第0部第1話


スピードをむさぼる獣の群れ

闇を切り裂く赤い爪痕


闇の主

4人の堕天使


鏡に封印された獣は

力尽き、闇に呑まれる


深夜の首都高

300キロで駆け抜ける男達がいる

非日常的な世界


誰が言い出したのか判らない…

本気でココを走る者を

COWBOYと呼ぶようになった


首都高最強と言われる

「The 4 Devas」

4人のCOWBOY


皆は集まる

彼らを倒し、そして…


自らが真のCOWBOYになる為に…





1999年4月。新首都高速の完成により、首都の動脈としての首都高はその役割を終える。

時の政府はモータースポーツ振興の一環として、政府により深夜限定の完全な

ハイテクサーキットとして復活を遂げる。

C1環状線のサーキット化が終了。首都高サーキットの完成だ。

勿論首都高は環状線だけでは無い。来年の2000年にはC2新環状線、湾岸線、横羽線も

サーキット化の対象として、現在工事が進められている。



その首都高サーキットC1環状線に、1人の男が乗り込もうとしている。

名前は椎名 連(しいな れん)

黒のS13シルビアに乗った、金髪の26歳。若きカー雑誌編集者である。

(ここが…首都高サーキット…)


カー雑誌の編集者を生業としているだけあり、車が好きでこの業界に入った。

連の雑誌は主に、整備関連のことに関して記載されている雑誌である。

が、連自身のS13シルビアはと言うと、ほとんどノーマルだ。

確かに車のカスタムには興味があるが、それよりもまずは自分のドラテクレベルを上げること。

整備のことは有名ショップに出向き、記事として書き上げ、自分でも実践しているので自信はある。

しかしカスタムのことに関しては、良くわからないのが実情だ。

普段、連は富士スピードウェイや筑波サーキットを攻めている。しかし走行会の費用もバカにならないのが実態。

そんな中で、サーキットとして生まれ変わり、しかも格安で開放された首都高。

これはもう来ない手は無い、とばかりに、意気揚々としてやってきた連であった。


コースは前述の通り環状線だけだ。C1環状線はカーブが多く、比較的ライトウェイトな車でも戦えるテクニカルコース。

つまり、シルビアでも勝機はあるというわけだ。

だがテクニカルコースと言っても、それは首都高速道路の中だけ。

首都高速は筑波サーキットとは違い、富士スピードウェイのような超ハイスピードコースなのだ。

勝機があると言っても、それはカスタムされた車での話になる。

ほとんどノーマルのシルビアでは、大排気量のスープラやGT−Rには勝てない。むしろ負けるであろう。

とは言っても、最近は支出も多く、所持金があまり残っていない。

次の給料が出るまではカスタムは我慢だ。


そして連は首都高C1サーキットへと上がっていく。愛車のシルビアと共に。



(…首都高は、編集で神奈川とか行くときに良く使っていたが……公道そのままだな)

