第7部第5話
首都高速中央環状線(しゅとこうそくちゅうおうかんじょうせん、Central Circular Route)は、
東京都の、品川区の大井JCTから渋谷区・中野区・豊島区・板橋区・北区・足立区・葛飾区を経由して
江戸川区の葛西JCTに至る、首都高速道路の路線である。
首都高速都心環状線の外側に位置する環状線である。
また、都心から約8km圏内の、渋谷・新宿・池袋などの副都心エリアを環状に連絡するとともに、放射道路を相互に連絡する、
事業計画の路線名は、都道首都高速5号線(一部)・6号線(一部)・葛飾江戸川線・板橋足立線・目黒板橋線・
品川目黒線・高速葛飾川口線(一部)に指定されている。
東側区間・中央環状王子線・中央環状新宿線・中央環状品川線からなる。
新環状線はパワーが環状線以上に重要になってくる。RX−8でも少し厳しいかもしれない。
やはり相手側もストレートが速い奴らが多い。環状線よりもストレートで突き放される展開が増えた。
それでも小さなコーナーでも相手が減速するので、そこをついてはオーバーテイクをする。
だがやはりパワーが……といったところだ。
ニトロで少しは補えるとしても、やはりエンジンへの負担も大きい。
そのためここのチームは後回しにして、まずはワンダラーを少しずつ潰していくことに。
エリアは福住、有明、台場だ。
まずは福住エリアで見つけた、同じRX−8乗りの「キューティーヒップ」から。
バトルエリアは新環状線右回り。銀座から新環状線に合流した少し先から、湾岸線に合流する手前の右コーナーを曲がった所。
スタート地点に着くと、何とドライバーは女であった。
「こんばんは」
「こんばんは。山中です」
「私は千夏(ちなつ)って言います。よろしくね。でも…リアウィングを外してないのか…」
正樹のRX−8を見た千夏は、何だかがっかりした様子である。
「問題でも?」
「いいえ…でも、私はリアウィングを外したマシンに強い魅力を感じるもので。…それはともかく、バトルと行きましょう」
RX−8とRX−8のバトル。最初はニトロを使って正樹のRX−8が先行。千夏もぴったりついていく。
しかし、千夏の走り方はびっくりするほどすごかった。
……速いと言う意味ではなく、全く別の意味で、の話だが。
コーナーというコーナーでは腰をくねらせるかのように、派手なドリフトで走行。
当然立ち上がり加速は遅い。
しかも最高速も全然伸びず、あっさりと振り切って勝利した正樹だった。
(あんな走り屋がいても、珍しくは無いかもな)
続いて有明エリア…ここは湾岸線に合流しているので、直線だけのコース。
右コーナーを曲がったところからスタートし、湾岸線を駆け抜けて、
台場線への分岐を過ぎたところの、上りながらの右コーナーを曲がってゴールだ。
ここでは何と言ってもマシンパワーがものを言う。それが無ければ絶対に勝てはしない。なので、千夏を倒してもらった金を
エンジンパワーを増やすために使おう…と思ったが、RX−8の残りの代金に全て消えてしまった。
とりあえず有明は後回しにして、先に台場へ。
ここは先ほどの分岐の右コーナーを曲がったところから、環状線に合流するところまでが区間だ。
そこでは今の時代にはすごく珍しい、赤い最初期のS30・日産フェアレディZを発見した。
ドライバーは「クラフトマン真鍋」。
スタート地点へ1周して向かうと、そこには白髪…と言っても、老化によるものではなさそうだ。
自分で染めたのだろう。その白髪が目立つ男を発見した。
「よう、こんばんは」
「こんばんは。俺は山中といいます」
「そうか。俺は真鍋(まなべ)。よろしく頼むよ」
スタートして、少し直線がある。そこでの加速はこちらのほうが速い。しかしコーナーでは若干直也が差を詰めてくる。
S30Zは軽い。
高速コーナーでは古い車の割に踏ん張りが利くので、食いついてきている。
(…それならば)
ならば、と直線でニトロを少しだけ噴射し、あっさりと振り切った正樹であった。
「パワーを上げたい?」
「はい、お願いします。湾岸線での高速バトルには…」
「うーん……」
しかし、正樹の頼みに京介は悩み気味だ。
「確かにパワーをあげないと、加速勝負で負けるのは解るんだが、ブレーキ関係も結構重要になって来るんだよな」
