第7部第7話


1週間後。正樹は湾岸線へと新しく買った車でやってきていた。

赤のJZA80、トヨタスープラRZ。

京介の知り合いの、中古車ディーラーに頼んで手に入れてもらったものらしい。一応今のところはライトチューンだ。

メンバーも正樹に合わせて何人か車を買い換えたらしく、ハイパワーマシンが集まるチームになった。


マフラーを交換し、コンピュータをいじってリミッターを外し、ニトロシステムをRX−8から移植し、内装はほぼドンガラにまでそぎ落とした。

エアロパーツはつけていない。

まずはレベルの低い相手とバトルをしてスープラの分の代金を返さなければならない。

結構無理して買ったのだ。

RX−8を売って、残ったRX−8用のパーツを全て売り飛ばしても、まだ少しスープラの代金分と、マフラー代が残った。

それを解消しなければ次のチューニングは出来ない。それが京介からの条件であった。


有明のチームはこのスープラで制覇できた。

やっとここに来て…という感じはあったが、やはりパワーアップは大きい。

スープラやGT−Rは、純正のマフラーで馬力の出力規制に合わせるために、パワーを調整している。

マフラーを変え、燃調等のコンピュータ関係をいじるだけでも350馬力は出る。

それでも、しっかりしたメンテナンスなどがあって…の話になるが。

正樹の80スープラは、現在は370馬力ぐらいは出ているはずだ。一応エンジンの強化はしたらしい。




湾岸区間へといよいよ突入する「The Road of Justice」。

首都高速湾岸線(しゅとこうそくわんがんせん、Bayshore Route)は、

国道357号と並行し、神奈川県横浜市金沢区から千葉県市川市に至る首都高速道路の路線である。

横浜ベイブリッジ・鶴見つばさ橋はこの路線の橋である。

大黒ジャンクションで神奈川5号大黒線と分岐し、東海ジャンクションで湾岸分岐線と合流し、有明ジャンクションで11号台場線と、

東雲ジャンクションで10号晴海線と、辰巳ジャンクションで9号深川線とそれぞれ接続し、

葛西ジャンクションで中央環状線が分岐する。

神奈川から東京を通り越して千葉へ至るという路線の性格上、「上り・下り」ではなく「東行き・西行き」で方向を表す。

首都高速道路の路線では「その他の路線」とされている。

東京湾岸道路の専用部と位置づけられており、東京湾環状道路を構成する路線である。

また、首都圏の3環状9放射の高速道路計画では、中央環状線とともに一番内側の環状道路とも位置づけられている。


この区間に設置された出入り口のランプは、大井、空港中央、東扇島、大黒ふ頭の4箇所。

まず新環状線からそのまま下ってきたところからスタートする、大井から始める。

ここはシルビアだけのチームがあるが、所詮は中排気量のマシン達。今のこのチームにかなう相手ではなかった。

そしてここでは、目ぼしいワンダラーはいなかった。




続いて空港中央。ここで正樹が目をつけたのは「ワイルド ハーツ」だ。

モニターに映っていたのは、青の三菱GTO。下りのスタート地点は空港北にあるトンネルの出口から。

ゴールは東扇島の少し手前まで。超高速バトルになる。

ギア比は最高速重視にセットアップしてある、と京介は言っていたが、果たしてどれくらい出るのであろうか。


出口に着くと、そこに待っていたのは茶髪の男が1人。

「へえ…あんたが挑戦してきたの?」

「はい。山中です」

「俺は健二(けんじ)だ。よろしくな」

GTOとスープラがスタート。


最初はスープラ以上にトルクの太い、GTOが先行する。

(よし、出遅れた分取り返して、前を取ったぜ!)

健二のGTOは結構なパワーが出ているようだが、正樹のスープラは前述の通り最高速重視。加速で負けるのは仕方が無い。

ニトロを少しだけ噴射して、正樹は離されないようにスリップに入る。


(逃がさない…)

メーターは240キロを超え、260…280キロに達しようとしていた。だが、ここで前のGTOのスピードが伸びなくなってきた。

(あのGTOは…加速重視か)


健二のGTOは、直線時の加速力は圧倒的で、並の車ではまず追いつけない。

ボディや足回りも、ハイパワーに対応できるように抜かりはない。

だが裏を返せば、最高速は伸びないということだ。そこに的を絞り、スリップに入ったままついていく正樹。

(仕掛けてこないのかよ!?)


