第1部第12話
弘樹と別れ、そのまま横羽線を駆け上っていく京介。
横羽線のコースを覚えがてら、横羽線のチームとバトルだ。しかしダブルマインドの姿はない。
(内部分裂でもしたのか…それにしても、やりきれない気持ちが大きいな)
横羽線をハイペースで上っていく。ライバルの直線番長っぷりも凄いが、コーナーでがんばれる。
(FDでも結構いけるもんだな…)
そんなことを続けて3日後。仁史から久しぶりに連絡が入った。
「よう久しぶりだな、元気か?」
「ああどうも! …どうしたんですか?」
「いや実はな、大黒PAでサーティンデビルズの四天王の1人、シャドウアイズをよく見るんだが、お前を待ってるんじゃないか?
テイルガンナーを倒した噂は俺の耳にも届いてる。後1人だ。行ってぶっ潰してやれ」
「…はい!」
というわけで大黒PAまでやってきた京介。すぐにそのスープラは見つかった。
しかも向こうの方から、ドライバーが接近してきたではないか。
「よう、あんただな? FDの宝条京介って?」
…確かに女だ。でも確かに男勝りっぽい。しかも青と水色が混ざった髪に、碧眼でガタイが良い。
「そうです。あなたが四天王最後の…シャドウアイズさん?」
「ああそうだ。本名は遠藤 真由美(えんどう まゆみ)だよ。俺とバトルしてもらおうか!
ここまでサーティンデビルズコケにされて、黙ってるわけにもいかねぇんだよ! それに、俺はレーシングドライバーだ。
プロの世界で育った俺の実力見せてやる!」
京介絶句。そして若干引く。
(うわ、俺女って本当にいるのか! 噂だけは聞いていたが、ちょっと引くぜ! …うえっ)
「さっさと始めるぞ。あんたが先行だ。俺は後からついていく。本線に合流したら全開だ」
「は、はいわかりました…」
強引だなぁ、と思いつつ、とりあえず先に京介はPAから出て行く。
弘樹のFCを最初に抜いたポイントの少し先で、アクセル全開! いきなりテールをコン、とつついてくる真由美。しかし京介は動揺しない。
(大丈夫だ…勝てる)
FDのテールを見つめつつ、真由美は右足でアクセルのコントロールをする。
(シュマイザーのスープラや、明のGTOに勝った所で、所詮は素人。俺はタイヤマネージメントが一番の鍵になるレースの世界で
活動しているんだ。俺はレーシングドライバーだからな。雨のレースではパワーをうまく伝えられないもどかしさがあり、
晴れてくるとリアタイヤに負担をかけないように慎重に運転する。そう言う状況だと、タイヤから路面に
パワーをどれだけ伝えられるかが鍵になる。いくらパワーがあろうが、足のセッティングが決まっていようが
全てを決めるのはタイヤだからな。せいぜいがんばってリアタイヤを消耗させておくこった。そこでお前の勝ちはなくなるぜ!)
今回の相手はレーシングドライバー。大塚は2輪のプロだったが、真由美は現役の4輪のプロだ。
(レースというフィールドでしごかれてきた俺から見れば、首都高サーキットはレベル低すぎて何だかがっかりだ。気休めに走りに来ている程度だからな)
テンションが上がらない真由美。それでも相変わらずテールトゥーノーズ。
若干コーナーでスープラはFDに引き離されるが、ストレートで難なく追いついてくる。
(離れない…コーナーでは引き離せるが、ストレートが速い。あのFCよりは戦闘力があるみたいだな)
バックミラーをちらりと見つつ、結構なところまで上ってきた京介。
目の前に迫ってくるきつい右コーナー。ブレーキングからシフトダウンしてコーナリング。スッとアクセルを踏み込んで加速。
一旦引き離すことに成功したが、これが逆に真由美の闘争心に火をつけた。
(ほう、やるじゃねーか。こっちも行くぜ!)
エキゾーストノートが変化する。これは全開で行かないとまずいと真由美が悟ったからだ。
FDに食いついていく真由美。スープラの限界を引き出してコーナリング。
重量級のマシンとは思えないほど速いコーナリングで一気にFDに食らいつき、ちらちらとスキを見せればいつでも抜くぞ、という意思表示でプレッシャーをかける。
(タイヤを温存してきたが、これは限界まで使わないとまずいな。一気に抜いて振り切るぜ!)
温存してきた分を一気に放出し、目一杯タイヤを使い切りFDを追いかけ回す真由美。
(く…そ…!!)
じりじりとまた差が縮まってきている。
(ここに来て、更にもう1個上のギアが残ってんのかよ…!? すげえな…レーシングドライバーって、ゾッとするほど恐ろしいぜ…!!)
真由美も次第に余裕がなくなってきた。
(くそ、レーシングドライバーをここまで追いつめてくれるとは…!)
京介を抜きにかかるが、うまい具合にアザーカーがいて抜けない。
(どうした…もっと攻めろ…もっとアクセルを踏んで、死にものぐるいで逃げてみろ! …でないとこの勝負、俺の…!)
ギリッと歯ぎしりをする真由美。
(俺の…負けだろ…!)
スープラのフロントでFDのテールをこつんとつつく。するとその直後、スープラがいきなりスローダウンした。
(もうダメだ……)
真由美、ここでタイヤを使い切ってしまいギブアップ。
環状線まで行って2台は首都高を降り、真由美はスープラのリアタイヤをチェックした。
「ふ−う…これじゃもうついて行けなかったな」
「どうしたんですか? いきなりスローダウンして…」
「リヤタイヤが完全に消耗して、あれ以上攻め込めばテールスライド起こして、クラッシュってことにもなりかねなかったからな。
…まぁいい。気に食わねぇが、今回は俺の負けだ。…だが必ず次は勝たせてもらうぞ」
「受けて立ちますよ。いくらでも」
「ああ。じゃあな」
真由美は京介をバックミラーで見つつ、呟いた。
「無茶な突っ込みで死にたがってるようにしか見えなかった。俺はあれ以上は攻め込めなかった。限界ギリギリまでタイヤを使い切ったというのに…。
全く、恐ろしい奴だ。…サーキットにああいう奴が現れてくれたら。少しは面白くなるのにな」
どこか寂しげなエキゾーストを響かせ、スープラは夜の闇へ消えていった。