第6部第18話


「負けたわ…あなたになら、頼めるわね」

バトルを終え、竜介は由紀の頼み事を聞く事に。だがその頼み事はとんでも無い内容であった。

「私の知り合いが…キングダムトゥエルブのリーダーなんだけど、今…この街道から速い走り屋を追放しているの。

勿論貴方もその対象に入ってる。だから…上原 隆のラリーチーム結成による、街道の走り屋追放を、あなたならきっと止められるわ」


とんでも無い計画を聞いてしまった。そんな奴が、あのキングダムのリーダーだったなんて。

これは何としても阻止しなければならない問題だ。

「あいつはラリードライバーでね。仕事の都合上、なかなか休みが取れないらしいの。

それで今度の休みは、来週の月曜日に何とか取れたらしいわ。悪天候があまり好きじゃないみたいで、

晴れたら来るんじゃないかしら? 私は応援には行けないけど、頑張ってね」



「街道の走り屋と首都高の走り屋を押さえ込むのが

KINGDOM TWELVEの表向きな姿。そして、

KINGDOM TWELVEは街道の完全制覇が終わった後

その姿を究極のラリーチームに変え、

新たなる再出発し、自分の思う走りの

理想郷を創設するのが、彼の狙いよ。」



土曜日を含め2日間、高山はてるてる坊主をRX−7の車内に垂らして、晴れるのをひたすら祈った。

竜介はとにかく北海道のコースを走り込む。

その高山の思いが通じたのか、第2周目の月曜日は見事に晴れ渡った。


そしてPAで待ちかまえていたのは、黄色と黒のボディカラーに塗られた、ホンダのS2000であった。

(えっ…何で、FRのマシンで…?)

ここに来てあんなマシンかよ、と思っている高山。しかし竜介の表情は変わらない。

ついに、キングダムのリーダーとご対面だ。

「…ついにここまでやって来たか。野上竜介に、高山信幸」

「あんたが…キングダムのリーダーなんだな? 俺と勝負してもらおうか」


しかしその男は馬鹿にしたような仕草で、髪を掻き上げながら2人を見る。

「俺と勝負だぁ? …ははっ、笑わせんな! 最強で究極のラリーチーム結成を邪魔する者は、この私がここにいる

以上、貴様の君臨は無い! 俺は最強なんだからな! はーっはっは!」

途中でわざわざ一人称まで変えて、何のマンガのキャラだよ、と竜介と高山は思いつつも、この男がやろうとしている事は

街道サーキット自体の存続に関わる事だと、由紀や知子のBBSの書き込みで知った。


「どうしてもって言うのなら、バトルしてやっても良いぜ?」

「なら、どうしてもだ。由紀さんや知子さんから、お前の計画は全てBBSで明かされた。だから俺とバトルしろ」

「はっ! 身の程知らずが。バトルをした事をたっぷり後悔させてやる。俺は上原 隆(うえはら たかし)だ。

野上竜介の名前を新たに刻み込んでやる。追放された走り屋のリストにな!」

隆の車はS2000だが…何だか、ただのS2000ではないような気がする。



「3,2,1,GO!」

その違和感は走り出して判った。あの動きは後輪駆動ではない。4WDだ。

(どんなS2000だ…)

何か別の車のパーツを移植して、半ば無理矢理にでも作り上げたのだろうか。しかもメチャクチャ速い。

よくエンジンの音を聞くと、ブローオフバルブの音もする。

ターボエンジンに4WDという、半ば反則のS2000を持ってきた隆。これなら速いのも納得だ。

(俺の計画を邪魔されるわけにはいかない。狂気と言われようがな!)

7.3キロのコースをハイスピードで駆け抜けるS2000とインプレッサ。さらに隆は、ブロックもコーナリングも高レベルだ。


しかし相手も人間。何処かで必ずミスが出るはずだ。

(何処かで…きっと、追い抜いてみせる!)

中盤の2連続ヘアピンを抜け、ジャンピングスポットでスキージャンプ並みの大ジャンプを見せ、ゴールへと突き進む。

(そうだ…良いぜ…この感じ! もっと攻めて来いよ!)

荒っぽい運転だがキングダムのリーダーだけあり、速い走りを見せる隆。竜介はそれでも、諦めずに最後まで食らいつく。


そしてもうすぐでゴールだと言う所で、隆の気持ちに油断が生じた。

(ふう…後、もう2、3コーナーでゴールだ! これでお前はここから追放だ!)

