第8部第7話
今度は芝浦の方へと出向く。すると今度はPAにてダークグレーのR32GT−Rと、
黄緑のGC8インプレッサに遭遇。
R32が「ブループレッシャー」、インプレッサが「シタール兼山」だった。
「……あんた、誰?」
「僕は早瀬瑞穂って言うんですけれど……「be legend」のメンバーですよね?」
「ああ……そうだが。俺等とバトルしに来たの?」
「おお、イキの良さそうな走り屋が来たぜよ!」
R32の男は白人、シタール兼山は何だか知らないけど「ぜよ」「ぜよ」とセリフの語尾につけている。
そんなぜよぜよと連呼している兼山と瑞穂はまずバトルする事にした。
「まず俺か。俺は兼山 信也(かねやま のぶや)だ。これからの走り屋はインターナショナルぜよ!」
兼山とのバトルは環状線外回りのタイムアタック。
レインボーブリッジ後のS字区間を抜けた少し先からC1外回りへと入り、
1つ目のトンネルに入る直前でゴールだ。
いつもの様に瑞穂はニトロで先行し、兼山もしっかりくっつく。
インプレッサはプレッシャーをかけて揺さぶるが、瑞穂は動じない。
レースの世界では、精神的な強さも身につけていなければ勝つことは出来ない。
バックミラーを見ないようにしつつあくまで我が道を爆走する瑞穂。
そして勝負は佳境へ。内回りの赤坂ストレートの部分に入る手前の
ややきつめの右コーナーでインプレッサが抜きにかかる。
(ここで勝負ぜよ!)
瑞穂がブレーキングしたのを見てからインプレッサはブレーキング。
だがそのインプレッサはここで計算が狂った。アンダーを出してRX−7の方に膨らんで来る。
(ちょ、そんな! 僕の方に……)
とっさに瑞穂はフルブレーキングで回避。インプレッサはそのまま壁に向かってすっ飛んでいく。
(くっ……止まれ!)
サイドブレーキを引きインプレッサとRX−7は双方車をスピンさせ、何とか事故だけは免れた。
「いい走りをしちょるのォ。世界でも通用するような走りぜよ!」
兼山は素直に瑞穂の実力を褒め称え、R32の男と今度はバトルする事に。
「なら俺が次か。俺はハクロ・ディール。よろしくな。お前を見ていると、かつて俺の
弟子だった走り屋を思い出すよ」
今度はそんな弟子が居たらしいディールのR32と勝負だ。ディールとは兼山の時と
同じスタート位置だが、SPバトルとなる。
(コーナリングで勝負!)
直線ではR32に負けるが、RX−7の武器であるコーナリングで勝負をかけることに。
先行してルートに選んだのはC1内回り。スピードが乗りにくいのでこっちが有利だ、
汐留S字に差し掛かり、ディールより少し突っ込み重視でコーナリングする。
すると少し差が開いた! 車重がこちらの方が軽い事も手伝ったらしい。
(良し!)
そこから決着までは早かった。
その汐留S字の先にあるトンネルのS字で一気に差をつけ、ディールを振り切って勝利だ。
「お前とあいつ……やっぱり似ている。いや、もしかすると
あいつ以上のものを持っているのかもしれない」
そうブツブツ呟くディールと先程倒した兼山を尻目に、瑞穂はPAを後にした。
残る「be legend」のメンバーはリーダーを含め3人。その内の2人は翌日新環状右回りで遭遇した。
1台はシルバーのZ32フェアレディZ。レインボーブリッジ手前からSPバトルだ。
コーナーを立ち上がってアクセル全開。最初は軽いRX−7が飛び出し、
ニトロを噴射して3リッターもあるZを前へ行かせない様にする。
ブレーキングからシフトダウンをして、イン側にいる180SXを避けてコーナリング。
そのまま立ち上がりでZを引き離そうとしたが……。
(え!?)
一向に差が広がらない。しかも抜かれてしまった。ストレートではZが圧倒的に速い。
(そんな!)
しかもまだ驚くべき事は続く。
汐留S字で2台はブレーキング。しかし……。
(うわ……そこまでブレーキ遅らせるのか!?)
Zの前輪と後輪から同時に白煙が上がる。ブレーキを目一杯踏みつけてフルブレーキしているようだ。
瑞穂も軽い車重を活かして、何とかZのブレーキングに追いすがる。
加速は断然向こうが上、ブレーキングも互角、となればコーナリングで勝負するしかあるまい!
そう思った瑞穂は、とにかくこの先のセクションで突っ込みのスピードを極限まで高める事に。
(しっかりしなきゃ、僕!)
極限まで自分の集中力も高め、必死にZに離されないように食らいついて行くのみだ。
が、次の瞬間だった。
(あっ!?)
汐留S字の後のトンネルのS字の右コーナーでZのリアが流れ出した。
Z32は即座にカウンターを当てて修正するが、次の左でもオーバーステア。
(タイヤがもう駄目みたいだね。これはチャンスだ!)
