第7部第14話
残るエリアは後3つ。翌日、最高速を350キロは出るようにして、湾岸線へと向かう正樹。
まずは大黒ふ頭から。
ここでは正体がいまだに不明の「???」という走り屋が走っていた。
「???」でも通り名として認識されているらしいというから、驚きである。
サーティンデビルズのメンバーではないというのだが、倒しておいて損は無いだろう。車はミッドナイトブルーのS30Z。
直也と同じマシンだが、噂によればスカイラインGT−Rのエンジンを積んでいるらしい。
バトル相手は自己紹介もしたく無い様で、車からは出てこなかった。
まぁ、別にいいかと正樹もスープラに乗り込んで、バトルスタート。
だがそのS30Zは、ヒュンと右に出てきたかと思えば、すさまじい勢いで加速していく。
何とか引き離されないように、必死にスリップストリームに入って食らいついていく…暇も無く、じりじりと引き離されていく。
やはり軽いボディにRB26DETTは脅威だ。
しかし。どうやらS30Zは加速重視のセッティングだったようだ。320キロを超えた辺りでスピードが伸びなくなってきた。
それが正樹に自信を取り戻させた。
(…よし)
スリップをギリギリで使い、Zの後ろから飛び出してオーバーテイク。すると相手はゆっくりゆっくりスローダウンしていった。
続いては東扇島へ。ここでは何と、黄色のNSXに遭遇。思えばここで、ホンダ車を見かけるのは初めてな気がする。
サーティンデビルズのメンバーは、このNSXと後もう1台倒せば、全員倒したことになるのだとか。
そしてそのNSXから出てきた男は、メガネをかけた中年の男であった。
「やあ…君だろ? 僕にバトルを挑んできたのは? 由佳、博人、藤尾から話は聞いているよ」
「はい。山中正樹です」
「僕は岸 泰紀(きし やすのり)。よろしく。僕は昔、その3人と一緒に「環状線の四天王」って呼ばれていたんだ」
だが、岸は正樹のスープラを見ると、ふっ、と鼻で笑って喋りだした。
「…ふーん…スープラかぁ。3リッターターボにこのでかいボディ。僕のNSXに似てるね。
あ、もしかして、僕のようにNSX買えなかったから、スープラで我慢してるって感じか?
残念だけど、僕のNSXみたいなのを正真正銘のスーパーカーって言うんだよ。きっとスーパーカーが大好きなんだろうね。スー、パー、カーがね?」
この男は、他人の車をバカにするのが好きなのだろうか?かなり陰湿な性格のようだ。
「…勝手に思っていればいいだろう?」
「あ…もしかして、怒っちゃったの? …ところで、富士スピードウェイとかのサーキット、走ったことある?」
「…ああ」
「ふーん、ああそう。それなら少しは楽しめそうだね。でもパーツつけてるのはいいけど…これで遅かったら、ホント、笑えるよね。
まぁ、僕はきちんとパーツの性能を使い切ってるから、速いんだけどね? ししし」
もうかまっていられない、とばかりに、正樹は岸を無視してスープラに乗り込む。
しかしそんな性格でも、岸は恐ろしく速かった。
驚異的な最高速を生み出してくるのだ。加速も軽いボディとミッドシップエンジンで、結構速い。
スリップストリームに入ってくらいついて行くが、スピードメーターは振り切れている。
デジタルメーターを後付して何キロ出ているかをわかるようにしているのだが…何と、343キロを記録している。
かなり危険なゾーンだ。
(くーっ!)
岸自身も、この速度ですごくびびりっぱなしである。
だが前述の通り、正樹のスープラは350キロまで出るようにしてある。岸のNSXは345キロが精一杯のようだ。
やはりNAエンジンでは、ここ一番で辛いみたいだ。
ゴール地点少し手前までスリップに入っていき、ゴールが見えてきたところで一気に追い抜き、ギリギリで決着をつけた正樹。
しかしその額には汗が浮かんでいた。正樹自身も相当緊張していたようである。
最後は空港中央PAへ。そこでようやく、サーティンデビルズのリーダー、「迅帝」と遭遇した。
車は青いR34GT-R。こいつが首都高のトップらしい。
最後の戦いに向けて、正樹は気を引き締めてスタート地点へと向かった。
「…あんたか。俺に挑戦してきたのは」
「そうだ。山中正樹だ。よろしく頼む」
「俺は宝坂 令次(たからざか れいじ)。サーティンデビルズも、このままやられるわけには行かない。勝負だ」
最初はいつものごとく、正樹が先行する。
だが令次のR34は、良い加速で正樹のスープラの前に出て行った。
それでもスリップストリームに入り、最後のバトルともあって全開で挑む正樹。そしてスリップストリームから抜け出し、
令次のR34を追い抜いて加速していく。
(やるな…)
令次も驚き気味だ。
すぐにトンネルに入る2台。ちらっと入る前にバックミラーを見ると、しっかりR34が映っている。
(……)
どこか諦めに似た感情を抱きつつ、正樹はR34をブロックして突っ走る。岸のNSXとまでは行かないが、最高速重視にしてあるようだ。
少しでも油断を見せれば抜かれてしまう。とっさにバックミラーをひっくり返し、前だけを見て集中。
アクセルを床まで踏み込み、メーターを330キロ以上まで回して振り切る。
それでもR34は……あれ?
(いない?)
何と、R34がいない。前にも横にも、後ろにもミラーの死角にも。とりあえず勝ったと見て良いのだろうか?
(……………)
どことなく後味が悪いが、勝ちは勝ち、だろう。