それが油断へと繋がり、バックミラーから目を離す隆。ゴール直前の高速S字コーナーでスピードが落ちる。

(今だ!)

その瞬間を逃さず、竜介は空いたスペースへとインプレッサを飛び込ませていった。

(…な…んだと!?)

まさかここで来られるとは思っていなかった隆は、慌ててS2000のハンドルを切って修正するが、時既に遅し。

ゴール直前で追い抜かれた隆の瞳には、ハッキリとインプレッサのテールランプが映し出されたのであった。



「く……くそおおおおおおおおおおおおっ!!」

隆の絶叫が北海道のPAに響き渡った。

「残念だが、お前の計画はここまでだな?」

「…今日は俺の負けだ。車を乗り換える時が来たのかもな。…くっそ…だが、俺は諦めないぜ」

計画が狂ったのは想定外だったが…サーティンデビルズのリーダーには敵うまい」

「何だって?」

「俺がそそのかしたんだよ。サーティンデビルズを街道に呼び寄せる為にな。お前が負ける所をじっくり見物させてもらうとするぜぇ?

そいつは医者やってるんだってよ。んで、来週の水曜日にここに来るって話だった。…じゃあな、負けを期待してるぜ!」

そう言って隆はS2000に乗り込み、PAから去っていったのだった。最後まで嫌な奴だった。



「私の完璧な作戦がすべて台無しだっ!!

あの走り屋の存在さえ無ければっ…!!


しかしだ、俺にまんまとだまされ、のこのこと

やってきたTHIRTEEN DEVILSの迅帝が

あの走り屋を打ちのめすハズだ!!」



その日からまた、竜介は限界までラリーコースを攻める。ラリードライバーとして。そして、あのプロジェクトを始める事も決めた。

まずはサーティンデビルズのリーダーを倒すのが先決だ。


その後、水曜日はまたしても天気が晴れ渡った。PAに待っていたのは大仏が描かれた、青いGDB(丸目)インプレッサ。

そしてドライバーは、黒髪を胸あたりまで伸ばした長身の男だった。185センチは超えているだろう。

「あの…」

「…何か?」

「俺は野上って言うものですが、サーティンデビルズのリーダーって、まさか…」


その言葉に、最初から気がついていたかのように、男はふっと口元を緩ませる。

「…そうだ。俺は令次(れいじ)。あんたの言う通り、サーティンデビルズのリーダーだ」

「では、俺と…」

「ああ、バトルしよう。キングダムの話は聞いてるからな。手加減抜きで行かせてもらおう!

貴様には、何故か走りのベクトルとして私と同じものを持ち合わせている気がする。ここで俺が食い止める!」

それはそうと、ここの有名人は一人称変えるの好きだなー、と、話を聞いていた高山はふと思う。



下りフルコース、文太、由紀、隆の時と全く同じでLFバトルだ。

「3,2,1、GO!」

ここに来て、何度目になるかわからないインプレッサ同士のバトルが幕を開けた。

令次のGDBは加速力重視のセッティングで、恐ろしく速い。しかし隆のS2000と比べると、遅い。

隆のS2000はそれだけの戦闘力があった。

それでもGDBのボディを思う存分振り回し、ダートを駆け抜けていく令次。同じインプレッサ使いとして、負けたくはない。

その思いでただひたすら、令次のGDBに食いついていく竜介。

(着いてくる…さすがだ)


竜介は隆の時と同じく、最後までどこかにミスが出てくるはずだと信じてついていく。

(そっちのGDBの大きなボディでは…多分あそこで減速せざるを得ないはずだ)

そのポイントは、隆を抜いた最後の高速S字コーナー区間。

ここでは連続して襲ってくるS字コーナーに対抗するため、切り返しの早さが重要になってくる。


そこまで食いついてきた竜介は、気持ちを落ち着かせてアクセルを踏み込み、令次とは違うラインから加速。

なるべくまっすぐに走り抜けられるラインを取った。

(…ここで来るのか!?)

令次はもうラインを変更する事は出来ない。GDBのアクセルを踏み込むが、アウト側には壁。

対してギリギリで抜けられるラインを取った竜介は、そのままゴール寸前で令次の前に鼻面だけを出し、ゴールラインを突っ切ったのだった。



「KINGDOM TWELVEの上原 隆にそそのかされ、

こうやってきてはみたものの、俺は何故かいつも

不満だった。この場を借りてみんなにあやまりたい。

しかし、これからはあの走り屋を目標にし、

こうやって姿を出す事もあるだろう…

その時は、俺達を快く歓迎してほしい。

よろしくな。」


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