Calamity to the empire第7話


逃げた残りの2人を追いかけて、ユクスは山を駆け下りて行く一方で

ザドールは山頂方面へと駆け上る。何故ユクスが駆け下りているのかと言うと、

逃走途中に二手に分かれて行った男達の内の金髪の男が、別の登山ルートを

使って山脈を下りるルートを選択したからであった。

(下まで逃げられたら厄介だ! 何としても捕まえてやるっ!)

幸い、自分は体重がそんなに重くない上に使う武器も弓とそれから短剣と

言う様に重量が無く動きの邪魔になりにくい物であった為に、軽さに関しては多分

自分の方が軽いのでは無いかと考えるユクス。


だが、いざフタを開けてみればそうでも無かったらしい。

何故なら追いかけるのに無我夢中でなかなか気づかなかったが、逃げて行く金髪の男も

良く良く見てみると弓使いの様である。

スピードもどうやら一緒位の様で、後はどうやってこの距離を詰めるかにかかっている。

なかなか金髪の男のフットワークも軽い物であり、つかず離れずの距離を保ったまま

どんどん麓まで下りて行ってしまう。

(このままではまずい!!)

そう考えたユクスは弓を背中から取り出し、一旦立ち止まって素早く構えてから

逃げて行く男の足元に向かって威嚇射撃を1発。


「うっ!?」

帝国騎士団副騎士団長を務めるだけあって、その弓の正確さもトップクラスで無ければいけない。

だからこそ、今の弓から放たれたその矢が金髪の男の足元に突き刺さった。

それによって驚いてしまった男は足場の悪い山道だった為にバランスを崩して前のめりに転んでしまう。

(良しっ!!)

その様子を見たユクスは素早く弓を背中にしまい、今度は懐から荒縄を取り出した。そして

起き上がろうとしている男に追いついて素早く背中に圧し掛かった。

「ここまでだ、諦めるんだなぁ?」

「ぼ、僕達は何もしていないぞ!!」

「はぁ? 何言ってるんだよ?」


この期に及んで言う事はそれか、と内心呆れながらも荒縄で男の身柄を拘束するユクス。

「この期に及んでシラをきるつもりか。往生際が悪いぜ?」

「な、何の事だよっ!!」

叫びながらの男の問い掛けに、ユクスは鼻で笑って教えてやる。

「はっ! そうか、だったら教えてやるぜ。御前達はさっきのあの広場で武器の違法な取り引きをしていた。

あの広場に大量の武器が入っている木箱が置いてあるのを僕は見たんだからな? さぁ、一緒に僕達と

城まで来て貰わないとなぁ? 色々説明して貰うよ?」

まるでどっちが悪人なのか分からない様な意地の悪い笑みをユクスは浮かべながら男を立たせて、

一旦さっきの広場へとこの男と共に戻る事にする。


実際の所、武器がこうして違法に取り引きされると言う事は珍しくも無い。

ましてこう言った人目に付かない様な場所でやるのであればなおさらだ。

それに武器の取り引きに関してはこのエスヴェテレス帝国だけでは無く、他の国でも

きちんと正式に国から取り引きの許可を受けて取り引きされるか、国その物が武器の

取り引きを行うかのどちらかしか無い。

それを破って無断で、しかもあれだけ大量の武器を取り引きすると言うのは勿論

犯罪行為になるし国の治安を乱しかねない事になる。

そう言った奴等を捕まえるのも自分達帝国騎士団の仕事なのだ。


しかし、その広場に行く途中で男は意味深な事をユクスに問いかける。

「本当に僕達を連行するのか?」

「だからそうだって。分からないんだったら僕が何回でも説明するよ?」

「そう言う意味では無いんだがな」

「何だそれ、どう言う意味だ?」

「……別に。ただ、後悔しても知らない」

一体何の後悔をするんだ? とユクスはきょとんとしたが、ただの苦し紛れの悪あがきだろうと

判断して男の身体を時折り強引に引っ張りながら今下って来た道をまた上って行くのであった。


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