第8部第2話


今年は何と湾岸線と横羽線方面が工事中だそうな。

大掛かりな改修工事が湾岸線と横羽線で行われているらしく、走ることが出来ない。

しかし裏を返せばハイスピードになるバトルが少ないので、中排気量車でも結構良い所までいけるかもしれない。

その代わり、新しく走れるようになったのは3号渋谷線と4号新宿線。

このコースは京介、緒美、瑞穂、正樹は誰も走ったことが無い、初登場のコースだ。

湾岸線と同じく直線が長いので、パワー勝負ならここになりそうだ。


首都高サーキットの走り屋は、主に3つの時間帯に走行している。

まずは夜。

22:00〜0:00までの時間帯で、走り屋が動き出す時間だ。走りに来る人数も多く、車線変更が多くなる。


次に真夜中。

0:00〜3:00までで、もっとも走り屋が活発になる時間帯。一番走っている走り屋の数が多く、夜よりも車線変更が多くなる。


最後に早朝。

3:00〜5:00までで、走り屋たちの活動は終わりを迎える。

当然走っている走り屋も少なく、初心者の走りやすい時間帯でもあるのだ。


一般車が居ないというのは、サーキットになった首都高ならでは。

ちなみに昼間はというと首都高サーキットの管理委員会が行うコースメンテナンスと、C1グランプリの開催が行われている。

「ブラッドハウンド」が夜に、「12時過ぎのシンデレラ」が真夜中、「白銀の貴公子」が早朝に良く走っているのだとか。

とりあえず、今年は半年レース活動を休業し、首都高サーキットを制覇するのが目的だ。



まずは夜の時間帯から瑞穂は走りに行く。戻ってきた首都高。

すると、パーキングでど派手なアリストを発見。

そしてそのアリストに貼ってあるステッカーを見た瞬間、瑞穂の記憶から1つの名前が思い起こされる。

「ブラッドハウンド……」

瑞穂はバトルを申し込もうと思い、オレンジの頭をしたアリストのドライバーの元へと向かった。

「あの……すみません」

「ん? 何か用かい?」

「ブラッドハウンドさん…ですよね?」

「おう、確かに俺はブラッドハウンドと呼ばれているよ。いちおう、この時間帯のC1では最速ってコトになっているらしいね」

やはり、このアリストはブラッドハウンドであった。


そこで、瑞穂はバトルを申し込む……が。

「よろしければ、僕とバトルをしていただけませんか?」

「なんだって? 俺とバトルしたい? おいおい、人をからかうのもいい加減にしろよ。

だって、そうだろ? お前さんのマシンからは何のオーラも感じられねぇ」

そう言って、ブラッドハウンドは瑞穂のノーマル然としたシルビアを見つめる。

「こう見えても、俺は結構、忙しくてね。シロート相手にクルマの運転を教えているヒマはないんだ。

もし、本気だっていうんなら、自分の実力を示してみな。方法は……わかるだろ?」

それだけ言い残し、ブラッドハウンドはアリストに乗り込み走り去って行った。


とりあえず、まずは他の走り屋をあらかた倒さないとダメみたいなので、PAから倒しに出かける。

勘は鈍っているが、走っているうちに段々と3年前のことが思い出されてきた。

ペースを取り戻し、次々と走り屋を撃破していく瑞穂。だが、さすがに首都高の走り屋はパワーが出ているマシンが多い。

首都高ではパワーが命だ。

直線部分で仕掛けたあるバトルでは、瑞穂はぶっちぎられて敗北してしまった。人生に負けはつきものである。

が、パワーが出ているという割にはコーナーがどうも苦手そうである。

そこを見抜いた瑞穂は、コーナー部分で仕掛けてリベンジを果たした。



次の日は真夜中に出向いてみる。すると今度は、黄色と灰色でペイントされた派手なRX−8が。

そしてそのステッカーはと言うと……。

「あの、すみません。走り屋の方ですよね?」

「ふーん、アンタも走り屋なんだ?」

何と、女のドライバーであった。実力を見てみたいと思う瑞穂は、その赤い長髪の女にバトルを申し込んだ。


しかし…。

「えっ、私とバトルしたいって? ちょっ……ゴメン。マジ、ウケちゃった」

何だか笑われてしまった。プロレーサーなのに。

「あのネ、念のために言っておくけど、私、ここでは12時過ぎのシンデレラって呼ばれてて、

この時間帯のC1では1番速いって言われてンの。

別に馬鹿にしてるワケじゃないんだけど、今のアンタと走っていても、何かを得られる気がしないんだよね」

いや、十分馬鹿にしているとは思うが…。


「バトルって一種のコミュニケーションでしょ? 少なくとも今の私たちは同じ「言葉」で語り合うことは出来ない。

「その時」が来れば自然と出会える……。そういうものだと思わない?」

別に思わないけど…と言おうと思った瑞穂だったが、この女の妄想…もとい、暴走を止めることは出来なさそうだ。

呆然とする瑞穂を残し、彼女はRX−8でPAから出て行った。



チューンはと言うと、チームのメカニックたちが総出でやってくれることに。感謝しても仕切れないほどである。

1チーム撃破するごとに、1つの箇所をチューンしてくれるというのだ。

更に瑞穂は、C1は内回りと外回りに分かれているので、1日おきに外回りと内回りを回る。

こうする事で効率の良いバトルが可能だ。

タイヤもしっかり、3日に1回は変えていく。余りチームに金を出させてはいられないからだ。

その見返りはバトルに勝つこと。



そして最後は早朝にPAに出向く瑞穂。今度はダークシルバーのFD3SRX−7がおいでなすっている。

その横には茶髪のイケメン男が1人。だが、どこか覇気が無い。

「すみません!」

「僕に何か用かい? 朝イチで会議が入っているので、手短に頼むよ」

会議というと、会社員だろうか?

とりあえず手短に、瑞穂はバトルしたいとその男に伝える……はずだったが。

「まさかバトルの申し込み……とかいうんじゃないだろうな?」


読まれていた。

「白銀の貴公子を知らないのか? 夜明けのC1では敵なしと言われている走り屋だ。

君は今、その男にバトルを挑もうとしているんだぞ。悪いが、時間の無駄だよ。

僕についてこれるだけの実力があるとは思えない。僕は撃墜する価値のあるヤツとしか走らないんだ。

今の君を破ったところで何の得にもならない。経験を積んでから出直すことだな」

その言葉に若干瑞穂はムッとしたが、餅は餅屋。

プロレーサーでも首都高の走り屋に首都高で挑むのは無謀かなとも考える。

PAから出て行くRX−7を見つめつつ、プロの底力を見せ付けるためにバトルしてやると思う瑞穂であった。


ボス達は全員自信を持ってボスの座に君臨しているらしく、金を賭けて来るらしい。

負けてもこっちは取られないので、良いシステムといえば良いシステムだが。

その代わり強いので、ハイリスクハイリターンといえば、それはごもっともである。


第8部第3話へ

HPGサイドへ戻る