第8部第14話
「いずれ首都高の伝説と対決する日が来るだろう。その時までしっかり腕を磨いておけ」
確かに自分は、首都高最速の称号を得た。
だが、あの令次の一言が頭から離れない。首都高の伝説とはいったい何者なのだろうか。
そう思った瑞穂は、最後の仕上げに各PAで情報収集を開始。
集めまくった情報を整理すると、こういうものだった。
ドライバーの正体はわからない。女か男なのかも。乗っている車が、ミッドナイトブルーのS30・日産フェアレディZということ。
「首都高に巣食う魔物」、「何十年も前に走っていた伝説の走り屋の亡霊」など、いろいろな噂があるが、
いずれの説にも共通して言えるのは、真に走りを極めた者の前にしか現れないということである。
ボディは往年の名車だが、その中身はまるで別モノ。
まるで魔力を宿しているかのような加速力と、常識を超えた旋回能力はまさに伝説と呼ぶにふさわしい。
先行している時は追うものの気力を削ぎ、追跡中は絶えずプレッシャーを与え続ける。
そんな噂を聞き、瑞穂の背中に嫌な汗が流れる。
C1外回りを走りつつ、身震いをする瑞穂。ハンドルを握り締める手がぶるぶる震える。
(ああ怖い…もしかしたらすぐ後ろにいたりして…)
そう思ってチラッとバックミラーを見た、瑞穂の目に映ったものは…。
(あ……!)
ミッドナイトブルーのS30Z。しかもパッシングされた。
SPメーターが反応する。
断ることはできなさそうだ。体が動かないのだ。今いる地点は丁度、C1と新環状線の分岐手前。
令次を抜いたコーナーの少し手前だ。
そしてバトルがスタート。しかし噂どおりの恐ろしい加速で、前に出て行くZ。
(速い…!)
瑞穂もニトロを噴射して追いすがるが、それでも差が縮まらない。
軽いボディにハイパワーなエンジンは強力だ。
だがコーナーはやはり、常識を超えてるとはいえ古いサスペンション。20年の時を経たRX−7とZの間には大きな差があった。
銀座へ続く右中速コーナーへの突っ込みで、前を取って引き離す瑞穂。
しかしコーナーを立ち上がって坂を駆け下り、バックミラーを覗くとZが物凄い勢いで追いすがってきた。
(うわあああああ!?)
怖さを押さえ込み、目尻に涙を浮かべながらも爆走する。
23歳にもなってこれかよ…ともう1人の自分が呆れながらも、やっぱり怖いものは怖い。
しかし橋げた区間から先は、他の参加者が走っていたためにラインが思うように取れない。
Zの古いサスペンションでは、急旋回や急減速は辛そうだ。
RX−7の旋回性能を活かし、ここで一気に突き放す。
橋げたを過ぎ、S字もこれまでに無い突っ込みで駆け抜ける。トンネルのS字も同様にだ。
最後は残りのニトロを全て使いきり、追いつかれ無いようにスピードを上げて何とか振り切った。
(はぁ…これで……終わった…!)
全てのバトルが終了し、瑞穂は首都高速から降りる時がやってきたのであった。