まずはコースのチェックを兼ね、130キロを保ちつつ一定の速度で走りこむ。

オービスが撤廃されたのはわかってはいるのだが、どうしてもこの場所で踏み込むのに若干躊躇してしまうのもまた事実。

走り屋の性質とでも言うのだろうか……。

ブルブルと頭を振って、乱れた金髪を掻き上げて連はコースチェックに意識を集中させる。


首都高速都心環状線(しゅとこうそくとしんかんじょうせん、Inner Circular Route)は、首都高速道路の路線の一つ。

東京都の、千代田区、中央区、港区を通る。全長約14.8km。

東京の都心内部を一周する環状線である。主に、各放射線同士を接続する役割を担う。


公道として使われていた頃は、ひとたび事故が起これば渋滞。高速道路が低速道路に切り替わる瞬間がいくつもあった。

しかし、完全なサーキットとして生まれ変わった今となっては、そんな心配は皆無だ。

一般車がいないので、走りに来ている参加者たちは気兼ねなく走ることが出来るのである。

勿論、その中には攻め過ぎて、自爆したり多重クラッシュする者もいるが…。

基本的にはオフィシャルがいつでも対応できるよう、トヨタ・ハイエースのサポートカーを何台も走らせている。

アクシデントやクラッシュが起これば、最寄のサポートカーが駆けつけて事故処理をしてくれるのも、うれしい限りである。


コースの方はというと、公道ベースのサーキットとあって、綺麗に舗装、メンテナンスされた富士スピードウェイや筑波サーキットとは違う。

路面はつぎはぎ状態、ギャップだらけで合流もメチャクチャ。

長い間使われてきただけあり、200キロ出せばよっぽど安定している車でも無い限り、路面とタイヤの設置感が消えていく。

いや、むしろ150キロでも怖い。

連自身も、1周して全開走行に移ってみたが、シルビアの古い足回りでは恐ろしくてギリギリまで踏めないのだ。

(こ…怖っ!)

足回りのセットアップには相当苦労しそうだな、と、ここに来たばかりなのにため息をつく連だった。



まずはとにかく、コースを覚えて慣れる事。コースを知らないまま、この首都高サーキットを

先に走りこんでいる走り屋達とバトルするのは分が悪い。

そこで毎日毎日、まずはバトルをしつつしっかりとシルビアで走りこむ。

そして、コースを覚えるのと同時にシルビアに何をすれば、ここで速くなれるかを考える。

パワー? タイヤやブレーキ? 軽量化? コーナリング性能? 挙げて行けばキリが無い。

そのためにまずは走りこむのだ。18歳で免許を取って、最初に買ってから8年も乗っているこの黒いシルビア。

しかしまだまだ扱いきれてはいないと、連は自分で思う。


とりあえずまずは、近くに居たパンダカラーのハチロクトレノとバトルだ。

パッシングをしてきたら、それにハザードを点灯させる。そして絶対に断ることは出来ない。

ハザードを点けてから10秒後に、ハザードを消してスタート、という流れだ。

首都高サーキットへ参加する人の車内には、小さな箱で表示される「SPゲージメーター」が取り付けられる。

自分のSPゲージメーターと、パッシングした相手のSPゲージメーターは、それぞれの相手の情報が信号で伝わり、

メーターが補充されてバトルが出来るという仕組みになっている。

相手に引き離されるとSPゲージが減り、先にゲージがゼロになったほうが負けだ。壁やサポートカーに接触しても減ることは無い。


ハチロクはハザードを点ける。連は心の中でカウントを始め、10秒したところでハザードを消してアクセルオン。

相手はカスタムされたハチロクではあるが、NAのままなのか加速はターボのそれには及ばない。

江戸橋のコーナーの先からは高速アップダウンのコーナーが連続する。2台はそこからスタートだ。

連のシルビアはライトチューンだが、220馬力を発生している。最初は高速区間だけあり、シルビアがじりじりとハチロクを引き離す。

(問題はコーナーだな)

ハチロクの武器はシルビアより軽い車重にある。これから先の赤坂ストレートまではフラットでテクニカルな区間。

そこまでにいかにして、ハチロクとの差を広げられるかが勝負だろう。


バトルは千代田トンネルへ。ここの入り口は下りながらの左コーナーになっており、きつめの部類に入る。

ハチロクは少しブレーキを遅らせ、一気に連に食らいつく。

(そ、そこまで突っ込んでくるのかよ!?)