実はZ32は集中して飛ばしすぎるあまり、アクセルワークが雑になってしまっていた。
そのおかげでリアタイヤに負担をかけ、グリップしなくなってしまった。
オーバーを出した事でRX−7との差がどんどん縮まっていく。
アクセルを踏み込み、トンネル後のS字の左コーナーで一気に食いつく。
タイヤが終わっていれば加速が鈍くなり、コーナリングも安定しない。ブレーキも限界に近い。
左コーナーで一気にZの横に並び、次の右コーナーでカウンターアタックの要領で抜き去る。
そして、Z32のブレーキングでも追いつけないほど鋭い飛び込みを見せて
新環状線への分岐に入り、そこのきつい右コーナーをクリア。決着は付いた。
そのまましばらく走って台場線辺りに来た頃、今度は赤の180SXに遭遇。
「be legend」のメンバーの残りの1台で、Z32と同じくSPバトルで勝負。
まずはニトロを使わないで加速の様子を見るが、使わず前に出る事が出来た。
それでも180SXもコーナリングで瑞穂にくらいつく。
RX−7のように軽量でFR、しかもハイパワーともなればむやみやたらにアクセルを
踏んでも加速しない。瑞穂はじわりじわりとアクセルを踏み込み、台場からC1内回りに合流。
180SXは途中からスピードが伸びなくなってきた。
こっちのRX−7はやや最高速を重視しているので、ストレートで引き離す事に成功。
そして2回目の汐留S字を抜け、バックミラーを見るともうそこに180SXは映っていなかった。
クールダウンの為に近くのPAに入ると、180SXとZ32が少し遅れてやって来た。
180SXから出て来たのは金髪の男、Z32からはガタイの良い白人が降りて来た。
「さっきは速かったぜ。俺はグレイル・カルス。君は若いんだな」
「椎名 連(しいな れん)だ。俺のこの車は借り物だけど、それでも充分に速さはわかったぜ。
後はリーダーだけだな。黄色のR32に乗っているからすぐわかると思う。それじゃあな」
その情報を伝え、グレイルと連はPAから出て行った。
「be legend」のメンバーを全員倒し、残るはリーダーのみだ。
翌日、瑞穂が辰巳PAに入ると黄色のR32が目に入った。
(あのGT−Rか……)
周二はあまり速く無いと言っていたが、果たして実力はどうなのだろうか。
とりあえず、R32の側に立っている銀髪に金色の目をした男に声をかける。
「こ……こんばんは」
「君か。俺の「走り屋再生工場」こと「be legend」を、全員負かしたのは」
「は…はい」
「俺は坂本 淳(さかもと じゅん)。バトルをする前にこんなに気分が
高ぶっているのは久しぶりだ。やっと出会えるべきライバルに出会えた気がする」
「僕が?」
「そうだ。スカールバレットを破ったマシンを撃墜するのは俺だ。
そして、俺は首都高の新たな伝説となる!」
「は、はぁ……」
気合いが入りすぎて空回りしている様な淳の言葉に瑞穂はどうリアクションして良いか
わからないが、新環状線左回りでSPバトルで勝負だ。
ハザードを消してバトルスタート。勢いよく飛び出したのはリーダーのR32。
RX−7が軽いとは言え加速は4WDの方が速い。R32が前でバトルが始まった。
後追いを余儀なくされ、瑞穂がニトロを使う前に飛び出した
R32を抜きにかかるがうまくブロックされる。
(くっ!!)
このリーダーのR32はブロックが何げに上手い。しかし致命的な欠点があった。
(コーナーが遅い……)
浩夜の言っていた通りだった。
ブロックをしてきたR32に対してスッと逆方向へフェイントをかけ、横に並ぶ。
そしてブレーキはこっちが有利なので、連続コーナー部分であっさりと抜き去り勝利。
これで「be legend」は全員制覇した。
「どうしてだ? 負けたというのに、どうしてこんなに気持ちが穏やかなんだ?」
PAでR32から降りて来た淳は戸惑い気味にそう呟いた。
「もしかしたら、俺はバトルの勝敗にこだわるあまり、大事なことを忘れていたのかもしれない。
そして、お前はそれを気付かせてくれた。俺は今、やっと伝説へのスタートラインに立つことが出来たよ」
「それ程までにこだわっていたんですか?」
「ああ。俺はプロボクサーだから、ファイトマネーを稼がなきゃいけなくてな」
ガタイがいいのはその為だったのか、と瑞穂は関心。
レーシングドライバーは体力が求められるが、この淳は自分よりも明らかに筋肉がすごい。
「だから筋肉がすごいんですね」
「まぁな。ほぼ毎日サンドバッグ殴ってるし。ボクサーは副業で本業は
別にあるけどジムでたまにコーチもしてるんだ。もしボクシングに興味持ったら、ジムに来てみてくれよ」
そう言って多少の戦勝金と名刺を瑞穂に渡して、淳はR32に乗って去って行った。