悩みどころだ。悩んだ末、京介はひとつの結論を出した。
「少しだけブレーキを強化する。だが、停まる時は台場線には行かず、湾岸線方面に行くようにしろ。
そうすれば直線だから、前に別の車がいない限りクラッシュも避けられる。後は足回りと、パワー関係のチューニングに回す。それでいいか?」
「はい、お願いします」
直也を倒してもらった金を全てつぎ込み、正樹のRX−8のチューニングはどんどん進んでいくのであった。
(すごいな…)
相変わらず表情こそ変わらないが、内心では結構驚いている正樹。
有明のライブモニターで選んだライバルのところへ行く前に、少しだけ全開にしてみたが加速力がアップしている。
これなら何とかいけそうだ。
今回選んだライバルは「鳳仙花(ほうせんか)エタニティ」。ピンクの日産・Y34グロリアに乗っている走り屋だ。
こいつも外人らしい。
スタート地点に停まっていたグロリアの横にRX-8を停めると、そのグロリアからもドライバーが降りてきた。
やはり外人…しかも女である。
「どうもこんばんは」
「こんばんは。山中です。よろしく」
「リリーです。イギリス生まれです。よろしくおねいします」
やや訛りはあったものの、リリーの日本語は日常会話には十分問題ないレベルだ。
そして2台がスタート。
先行した正樹はニトロを使おうと思ったが、それをするまでも無かったようである。
ワンダラーは、チームを組んでいる奴らよりレベルが高い者たちがそろっているが、リリーは直線があまり速く無い。
なのでニトロを使うことも無く、湾岸線を駆け抜けてそのまま先に正樹がゴールした。
次に目をつけたのは青のランエボ乗り「焦燥の迅姫(じんき)」。
このドライバーもまたもや女であった。新環状は女の走り屋が多いのだろうか?
「こんばんは。焦燥の迅姫こと、近藤 愛(こんどう あい)です。よろしくお願いします」
「山中正樹だ」
ラリーベースの戦闘機を駆るこの女は、いったいどんな走りをするのであろうか。
スタートはニトロを使わず、あえて前へと行かせる。ランエボは4つのタイヤを全て加速に活かせる4WD。
RX−8は後ろの2個のタイヤだけに、前のエンジンから力を加えるFR。
スタートダッシュでは負けてしまう。そこで正樹が取った戦法は「スリップストリーム」である。
スリップストリーム (slip stream) とは、高速走行する物体の直後に発生する現象、もしくはモータースポーツにおいて
その現象を利用し直前を走行する車を抜き去る際に用いられるテクニックのこと。
主にモータースポーツなどのスポーツ用語として用いられ、カテゴリによってはドラフトまたはドラフティングとも言われる。
走行中の物体は、空気による抵抗力を常に受けている。
抗力においては相対速度のみが2乗で加算されるため、低速域での空気抵抗は限定的であるが、
ある程度の高速域になると急激に抵抗力が強くなるので、加速のためのエネルギーの多くが空気抵抗に打ち勝つことに費やしてしまい、
速度が空気抵抗に制限され頭打ちとなる。
その状態の時、物体の真後ろ近辺では前方で空気を押しのけた分気圧が下がっており、
そこでは空気の渦が発生し周りの空気や物体などを吸引する効果を生むほか、空気抵抗も通常より
低下した状態となっている。この現象をスリップストリームと言う。
このスリップストリームの中に物体が入る(真後ろに張り付く)事により、
気圧低下による吸引効果や空気抵抗の低減によって、走行中の速度域において通常と同じ速度をより低い出力で発揮することが可能となり、
これにより生まれた動力装置の余剰出力を使っての加速が可能となる。
また自動車などの場合はエンジンなど動力装置の負荷軽減などの効果も生まれる。
簡単に言えば、前の車が空気の壁を切り裂いてくれるため、空気の抵抗を受けにくくなるということだ。
ただし追い抜くときに空気の抵抗を今度は自分が受けることになるので、車体が不安定になりやすいというデメリットがある。
特にモータースポーツなどの高速域でのスリップストリームを用いるカテゴリでは、
後方のマシンがスリップを出た途端にスピンやコースアウトを喫する場面がしばしば見られる。
