第1部第11話


京介はFDで湾岸線のPAへ。そしてNSXも少し遅れて帰ってきた。見るも無残な姿だ。

「…速いな…」

すっかり意気消沈している男。もうだめぽ…とでも言いそうな勢いだ。

京介はそんな男に構わずドアを開け、男を引きずり下ろしてNSXのボンネットにたたきつける。

「テメェ…!」

「す…すいませんでしたあ! マジもう無理です! ほんと僕が悪かったです! ごめんなさいいいい!!」

バトル前とは打って変わって、男はマジで涙目になっている。

「俺が怒ってるのは車をバカにされたからじゃねえ…。俺をバカにされたからでもねえ。…俺のチームの奴らに怪我させた様だな?」

凄い勢いで男に詰め寄る京介。


しかし男はきょとん、とした。

「……え? 何? 何の事!?」

「とぼけるな! 最近この首都高でバイクを煽って転倒させたそうじゃねえか? それ俺のチームの奴だ。今仲間が大勢ここに集まってくるぞ?」

「…はぁ!? ちょっと待てよ! 確かに首都高は走ってるけど、僕は何も知らねえよ!」

「寝ボケてんじゃねえぞコラ! たっぷりとヤキ入れるからな。覚悟しろよ!? 黄色いNSXの奴だってそいつが言ってるんだよ!」


すると、男の顔が変わった。

「……あ、もしかすると…あいつかもしれないぞ?」

「何? どう言う事だ? 心当たりがあるのか?」

NSXの男は何かを知っている口ぶりだ。

「僕は確かにこの首都高を走っているけど、そう言う事は絶対しないよ。多分それ、ダブルマインドってチームの奴じゃないかな?」


「ダブル…マインド?」

聞いたことのないチーム名だな、と京介は首をかしげた。

「首都高で最強だが、最凶のチームでもある。

卑劣な手段は当たり前、バンパープッシュ、チャージ、悪質なブロックなんて日常茶飯事。しかもリーダーが、黄色いNSXに…」

「何だとそれ!? 本当か!?」

NSXの男は苦しそうな表情をし出した。

「あ…ああ! 頼むから手どけて! マジで苦しいから!」

「あ…すまない」


やっと男を解放した京介。そしてNSXの男は続ける。

「ああ。僕らサーティンデビルズも酷い目に遭ってる。…あ、紹介が遅れたな。僕は岸。岸 泰紀(きし やすのり)だ。宝条君だな?」

「はい…あ、えっと…すみませんでした、俺てっきり…」

「いや…僕の方も調子に乗りすぎた。ごめん…」

2人はお互いに和解した。

「それで…そのチームはどこに行けば会えるんですか?」


しかし、岸の口からとんでもない事実が。

「……そのことなんだけど…そこのチーム、消滅したよ」

「何ですって…?」

「元々あのチーム、凄く曰く付きのチームで。そう言う走りで名を売ってることはもちろんだったんだけど、メンバー同士の仲が悪い。

下克上狙ってる奴がいたり、リーダーはチームメンバーだろうがクラッシュさせることだけしか考えてないような奴だし。

そう言うチームだったから、消滅したのも無理はないかもな。おそらく、あんたのチームのバイクを潰したのも、リーダーだろうな。

そして、そいつは死んだ。今までの報いが一気に返ってきたかのように、大クラッシュ。NSXは大破。奴は一発で即死。つい先日のことだ」

岸は一気に息継ぎをしながら喋りきった。


「じゃあ俺は…この怒りをどこにぶつけたら良いんですか…!!」

「それは…すまない」

「何もあなたが謝ることじゃ…」

「いいや…そのチームには僕もいろいろと恨みがあるから。僕だって、この恨みをもうどこにぶつけたらいいか」


その時、本線の方からバイクの排気音が聞こえてきた。

「…まずい。逃げてください。俺のチームのメンバーがやってきます。事情はきっちり説明しておきますから」

「あ…うん。…そうだ、次の十三鬼将だけど、追撃のテイルガンナーって奴が湾岸線にいる。赤いFC3Sに乗ってる奴だ。速いから気をつけろよ」

「わかりました」


そして、最後に岸から質問が。

「君…もしかして…族上がり?」

「そうです」

「そうか…大体さっきの会話で見当はついていた。それじゃな。またどこかで会おう」

岸はNSXに乗って去っていった。

京介は後から来たメンバーに事情を説明し、結局下道のファミレスで飯をおごって帰ってもらっただけになったのは、また後の話。



5日後。FDを最高速重視のセッティングに変更してもらい、湾岸線にやってきた京介。

赤いFCを求めて湾岸のチームメンバーを次々倒していく。

300キロを超えるバトルが当たり前になるので、遅いライバルから速いライバルにだんだん切り替えていくような戦い方で、この4日間戦い続けてきた。

