Calamity to the empire第9話
「証拠不十分だ」
ディレーディから聞かされたそのシンプルな一言に、言葉を失う
帝国騎士団将軍と副将軍。
「な、何故です!? あの男は私達に武器を向けて来ました!」
「そ、そーですよ!」
当然その答えに納得が行かない2人だが、それに今度はヴァンイストが答える。
「そう言われましても……証拠となる取り引き用の武器が無いとなると、こちらとしても
武器の取り引きを彼等がしていたと言う事にはならないんですよね……」
ディレーディの執務室の彼の机の前でこんな衝撃的な事になったのは、あの時
ザドールとユクスが紫頭の男を捕まえて広場へと戻った時から始まった。
「……あれ?」
最初にその状況に気がついたのはザドールであった。あの広場に戻った時には
確かに配下の騎士団員達がこの紫頭の男と一緒に居た人間達を捕まえてて
くれていたのだが、良く良く見てみると武器の入っている木箱が1つ残らず
無くなっていたのだ。
勿論その行方について部下達に尋ねてみたのだが、全員広場から一目散に
逃げ出した人間達の捕獲に夢中で武器の入っている木箱の事はすっぱりと
頭から消え去っていたのだと言う。
そうして全員がそれぞれ取り引きをしていた人間を捕まえて広場に戻って来た時は、
すでに木箱が無くなっていた状態だったらしい。
しかし部下達の口だけでそう言われても疑問は消えない。長い付き合いの部下達ではあるが
やはり怪しい事に代わりは無いので城に戻った後に1人ずつのボディチェックをしたり、
部下達に詳細な事情聴取も敢行した。
それでもやはり無くなった木箱の事については誰も知らなかった。だが、これも部下達が木箱を
何処かに隠しているのであれば口裏を合わせる事も可能であるので未だに疑心暗鬼の状態だ。
そうしてこの状況下の中でディレーディとヴァンイストに今回の任務の報告をしに言ったのであったが、
すでにあの金髪の男と紫頭の男の事情聴取は終わっていたらしく、結果として取り引きしていた
筈の武器が綺麗さっぱり無くなっていた事から、ヴァンイストの言う通り状況証拠が不十分と言う
事になってしまった。
当然そうなってしまえばあの逃げた2人が取り引きをしていたと言う事を断定出来ないので釈放となる。
「ちっ、帝国騎士団って言うのは随分横暴なんだなぁ? 俺達が何かしたって言うのかよ?」
「全くだ。僕達がそんな武器の取り引き等と言う愚かな事をする筈が無いだろう」
明らかに苛立っている口調でザドールとユクスを一瞥(いちべつ)しながら城の出口へと歩いて行く
2人の男の姿を見て、ザドールもユクスも悔しさと怒りを隠しきれない。
「……納得出来るか、ユクス」
「出来る訳ねーだろぉ!? はるばるあそこまで足運んで、その上あれだけの思いまでして、
その結果が今こうしてこんな状況になっているこれかよ! 僕は認めない……認めないぞ!」
「私も……そうだ」
口調としては冷静だが、そのザドールの目には明らかに怒りの炎が燃え滾っていた。
確かにあの時、ザドールとユクスと配下の騎士団選抜メンバー達は取り引き現場らしき場所を見たし、
ユクスは金髪の男に矢を射られ、ザドールは紫髪の男に岩場で蹴り落とされた。
でも結局、口では何とでも言えてしまうので確固たる証拠が無い限り騎士団は容疑者をこうした状況に
なってしまうと逮捕する事は出来ない。
例えそれが騎士団長や副騎士団長と言う立場の人間の証言であったとしても、だ。
「……こうなったら、あの行方知れずになった木箱を探すしか無いな」
「ああ、それしか無い。それさえあればまだどうにかなるかもしれないぜ!!」
とりあえず部下達にあの2人の男達の行動をそれぞれ見張らせる事にして騎士団の監視下にこっそり
置いておくと同時に、将軍と副将軍で今回の取り引き事件の証拠探しがスタートするのであった。