空気の量が減少してしまうためにラジエターなどの冷却装置の性能が低下するほか、
エアロパーツなどの空力部品の性能も満足に発揮されずダウンフォースも低下するなどの欠点もあり、特に車の前方に当たる
風圧が極端に減少するため、マシンがアンダーステア傾向となりやすい。
このため、スリップストリームに入る場合は、利点と欠点のバランスを取れるゾーンに絞る必要がある。
正樹は高速サーキットの富士スピードウェイに通いつめていただけあって、高速区間での車の安定性を保つことに慣れている。
エボ5の後ろに着いた正樹は、ニトロも噴射して一気に愛のテールに張り付く。
それをバックミラーで見た愛は、ラインを変えてスリップに入れさせないようにするが、正樹も同じようにラインを変えてスリップに入り続ける。
そのまま走り続けた正樹は、車が不安定にならないようしっかりとハンドルを握って、ゴール寸前でエボ5のスリップから抜ける。
(ここまでだ)
スピードの差を活かしてエボ5を追い抜き、有明の最終コーナーは上りながらなのだが、ブレーキの性能を考えて
早めにブレーキをかける。
そこからしっかりとグリップ走行で右コーナーをクリアし、2勝目をゲットしたのであった。
残る目ぼしいワンダラーは、後2人。まずは「鋼の三角定規」。
すごい通り名だ。なんでも三角に異常にこだわる男で、三菱車のエンブレムが三角に似ているから、大好きとのこと。
コーナリングにも異常にこだわり、切れるコーナリングを見せてくれるらしい。
車は銀色の、三菱ランサーエボリューション8・MRだ。2004年に発売したばかりで、まだパーツがあまり無いのだが…。
そのエボ8から降りてきたのは、ピンクと水色の、2色に分けられた髪の毛が特徴的な男であった。
「あんたか? バトルを申し込んできたのは?」
「そうだ。山中だ」
「そうかよ。俺は仁(じん)。よろしく頼むわ」
エボ5から進化し続けてきたエボ8は、性能も高い。これは要注意だ。ニトロは少ししか使っていないので心配はなさそうだが…。
先行したのは仁のエボ8。
やっぱり加速では4WDが速い。正樹もしっかりとスリップに入り、加速していく。
(スリップストリームに入ってきたか。だが、まだ嫌な予感がするな)
仁はミラーを見ながら、後ろのRX-8に不安な動きを感じていた。
スピードメーターは取り替えられ、320キロまで表示されるようになっている。それでも右側まで持っていかれるのだ。
現在のスピードは230キロ。
もう少しでゴール。その前に前に出るために、スリップから飛び出て車を安定させてからニトロを噴射させる。
(行くぞ)
ニトロを使ってエボ8を追い抜き、早めにブレーキングをしてグリップ走行。
しかし、それでも仁はあきらめてはいない。立ち上がりの加速競争で追い抜くつもりだ。
(クソ…このまま…前へ!)
だが後一歩及ばず。少しだけRX−8が前に出て、ゴールラインを突っ切ったのだった。
最後の1人は「ブラッディマリー」。車は正樹にとっては懐かしい、色も同じ赤色のZZT231セリカだった。
スタート地点へ向かうと、そこには金髪の女の子が1人立っていた。
「こんばんは」
「こんばん…は…」
そのドライバーの女の子の顔を見た瞬間、山中は感情を露わにした顔をする。かなり珍しい事だ。
それもその筈。彼女はブレイク中の超人気アイドルだったからだ。
「あ、あの…どうかされましたか?」
「岡澤 綾(おかざわ あや)さんですよね? テレビで活躍の方をされているのを見た事があります。趣味でここに…?」
「はい。追っかけを振り切る為に首都高を走っていたんですが、いつの間にかそれが楽しくなっちゃいまして」
「ははあ…」
何とも凄い理由だ。だが例えアイドルが相手でもバトルはバトル。負ける訳には行かない。
最初のスタートはニトロを噴射した正樹が先行。だが綾も簡単には引き離されない。
追っかけを振り切る為に、見た目はノーマルでも、加速重視のハードなチューンを施しているセリカを操る。
そして首都高を走って居る内に、トリッキーな走り方を綾は身につけていた。
(逃がさないわよ!)
だがしかし、正樹は若干その上を行っていた。
綾も食い下がるが、じりじりと正樹は綾を引き離して行き、SPを削りきって勝利したのであった。