第7部第8話


武に負け、チームメンバーを返した正樹。湾岸線を仕切っているチームは、あの武よりも速いチームがたくさんいた。

武を倒せなければ、湾岸線のチームには勝てないと言う事だ。


メンバーからあの武について話を聞くと、なんでも横羽線で出会ったRX−7の「俊足のワルキューレ」こと、沢本亜弓とは

「WIND STARS」という、暗い過去を持ったものが集まるチームで

チームのメンバーとして亜弓が、そのチームリーダーとして武が活動していたらしい。

だが1人抜け、2人抜け、でチームは自然に解散してしまったという。




「よし、とりあえずこれで残りの金は全額返済……と」

チームメンバーを家に帰し、自分はその足で整備工場にやってきた。

ワンダラーを大量に倒し、何とか残りの代金を全て支払った正樹。だが、次はチューニングだ。


「そうか…湾岸線は駄目かよ」

「ええ、全滅でした。それで、チューニングをお願いしたいんです」

「うーむ…」

後残っているチームは、湾岸線の3チーム、横羽線の「FREE WAY」、横羽環状の「SPEED MASTER」だ。

それ以外のチームは全て制圧した。



「わかった。じゃあ湾岸線で、パワー勝負に負けないようにチューニングするぜ」

「ありがとうございます」


だが、やっぱりただという訳にはいかなかった。

「ただし。そのチューン代は、そのワンダラーを倒し、残りのチームを全て制圧することで支払ってもらうぞ」

「…はい」

「よし、じゃあ車を入れろよ。面倒見てやるから」



それから実に1週間かけて、正樹のスープラは大改造が行われた。エンジンパワーは極限まで上げられ、

更にボディの剛性を高めるためにロールバーを入れる。

高速区間で不安定にならないために、TRD製のフルエアロキットも組んだ。足回りやミッションなども強化品に交換し

パワーは570馬力を発生、車重は1350キロまで削り落とされた。

「出来たぞ。さぁ、行って来い!」


まず驚いたのは加速。今までのものとは桁が違う。最高速も300キロを超え、330キロを超えるまでになった。

コーナリングも、これだけのハイパワーにもかかわらずしっかり曲がり、止まれる。

チームメンバーも正樹のスープラには驚いていた。


そして、あの約束は果たさなければならない。大黒ふ頭へと出向き、まずは武にリベンジだ。

「チューニングしたのか」

「ああ」

「そうか。どれほどのものになったか、楽しみだな」

コースは前と同じく、大黒ふ頭から東扇島へ向けて東行きで勝負だ。


果たして今回は…。

(ついていける!)