バックミラーに映るヘッドライトに、連は内心とんでもなく驚いている。これは良い勝負だ。


千代田トンネルを出て霞ヶ関トンネルへ。

入り口の大きな高速右コーナー。ここで連はしっかりブレーキングをしてフロントに加重を移す。

ハンドルを切ってターンインし、ハチロクには及ばないが良いコーナーワークを見せる。

コーナーでは勝てないとなると、ストレートで勝負するしか無い。そのためにもまずは、踏めるところはきっちり踏むのだ。

ターボパワーを活かして全開。

霞ヶ関トンネルの出口は赤坂ストレートと言う、環状線で銀座の次にスピードが乗る直線だ。

そこでしっかりとアクセルを踏み込み、一気にハチロクを振り切ることに成功した連であった。


その日はそのバトルだけで終了させ、これから何をすればいいかを考える。

(今回、負けていたのはコーナリングか…。ということは、コーナリング性能がキモになるな。

パワーも必要だけど、コーナリングも環状線では重要だしな…)

テクニカルな区間で仕掛ければ、よっぽどパワーに差が無い限り、パワーの差ではなくコーナリングも重要になってくる。

だがそれには良い突っ込みをするためのブレーキ、高速コーナリングでしっかり車体を支えるサスペンション、路面にグリップを伝えるタイヤ。

どれもこれもただじゃない。

なるべく今の現状では、お金をかけずにカスタムをしたいところだが…と悩んでみる。


家に帰り、インターネットで情報を集めて、どんなメニューが良いかを調べてみる連。

すると1つの言葉に目が留まった。

「軽量化…?」

車体が軽くなるのはパワーアップだけでは無い。車体が軽くなれば止まる距離が短くなる。

ブレーキのポテンシャルがアップしたのと同じことになるのだ。またタイヤへの負担も減るし、ロールも少なくなる。

エンジンのレスポンスもよくなれば、燃費も良くなる。

軽量化はある意味、最高のチューニングだ。素人でもお金をかけずに大体出来る。

ボディ自体を軽量化するというと、それ以上はショップに頼まなければならないのだが…。

人間で言えば、背中にたくさん教科書が入ったカバンを背負って走っているときと、空のカバンを背負って走っているときの違いのようなものである。


早速連は実践。スペアタイヤ、その他もろもろ不要な荷物をまずは降ろす。

アンダーコートやエアコン、カーステなどは走りに要らない。音楽を聴きたいのであれば携帯ラジオや小型のカセットプレイヤーなどがあればいい。

それでもどうしても必要なときもある。

だが大丈夫だ。カーステは対角線に1本づつのビスがついていれば十分固定できるのだ。

エアコンは車種にもよるだろうが、シルビアは非常に軽いので、2本あれば固定できる。取り付けるときはこれだけで十分だ。

同じ要領でオーディオも外す。オーディオシステムが1番でかくて重い。20キロはある。

後はフロアマットや防音材、内張りを徹底的にはがす。リアシートも外す。

助手席は取材関係で人を載せることがあるので外せなかった。

それでもこれだけ外したりはがしたりすれば、40キロは軽量化になったであろう。小学生1人分軽くなったと考えてよさそうだ。



その翌日。首都高へと出向く前に連は向かうところがあった。都内の空手道場だ。

連は中学1年生の頃から、運動不足解消と体力づくりのために空手を始めた。

初段取得に必要な修行年数は、空手を始めて1年以上。2段の修行年数は、初段取得後1年以上。

3段は2段取得後2年以上で、年齢制限もあり18歳以上。

4段は3段取得後3年以上、5段は4段取得後4年以上。6段は…と言うように、段を重ねるごとに修行年数が長くなっていくのだ。


連は3月2日の早生まれ。現在26歳で来年27歳になる。

中学1年からの13年間、法事や会社の残業など、よっぽどのことが無い限り鍛練をサボってはいない。

15歳の冬に初段をゲットし、2段は19歳の夏にゲット。2年前に3段を取得し、現在は4段を取るために修行を積んでいる。

ボクサーはもっと体力があるというのだが、今更方針は変えられないと言うのが

金銭面の問題などもあって、空手一本に絞ろう、と決意したらしい。


車でも、空手でも、相手との駆け引きは重要になってくる。それに反応する動体視力や体力もだ。

空手の経験は、少なからず首都高でのバトルでも活かされている。


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