第1部第13話


ついにこの日がやってきた。あの日見かけたR34とバトルできる時が。

ショップに朝一で持ち込み、そのR34とのバトルで全開にできるようにセットアップ。今回は秘密兵器をつけた。


スクランブルブースト。

それはブースト圧を一定時間上げることができるものだ。ここ一発の加速で使うと非常に効果的だが、

使い方を誤るとエンジンブローを引き起こす可能性がある。

「エンジンに補強はしてあるが、使いすぎるとたとえ補強してあってもブローするからな。アラームが鳴ったら足を離すんだ。ブローするぞ」

最終兵器を用い、いざ決戦へ。



C1のパーキングにやってきた京介。R34は…居た。仁史もいた。

「おう…ついに迅帝とバトルか。奴は問答無用で速い。気をつけるんだ。C1をバトルの場所にしたのは正解だったようだな」

「ええ、あれが噂の…。とてつもなく速そうですね」

ニスモのエアロを身にまとい、王者の風格を漂わせているR34。



そのR34に寄りかかっているのは、黒髪の男だった。

「やあ、君か。噂は聞いているよ。宝条京介。俺のチームのメンバーを全員倒したらしいな?」

「はい。あなたが…迅帝…。ずいぶん若いんですね。人のことは言えないんですけど」


宝坂 令次(たからざか れいじ)だ。今年で23になったばっかり。3月4日生まれだからな」

「俺と変わらないですね。俺も23です。遅生まれですけど」

「そうか。…よし、始めよう。コースはC1内回り1周。先行後追いバトルで俺が先に出る。始めるぞ」

「はい。仁史さん、カウントお願いします」

「了解だ。…コーナーで食いついていけよ。向こうは650馬力くらいあるかな? エキゾーストを聞くと」

「…わかりました」


2台が縦一直線に並ぶ。

「カウント行くぞ! 5,4,3,2,1,GO!」




2台が一気に飛び出していった。最初は4WDのロケットダッシュで少しR34がFDを引き離す。

芝公園からスタートして、まずは汐留S字へ。ここでコーナリングスピードの差を生かしてR34に食らいつく。

(凄い気迫を感じる! 確かに速いな、このR34は!)

まずはじっくり相手を見極めることに。少しずつR34のテールが、ストレートでは離れていく。

でもコーナーではやはり過剰に減速するクセがあるので、そこで食いついていける。


そのまま銀座を過ぎ、分岐を左へ。

ここで京介はブレーキング勝負を仕掛け、R34を抜き去る。しかし立ち上がりですぐに抜き返される。

弘樹のFCよりも明らかに速い。さすがR34といったところであろうか。

だが、その後の高速コーナーの連続ではまたもや京介が令次を抜き返し、じりじり差を広げていく。



(面白い。こんな奴とのバトルを俺は望んでいた。今日はとことん突っ走るぞ!)

令次もゾクゾクしているようだ。


トンネルを抜け、勝負は赤坂ストレートへ。ここで一気に抜かれてしまった。

(クソ…そうだ、あれがあった!)

何とか引き離されるのを遅らせようと、スクランブルブーストをスイッチオン。次の瞬間、強烈な加速Gが京介を襲った。

(くっ…!)

速いスピードが出ているのでブレーキングも早めに。しかしR34も速い。

それでも次に来るコーナーで追いついて、テールトゥーノーズに。そのままきつい左カーブで令次を抜き去る。



(この後のS字を過ぎればゴールだ。気合い入れてブロックするぞ!)

ストレートで追いついてくるのでブロックするが、令次はそれをかいくぐって並んできた。

しかもその時、車内にアラームが鳴り響く。

(ならブレーキングで勝負だ! エンジンが持ってくれることを願うぜ!)

アクセル全開にして連続S字へ突っ込む。

ブレーキングから姿勢を変化させ、一気にハンドルを切ってアクセル全開。再びアラームが鳴り出すが無視。

アザーカーもいないので目一杯車線を使ってドリフト。


そして2個目のS字へ飛び込み、脱出してストレートへ。

(頼む、持ってくれ!)

後ろからはR34がじりじりと迫ってくる。京介はアラームを無視して床までアクセルを踏み込む。そして…!

(…よし!)

FDが先にゴールラインを駆け抜けた。




しかし次の瞬間…!

「うわっ!?」

どーんと言う派手な音がして、FDのボンネットから茶色い液体が。おそらくオイルだろう。それもそうだ。

忠告を無視してブローさせてしまったのである。

そのまま路肩まで寄せて、車を停めた。予想はしていたが、エンジンブローは痛い。


FDの異常に驚いた令次も車を停めた。

「おい…こいつは一体?」

「やっちまったぜ…こうなるのはわかってたんだが」

「フルブーストかけたのか?」

「補強しているからと言って無理をさせすぎた。だが、それでも俺はあんたに勝った」


「…そうか。完全燃焼だな」

そう言いつつ、R34のトランクからロープを取り出す。

「下まで牽引する。後で仲間にお前を横浜まで送るよう指示する。何なら、俺が送っていってやろうか?」

「…お願いします」

「よしわかった」




1つの伝説が終わりを告げた…。今度は追う者が追われる者へと転じる。

それは新たなる伝説のはじまり。名声に飢えた狼どもは耳が早い。「迅帝」の出現により首都高を去っていた12台のマシンが

「十二覇聖」を名乗り、帰還ってきた…。

伝説となったドライバーには休息の日々はない。


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