第8部第11話
ようやく1つの嵐が過ぎ去り、迅帝が首都高サーキットに復活した。
しかしブランクがあるので、それが埋まるまではバトルは出来ない。そして令次の車もまだわからない。
さすがにF1カーでは無いだろう、と考えもしてみる瑞穂だが、苦笑いを漏らしてその考えを打ち消した。
ファントム9を倒してもらった金、総額何と500万。
どこからそんな金が出てくるんだろう、余りにもご都合主義な展開では無いかと思ったが、
貰った物は貰った物だ。
その金を持ってチームの元へと向かった瑞穂は、徹底的にGT選手権のクオリティに仕上げる。
スーパー耐久のST3に参加している瑞穂のレーシングチームは、本当は改造範囲が恐ろしく狭い。
市販車に最低限の改造を施したマシンしか参戦できない。
それでも瑞穂が首都高サーキットを制覇するまでの間は、チーム一丸で首都高サーキットにこだわる。
それは瑞穂のレベルアップを狙っての事だった。
公道をベースにしたサーキットなら、路面はサーキットと違って荒れ放題。
ゆがみやわだち、段差や合流、走りにくい事この上無い。
シルビアもRX−7もその首都高に合わせた改造が施されていたのだ。
後は瑞穂が、それをどれだけ扱えるかと言う事だ。
そのことをオーナーから聞いた瑞穂は、更なるレベルアップを狙って走りこむ。
自分に足りないものは経験だ。
まだ瑞穂は23歳と若い為、多くのライバルが集まる首都高サーキットは、色々な走りをする
ドライバーとの経験を積むのに最高の場所だったのだ。
そしてファントム9が倒れた後に復活して来たボス達がいるとの
情報を聞きつけた瑞穂は、まず渋谷線へと向かった。
そこでどれだけストレートが速くなったか確かめるのだ。
(うわ……!)
加速が凄い。達也のスープラには及ばないが、それでも凄い。
最高速は以前とあまり変わらないようである。
そして、そこでは不思議な3台の80スープラと出会った。ボンネットにチェスのコマを象(かたど)った
ステッカーが貼ってある、80スープラである。
しかもこの3人とはチェーンバトルになった。銀、白、黒の順にスープラとバトルしていく。
まずは銀のスープラからだ。まともに直線で勝負したって勝ち目はない。だったら慌ててパッシングはせず、
環状線外回りまでつかず離れずの距離を保ってからパッシング。
コーナーで勝負すればいい。
最初にニトロで前に出て、巧妙にブロックしつつ走り抜けていく。最高速は出さないので、加速で勝負。
3リッターもあるスープラは速いが、コーナーはRX−7が速い。
環状線のコーナーで一気に突き放して、まずは勝利。
その3分後、今度はC1から新環状へ合流する少し手前で、白の80スープラがパッシングしてきた。
これもストレートが速いが、コーナーは意外と遅い。突っ込み重視でコーナリングすると見せかけて相手に突っ込ませ、
立ち上がりで失速したところを、ニトロも使って一気に突き放して、これも勝利した。
(はぁ、後1台か…!)
ハンドルを握りしめ、エンジンをクールダウンさせながらパッシングを待つ。
そしてC1外回りに入った瞬間……来た。
黒の80スープラ。コイツだけは明らかに雰囲気が違う。
パッシングを確認した瑞穂はハザードを点け、最後のバトルをスタートさせる。
加速が相変わらず鋭い。前の2台も速かったが、これはそれ以上だ。
しかもこっちは3連続と言う事もあり、若干性能が落ちて来ている。
(突っ込みで少し追いつけるけど、立ち上がりで引き離される!)
コーナリングスピードはこっちが勝っているが、加速では負ける。
となると手段は1つ。まずはアクセルを踏み込んでスリップに入り、ニトロも使ってスープラに喰らい付く。
(コーナーで勝負!)
軽さを活かしてストレートの差を少しでも縮め、コーナーへの突っ込みをなるべく抑える。
(突っ込み重視をやめて、なるべく早めにブレーキング!)
その代わり立ち上がり重視でコーナリングし、次のコーナーまでに並んで抜く! 車も人ももう限界だ。
それでも気力を振り絞り、最後まで気を引き締めて挑んでいく。
スープラがだんだん大きくなってくる。目の前には霞ヶ関トンネル入り口への右コーナー。
ここで突っ込み重視で前に出て、壁ギリギリのコーナリング。
ハンドルが取られるが、それを必死で押さえ込んで、コーナー出口に向かって少しずつアクセルオン!
スープラも喰らい付いてこようとしたが、リアが暴れて若干タイミングが遅れた。
じわじわとアクセルを踏み込んだ瑞穂が、最後にスープラを振り切って勝利したのであった。
(やった! 勝った!)
近くのPAに入り、飲み物を買って休憩する瑞穂。
と、3台のスープラもPAに入ってきた。その3台のスープラからは、それぞれ男が降りてきた。
「あっさり振り切った人が、こんなに若いとはな」
「驚いたぜ……この完璧なマシンを振り切るとは」
「コーナリングスピードは負けていないと思ったんだが、最後に慌てた俺の負けだ」
「ありがとうございます。……僕は早瀬瑞穂です。あなた方が、さっきの……」
「そうだ。俺はD3のザ・ルーク、中村 直樹(なかむら なおき)だ」
「同じくD3、ザ・ビショップの星沢 新太郎(ほしざわ しんたろう)ってもんだ」
「D3リーダーの西山 貴之(にしやま たかゆき)だ。だが、俺等もこのまま
引き下がる訳には行かない。またいつかバトルしてもらおう」
そう言い残し、3台のスープラは東京の街へ消えていった。
PAの走り屋に聞くと、どうやらあの3人は普段は名古屋で走っているらしい。
テクニックを磨く為に3人とも休暇を取って、こっちまで遠征してきたのだとか。何ともお疲れ様、な話だった。