ。周二から噂は聞いてる。俺は陽介(ようすけ)ってもんだ」
「宝条京介だ、よろしく」
新環状のPAで1人の男と、京介が対峙していた。今回の相手のマシンは何と、茶色っぽい日産の180SX。
「悪いが180SXだからってなめてもらっちゃ困るぞ。完全にここ専用のセッティングにしてあるからな」
「ああ良いだろう。手はぬかねぇぜ!」
「じゃあ行くぞ! 3,2,1,GO!」
その辺にいた走り屋をひっつかまえ、カウントを入れてもらって2台がスタート。
福住からスタートして新環状右回りへ。
ゴールは台場線を越え、C1内回りに合流したところでゴールだ。
まずは緩いコーナーがだらだらと続く高速セクション。最初は軽さで飛び出した陽介が、そのまま前で突っ走る。
(結構食いついてくる…まぁポルシェだから当然か)
そのまま突っ走り、湾岸線前の大きな右コーナーに突入。
(ついてこれるかよ! この軽い180SXのブレーキングに!)
結構奧まで突っ込んで、陽介はブレーキング。そのまま軽さを活かしてコーナーを駆け抜け、立ち上がっていく。
(どんなもんだ…絶対についてこれるわけ…あれ?)
だが、180SXのバックミラーには、ポルシェのライトがはっきり映っている。
(うわっ!?)
コーナーで引き離したと思ったら、食いつかれているではないか。
とりあえずストレートでは、陽介は勝ち目がないので、多少荒っぽくなるがアザーカーを使って、スリップストリームで速度を稼ぐ。
それで湾岸線は何とか凌ぎきった。
そして新環状線に入り、上りながらのブレーキング! ここでも陽介は目一杯突っ込んだつもりだったが…。
(う…お!)
ブレーキングで京介が食いついてきた。しかも180SXよりも重たいポルシェで、だ。
(離れたと思ったのに、気が付けばいきなり近くにいる!?)
京介の突っ込みのスピードに唖然とする陽介。
(そんな…俺のブレーキングが、ポルシェに負けてる…?)
京介は結構精神的に余裕を持ち、180SXのテールを眺める。
(そろそろ抜くか…)
レインボーブリッジを越えて右コーナーを抜け、最後のコーナーであるS字コーナーへ。
陽介は目一杯の良い突っ込みを見せたが、京介はあっさり立ち上がりで右側からパス。
(そんな…)
陽介呆然。しかも抜き返すポイントはもう…無い。