正樹は最高速で勝負するのではなく、ゴールが見えてきたところで飛び出し、一気にニトロを噴射。

加速重視のGTOを加速で追い抜く。

最高速で勝負しようとすれば、今度は逆にスリップに入られるかも知れ無い。

だったら入られる前にゴールしてしまえばいいのだ。SPを無理に削りきる必要だって無いのだから。




続いて向かうは東扇島だ。

東扇島(ひがしおおぎしま)は、神奈川県川崎市川崎区にある人工島である。

1972(昭和47)年に埋め立てが始まり、1974(昭和49)年11月に正式に東扇島という町名が付けられた。

千鳥町から川崎港海底トンネルを、水江町から JFE海底トンネル(一般車通行禁止)を介して陸地と結ばれている。

また、扇島とは扇島大橋で結ばれている。

島全体が川崎港の一部となっており、埠頭は東京湾側の外航船用埠頭と京浜運河側の内航船(国内貨物)埠頭に分けられる。

その立地条件から物流・食品関係の倉庫が集中しており、物流関係の戦略拠点である。

また、西側には釣りが可能な東扇島西公園がある。

平成元年ごろよりはシビルポートアイランドという名称も使われていたが、普及することなく現在に至る。

道路の管理は殆ど行われておらず路面の表示は多くが消えている。そしてアスファルトは大型車が多く通行するため波打っている。



そんな東扇島では「限界エレジー」と「テクニシャン小野」に遭遇。

「限界エレジー」は赤のランエボ5に乗っている。


そしてそのドライバーは、何だか酢臭かった。

「初めまして。奥寺(おくでら)といいます」

「山中だ。…ん?」

珍しく、何か不快感を露わにしたような表情を見せる正樹。それを見た奥寺は、はっ、と何かに気がついた。

「あ、すいません。臭かったですかね? 俺…築地で寿司握ってる、板前なもんで」

なら納得か、と思い、それ以上は追求せずにバトルスタート。



最初の加速ではスープラが前を取る。正樹がスタートのタイミングを決められるので、これは有利だ。

だがエボ5もしっかりついてくる。

(このまま負けてたまるかよ!)

奥寺はバトル前に頭でバトルの展開をシミュレートし、それを元に走る理論派タイプだ。

当然、このバトルの前にもシミュレートは欠かしていなかった。スリップストリームに入って追い抜こう、と思っていた。


…だが。

まだ若い板前の身である奥寺には、あまりチューニング費用が捻出できない。パワーはそれなりに出ているのだが、

ニトロシステムが搭載されていない。

対して正樹は、先行逃げ切りで勝負を一気につけようと、ニトロを噴射してエボ5を引き離す!

(う…わ! 何だよあのスープラの加速!)

一気にぶっちぎられた奥寺のSPはどんどん減っていき、ゴールにたどり着く前に決着が着いてしまったのだった。



お次は「テクニシャン小野」。相手は茶色のZ32だ。

「あなたがバトルを申し込んできたんですか? 初めまして、小野(おの)です」

「山中だ」


…と、ふと正樹が涼太のZ32を見てみると、サイドミラーが2つついているではないか。

「ミラーが2つ…」

「ああ、俺、教習所で習ったことをそのまま今でもきちんとやっているんですよ。「ゴールドライセンス」っていう奴、知ってますよね?」

確か環状線でバトルした、金色のR32の奴だ。

「俺、あいつと仲良くて。マナーがいいってほめられたんですよ。でもこの前、ゴールド免許がやっと取れたって言うのに、駐車違反をしてしまって…」

「…そうか…」


……………………………………………………………。

沈黙。


「すみません。それであいつまで落ち込んじゃって。その思いを今日はバトルにぶつけます!」

(…なんだかなー)

思いをぶつけるのはかまわないが、車体をこっちにぶつけてこないで欲しい、と思う正樹。


最初は正樹のスープラが先行した。

しかし、先行してもまるで仕掛けてくる気配が無い涼太。実は彼のZ32は、あまりチューンされていないのだ。

どちらかといえば、性能よりも安全性重視のパーツに金をかける。

エンジン関係は後回し。バトルの勝敗も涼太はあまり考えておらず、結局そのまま正樹が引き離してゴールするのであった。




お次は大黒ふ頭へ。

大黒埠頭(だいこくふとう)は、神奈川県横浜市鶴見区にある埠頭の名称である。

埠頭の埠の字が常用漢字に含まれないため、看板などには「大黒ふ頭」と記されていることが多い。

首都高速道路神奈川5号大黒線及び湾岸線が通過しており、大黒ジャンクションと大黒パーキングエリアがある。



だが大黒ふ頭だけは、ワンダラーの1人に勝てなかった。

バトルしたのは「フリートゥーリー」と「狼の鎮魂歌」。

「フリートゥーリー」は黄土色のMR−Sに乗っていた。



「…あんたが俺にバトルを申し込んできたのか」

「はい。山中正樹です」

「そうか。けっ、こんな大排気量のマシンなんか乗りやがって…」

男は正樹のスープラを見て、苦々しく舌打ちをした。


「大排気量のマシンじゃ、迷惑なのか?」

「ああ、はっきり言って公害もいいところだな! 無駄にガスを減らして、緑を汚して。少しは走り屋も、エコロジーを考えろっていうんだよ!」

(ならお前、走り屋やめればいいだろ…)

そんな突っ込みが心の中で浮かんだが、突っ込むと話が長引きそうなので正樹は言わないことにした。

「まぁ、いいや。俺は田辺(たなべ)。早速始めよう」

(いいのかよ…)


大黒はみなとみらいのほうに向かって突き進んでいく。間には少しコーナーがあり、そこでは少しMR−Sが差を詰めてきた。

だがこんなところに、小排気量のマシンで来ること自体がもう勝負にならない。

あっさりと直線でMR−Sを振り切り、正樹は決着をつけてしまった。



しかし、次の「狼の鎮魂歌」には勝てなかった。車は紫のZ32だが、とにかく運転が危なっかしい。

だが、直線が鬼のように速かったのだ。こっちは東扇島に向かって走る東行きのコース。


「へぇ、あんたが今話題になっている「The Road Of Justice」のリーダーか。俺は武(たける)ってもんだ」

「山中だ」

このZ32の武は、音を聞くとエンジンが壊れるくらいまで全開で踏み切る。事故にならないのが不思議な走りなのだが、それでもとにかく速い。

正樹は加速重視ではないために、振り切られて敗北してしまった。


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