高速域のバトルにも慣れ、落ち着いてバトルができるようになった。


すると。湾岸線下りのベイブリッジで、路肩に赤いFCがハザードをつけて停まっていた。

ボンネットを開けて停車している。

見かねた京介、思わずそのFCの前に停車した。FDから降り、ドライバーに話を聞く。

「あの…どうかしたんですか?」

「ん? 何だいあんた。俺は別にトラブルでここに停車している訳じゃないんだ。オーバーヒート気味だから少しエンジンを休ませているわけだ。

PAで休ませるより、ここで見る景色の方が眺めが良いしな」

「そうですか」


しかし、京介はこのFCを見て思った。こいつ、もしかしたら…。

「あの…追撃のテイルガンナーって、もしかして…」

「ん? …ああ、俺だよ。もしかして、岸や明が噂してたのって、あんたのことかな?」

「多分そうだと…思います」

その言葉を聞いて、男はぱっと顔が明るくなった。

「そうか…君がそうか! はっはっはっ! ならちょうど良い。FCとFDの、RX−7新旧対決と行こうじゃねえか。

俺は沢田 弘樹(さわだ ひろき)だ。よろしく」

やたら陽気だ、この男。


「宝条京介です、よろしく」

「よし、なら湾岸下って横羽に行くぞ。宝条君が先行してくれ。俺は後からついていく。本線に合流して3秒たったら全開だ」

「はい」

「よっしゃ、なら行くぜ! FCだからって甘く見るなよ!」

そう言い残し、FCに乗り込んだ弘樹。


(テンション高いなー。何かついて行けねぇよ)

京介は若干疲れ気味だ。

とりあえずFDに乗り込み、アクセルを2,3度煽って本線に合流。そして2速に入れた瞬間、アクセル全開!


しかし…!

(何だ、FDなのにその程度か!)

ものすごい加速でFDの横をFCが駆け抜けていった。ものすごい加速重視のセッティングだろう。

FCの方が軽いと言うこともあるが、それでも速い。

そのまま分岐を左に入り、すでに50mくらいFCはFDを引き離している。


だが、コーナーで奴は過剰に減速しているではないか。環状線の奴らと何ら変わらない。

(……あれ?)

回り込んでいく右コーナーであっさりオーバーテイク。しかしその後のストレートに入った瞬間、ものすごい加速で抜き返された。

(うお……! 直線番長とはまさにこのことか!)

加速は鋭い。しかしコーナーなら追いつける。その先の緩いクランクでまたも追いつくが、すぐ引き離される。


そして横羽線に突入。

横羽線に合流する前の、下りながらの右コーナーでオーバーテイクしてブロック。

アザーカーをうまく使い、FCを前に出させないように…と思ったが。

(……あれっ?)

FCはバックミラーから消えていた。横にはいない。前にもいない。

何かトラブルがあったのかと思って、一旦近くにあった緊急避難帯に停車する京介のFD。

するとFCが追いついてきて、弘樹が降りてきた。


「あの…FC、どうかしたんですか?」

トラブルがあったんじゃないのか? と思う京介。しかし弘樹は首を横に振る。

「いや…俺の負けだよ。何を言ってもいいわけになっちまうが、いくらストレートで勝ててもコーナーであっさり抜き返されたらな。

横羽線は緩いコーナーが多いから抜き返せるかと思ったら、変なアンダーが出て、予想以上にブレーキングが必要な場面が多くてな。

それでなくても足回りのセッティング、まだ納得いってねーし。

…でも、やっぱり負けは負けだ。こんなのは言い訳だ。結果は変わらない。レースの世界に「たら」、「れば」はないからな」


弘樹はどことなくしゅん、とした表情になっていたが、すぐに明るい表情になった。

「…まぁ、こんな話しててもあれだから、次の四天王のこと教える。何か俺に対して凄くライバル心むき出しの女。この横羽を走ってる。

俺と一緒に13号地走ってた頃から、やたらライバル心むき出しだったから。

それから口調がやたら男っぽい。でもテクは結構ある。そいつは70スープラに乗ってるぜ。それじゃな!」


何となくその女のことを知り尽くしているような口ぶり。ちょっと京介はからかってみることに。

「もしかして弘樹さん、その人のこと好きなんじゃないですか?」

「ば…バカ言うなよ! そ、そんな俺があああいつのことすっすすすす…好きだなんてそんな…だーっ! もう! 年上からかってんじゃねー!!」

…わかりやすい単純な人だな、と弘樹を見て、つくづくそう思う京介であった。


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