加速でついていける。このとき、正樹は勝利できる、ということを確信した。

スリップストリームに入り、勝てることを確信した正樹は、ニトロを使って一気に武を振り切ってしまった。



最後はみなとみらいへ向かう。ここで目に入ったのは「キング オブ エデン」。黄色のFC3Sに乗る男だ。

「こんばんは、山中です」

「どうもこんばんは。上島(かみしま)だ。俺、普段は箱根で旅館を経営しているんだけど、今格安プランやってるから、良かったら」

そう言って上島という男は、正樹に旅館のパンフレットを渡した。


そのパンフレットをしげしげと見る正樹。するとある事に気が付いた。

「2号館もあるのか」

「ああ。だけど失敗。建てて早々だけど、そっちは畳もうか迷ってる」

「そ、そうか」

「まぁ、このバトルで勝てば、客もわんさか増えるだろうし。…始めるぜ」


最初は正樹のスープラが先行し、上島のRX−7は後追いだ。

上島は普段は箱根の山道を走っている。旧型のFC3Sではあるが、トルクアップと足回りの強化で、加速重視の峠仕様だ。

首都高に来る時はギア比を変えてくる。

元々はSA22Cに乗っていたが、最近このFC3Sに買い換えたのだとか。

そして上島は今、RX−8が物凄く気になっているらしい。


バトルの方は、上島のRX−7はしっかりスリップストリームに入ってスープラについて行くが、ノーマルで215馬力のエンジン。

正樹は3リッターターボの80スープラだ。

ゴールまでたどり着く前に、じわじわと引き離して上島のSPを削り取り、正樹は難なく勝利した。



その勢いで、湾岸線の3チーム、横羽線の「FREE WAY」、横羽環状の「SPEED MASTER」にも勝利。

「SPEED MASTER」と、湾岸線の「NO LOSER」と呼ばれるランエボ軍団はかなり速かったが、何とかギリギリで勝てた。



その足で早めにチームメンバーを帰宅させ、京介の工場へと向かった。

「よし、あの3チームに勝った金も合わせて、ワンダラーも倒したことだし、後は俺の出番はメンテナンスぐらいだな」

「ありがとうございます」


と、そのとき。京介があることを思い出した。

「あ…そうだ、正樹。サーティンデビルズって、聞いたことあるか?」

「いえ。何ですか、それ」

「かつてあの首都高で、伝説級の速さを残したチームのことだ。まだ今でも走っていると思うんだが、そんな奴ら、見かけたこと無いか?」

「いえ…」

「そうか。でも、そろそろ出てきてもおかしくは無いと思うぞ。メンバーは中排気量車から、大排気量車まで

様々だった筈だけど、ドライバーは本当に速い。気をつけるんだぜ」



その話を聞き、メンバーは連れずに1人で、翌日環状線の神田橋へと向かった正樹は

ライブモニターに黄色い、日産のシルエイティが走っているのを発見。

今まで見たことが無い車だ。ひょっとしたらこれが…。正樹はそのシルエイティにバトルを申し込んだ。


銀座の高速コーナー区間を超えたところで、そのシルエイティは停まっていた。

そこで横にスープラを停めると、シルエイティから男が降りてきた。

「よう、あんたの車、イカしてるな。フルエアロでしっかりドレスアップしている。良い趣味だ」

「…俺は山中だ。あんたは?」

「俺は高崎 和人(たかさき かずと)。サーティンデビルズのメンバーだ。よろしくな。

昔のメンバーはほとんど抜けて、メンバーもほとんど入れ替えられちまったが、俺はずっとこのチームにいるんだ。手加減はしないぜ」


先行できることも手伝って、加速でシルエイティを引き離す正樹。

(一気に引き離す)

コーナーで追いついてくる和人ではあるが、直線はシルエイティよりも速い。

ちらっとバックミラーを見れば、ジリジリと引き離されていくのに焦ったのか、和人はコーナーというコーナーでアンダーを出しまくっている。

本当にサーティンデビルズなのか? と思うが、紛れもなくサーティンデビルズである。

こうして和人は、あっさり正樹にふりきられてバトルに負けたのであった。




環状線ではもう、それらしいライバルを見つけることは出来ずじまい。

仕方が無いので新環状線の方へと行って見る。すると福住でピンクの、一昔前のGT選手権に出ていた

スープラと、全く同じエアロをつけた80スープラが走っている。

だが違うところが1つだけ。オーバーフェンダーが無い。それを相手に選び、正樹は福住へと向かった。


さっきのピンクのスープラの横に、自分のスープラを停める。ピンクのスープラからは女が降りてくる。

「あなたは?」

百瀬 和美(ももせ かずみ)よ。よろしく。同じスープラなのね。ちょっと嬉しい。

でも、所詮首都高なんて、本当子供のお遊びよ。レースに出るためには何の役にも立たないでしょ。

ただでさえ公道を改造してサーキットにしたとはいえ、ベースは公道だからね」


何だか自意識過剰なこの女。しかし正樹は無表情で反論。

「…そうか?」

「だって本当の事でしょ? レベル低いやつばっかり。そんな首都高の走り屋のあなたのレベル、見せてもらおうかしら?」

イライラするが、こんな奴相手に熱くなっても仕方ない、と思い正樹はスープラに乗り込んだ。



スタートは正樹が先行したが、すぐに抜き返される。かなり加速力重視のようだ。

(恐ろしいまでのトルクだな)

しかしコーナリングがなんだか不安定。それに加えてブレーキングもコーナリングも不安定。危なっかしいことこの上ない。

だがそれを差し引いても加速が恐ろしい。コーナー立ち上がりで一気に引き離される。

(加速で負け、立ち上がりで負けている……が、突っ込みの安定性ではこっちが断然上だ)


あまり怖い存在でもないのかもしれない。相手はただのパワーマシンだということが判明した。

ひとつ深呼吸をし、アクセルを思い切り踏み込む。

パワーで当然負けるが、コーナーが来れば余裕で追いつける。相手はどうもサスに問題があるみたいだ。


(だが……この先は湾岸線か。このままだとまずいな)

そう思った正樹、現在の地点である新環状線右回りの高速コーナーで和美のスープラをインからパス。そのままもたつく和美を引き離していく。

そして湾岸線手前の大きな右コーナーでさらに引き離し、ぶっちぎりで勝利した。


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