Calamity to the empire第8話


ユクスが金髪の男を追いかけている内に、ザドールが追いかけている

紫髪の大柄な男は山頂方面へと逃げて行くので当然追いかけない

訳には行かなかった。ここで取り逃がしてしまえばこの武器取り引きを

阻止すると言う任務が失敗に終わってしまう。

それだけはどうしても避けたかったので、今まで山道を登って来たせいで

結構足腰にも限界が近づいているがそれでも何とか踏ん張って大柄な男と

同じく山頂方面への上り坂を駆け抜ける。


しかし、男はいきなり後ろを振り向いたかと思うと右腕をバッと横に振り払う。

「あー、しつっけーなー!!」

「!!」

その動きを見たザドールは素早く横に飛んだ。

何故ならただ男は腕を振り払った訳では無く、その手にナイフを握り締めて

から腕を横に振り払ってナイフを飛ばして来たからだった。

「くっ!」

何とかギリギリでそのナイフをかわしたが、その回避行動のせいで男との距離が

少し開いてしまった。

「ちっ!」

苦々しくそう呟き、追跡を再開するザドール。こんな所でへこたれていては帝国

騎士団将軍の名が泣く。


そうして山頂へと男を追いかけて行き、少しずつ確かに差は縮まって来た。

今は格段に先程とはスピードが落ちる岩場を登っている。どうやらこの辺りでは大柄な

体躯が災いして大柄な男はスピードががくんと落ちている様だ。

対するザドールは小柄と言う訳では無い。むしろ足が長くてすらっとしたスタイルを維持

しており、大柄な体躯では無いそのしなやかな体つきが特徴だ。

ユクスからも足が長いな、と言われる事が多い彼はここでそのしなやかさを活かして

一気に男との距離を縮め、男の足首をがっちりと掴んだ。

(良し、捕まえた!)


……が。

「ふん!」

「うぐっ!?」

がっちりと掴まれた足とは反対の足でザドールの顔面を思いっ切り蹴りつけ、悶絶する

ザドールに今度は強烈な前蹴りを披露して岩場をザドールは転がり落ちる。

「雑魚が……図に乗んじゃねえぞ?」

転がり落ちて行ったザドールを見ながら、今度は方向転換して反対側……つまり

登って来た方向から下って行く方向へと素早く走り出す男。

「く、ぁ……ま、待て!!」

それでもザドールも到る所を岩にぶつけて身体中が痛いが、ギリギリで受け身を取りながら

何とか立ち上がった。


今度は逆方向の下り坂となれば身体の重さが関係無くなる。むしろ身体が軽い方よりも、

どっしりと安定している重い身体の方が踏ん張りが利きやすい場合もある。

軽い身体であれば勢いが逆につき過ぎてしまって止まり切れなくなってしまう可能性も

あったりする訳だ。そして追いかけている途中で気がついたのだが、どうやら地面が整備されて

綺麗な場所の帝都を歩き回って毎日仕事をしているザドールよりも男の方がこうした悪路を

走り慣れているのか、下り坂でも全くスピードを緩めない怖い物知らずの様な逃げ方をする。

(まずい、このままじゃあ引き離される!!)

軽快なステップで悪路を駆け抜けて行く男とは対照的にこの地面に悪戦苦闘しながら

ザドールは追いかけて行くのだが、次第に男との距離が離れて来ている事に自分でも

気がついて焦り始めていた。


でも、男とザドールのこの山道での追いかけっこは意外な形で終焉を迎える。

「ふっ!」

再び懐から取り出したナイフを、男は振り返りつつザドールに向かって投げる。

「ちっ!」

舌打ちして悪路に足を取られながらも再びギリギリでそのナイフをかわしたザドール。

これにより先程と同じくまた男との距離が開いたのだが、そんな男が目の前に

視線を戻した瞬間だった。

「うおおっ!?」

何かにつまずいた男は派手に宙を舞い、そのまま前のめりにすっ転んだ。

そして素早く何者かに圧し掛かられ、後ろ手に荒縄で身柄を拘束される。


「大丈夫か!?」

「ゆ、ユクス……何故ここに!?」

そう、男の進行ルートの前に突然現れたユクスが逃げてくる男の足に自分の足を引っ掛けて

男を転ばせる事に成功した。下り坂でスピードがついていたのでなおさらである。

「僕が追いかけていった人はもう捕まえたぞ。後はこいつだけだな?」

「あ、ああ……すまない、助かった」

「良いって良いって。良し、広場へ戻ろう。皆が待ってる」

だがこの後、2人は信じられない光景を目撃する事に!!


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