Calamity to the empire第10話
「その武器に関する情報を集めなければ。もしあの武器が入っている大量の
木箱があの時誰かに持ち出されたとなれば、せっかくあそこまで遠征した意味が無い」
「分かった。あては……僕にはある」
「多分御前と同じ所にあてが私にもあると思うがな」
「だったら話は早い、行こうぜ」
2人には、忽然と消えてしまった武器の行方を知っていそうな情報のあてがあった。
エスヴェテレス帝国に限った事では無い。この世界中の何処の国でもそうだが、やはり
都の中でも特に人が集まって来やすい所がある。
夕暮れ時にその場所の前に2人が辿り着くと、すでに建物の中は賑わいを見せている。
「なぁ、一杯呑んでかないか?」
「何を言っている。今は大事な任務の途中だろう」
「へーへー。相変わらずお堅いこって」
「当たり前だ。それよりも中に入るぞ」
ジョークも通じないのかと溜め息を小さく吐くユクスの横で、その建物の扉に手をかけて
中へと入るザドール。
そこは冒険者達、暇を持て余した人間、仕事の終わった人間等でほぼ満席の酒場だ。
この国の騎士団の将軍と副将軍が店の中に入って来ても特に気にする事無く喧騒は続いて行く。
何故ならこの酒場もまた、人々にとって憩いの場なのでそう言った事を気にする必要が無いのだ。
だが、彼等はザドールが自ら言っている通り酒を呑みに来た訳では無い。
あくまで任務の一環の為にここに来た2人は、店の大勢の人間達の中からお目当ての人物達を探す。
「……お、ザドール……あれじゃねぇの?」
「ん?」
ユクスが指を指す方向を見てみると、確かにそこ……店の奥にある6人がけのテーブルを
占領している4人組の男が彼等のお目当ての人間だった。
その4人の元へと一目散に近付いて行った2人は、傍に居る店員に飲み物と軽い食事を頼む。
当然飲み物は酒では無い。
「よぉ、店が混んでるから相席させて貰うぜ」
「ん、何だぁ、御前等……ぁ?」
4人の男の内、1番最初にドカドカと空いている席に座って来た2人に気がついたのは
紫髪の痩せ身で鎧姿の男であった。
「少し聞きたい事がある。付き合って貰うぞ」
「えっ、あれ!?」
ザドールがそう声をかけると、残りの3人も2人の姿に気がついた様だった。
「な、何でここに!? 今はまだ仕事中じゃあ……」
「その仕事で私達はここに来たのだ」
「どう言う事だよ、それは」
他に座っているのはオレンジのロングヘア頭の男、赤髪の物静かそうなまだ若い男、そして
黄緑のセミロングへアの男だった。
「まぁそうざわめくなよ。僕達だって別に邪魔をしようって訳じゃ無い。ただ少々聞きたい事がある」
「聞きたい事?」
黄緑頭の男が聞き返すと、ザドールとユクスは同時に頷いた。
「昨日の事件の事だ。私達が担当した事件だ」
「そもそも、君達から僕等は情報を貰ったんだからね?」
その2人の言葉に4人の男達の顔も変わる。
「……ああ、もしかして俺達がディレーディ陛下に伝えた事か?」
「そうらしいな。あの武器取り引きの事だろ?」
「で、その聞きたい事って何なんだ?」
「まさかこっちの情報に間違いがあったとか?」
4人のそれぞれの反応を見たザドールは首を少し横に振り、こう切り出した。
「いや……間違っては居なかった。ただ予定が少々狂って更に厄介な事になった。だからこそ
こうしてまた傭兵の御前達に情報提供、そして協力を申し出に来たのだ」
自分達への申し出とは一体どう言う事なのだろうか? と4人はそれぞれ顔を見合わせる。
「何かその話し方だと、結構良く無い展開に向かっているみたいだね?」
オレンジ頭の男がそう問い掛けると、ユクスが小さく頷いた。
「ああ。話せば少しだけ長くなるけど、それが済んだら僕達は支払いを済ませてここを出て行く。
料理を食いながら話させて貰うよ。これからの国の治安に関わって来る問題でもあるけどな」
ユクスのそのセリフに、傭兵達はすごい嫌な頼み事が来る事を予感せずには居られなかった。
まるでこれから、この国で戦争でも始まりそうな予感が……。