Calamity to the empire第2話
しかし今は広い鍛錬場でこれからユクスと手合わせをする為、勿論使う武器は
ハルバードになる。ハルバードであれば他の武器よりも熟練度が高いので、
ロングソードで戦う時よりも遥かに勝率は高くなる。
しかし相手も副騎士団長を務めるユクス。しかも元旅人と言うだけあり、
正規の騎士団の訓練は勿論の事その他にも旅の中で培った自己流の
テクニックを持っているので油断が全く出来ない。
生気の騎士団の訓練だけでは予想もつかない様なテクニックで相手の
隙を突き、ザドールでさえも何回も負けてしまう事が今までもあった。
基本的には軽い性格なので上官であるザドールとは正反対のイメージを
持たれる事が多いユクス・ウォルトークもまた、34歳で帝国騎士団の副将軍を
務めている若きトップクラスの人間だ。外見からはユクスの方が年下に見られる事が
多いが、実際はザドールよりも1つ年上。性格も正反対なら生まれ育った環境も
正反対で、帝都から離れたそれなりに大きな町ののびのびとした環境で育った為に
この年になっても好奇心が強い一面がある。
元々は傭兵であり、帝国内外で幾つもの活躍をしていた事から帝国騎士団にスカウトされた。
弓と短剣を自分の武器として得意とするので、近距離も遠距離も対応出来る
オールラウンドなタイプである。ストイック過ぎる上官のザドールに対して何処かさめた感じで
見ている彼だが、決して鍛錬で手を抜いている訳では無い。
ただ、身体を酷使しすぎるのは良くないと考えており何事もメリハリが大事だと考える性格で、
飄々としたその態度からは余り想像がつかない堅実な一面も持っている。
「では……参るぞっ!!」
先に駆け出して行ったのはザドールの方からであった。
ユクスはそのザドールが接近して来るタイミングを図り、斜め前に飛んで彼の突進を回避した。
(外したか!)
ちっと舌打ちをしてすぐに距離を取ろうとしたザドールだったが、次の瞬間物凄い衝撃が
横から襲って来た。ユクスは斜め前に飛んで転がり、そこから続け様に側転を繰り出して
アクロバティックに死角からザドールの側頭部を蹴り落とした。
「うぐぅ!!」
「まっすぐ向かって来るとは良い度胸だぜ!!」
ユクスはその頭を蹴り落としたザドールを素早く立たせると、そのみぞおちにパンチを突っ込む。
だが彼も鍛えているので余り効果が無い。むしろユクスの手が痛い。
「ぐう!」
手の痛みに怯んだユクスに槍での攻撃を開始するザドール。
だがユクスも黙ってやられる訳に行かないので、素早く2本の短剣を抜くと同時に向かって来る
ハルバードを頑張ってその短剣で上手く流しては弾く。元々魔法よりも短剣のテクニックの方が
得意なのだが、やはり将軍の立場に居る為ザドールもかなりの腕前である。
(ぐっ……こうなれば!)
一か八かの賭けでユクスは突き出されたハルバードを右腕で自分の脇に挟み込み、
ザドールの動きをガッと止めて彼の側頭部目掛けて左ハイキック。
「ぐふぅ!」
ザドールが怯んだ所で、ユクスは彼の挟み込んだハルバードを力任せに横に投げ飛ばし、
その勢いでザドールの身体がふらついた所に今度は回転をつけながらジャンプして、強烈なキックを
ザドールの側頭部にクリーンヒットさせた。
「ぐがぁっ!!」
ザドールはそのままきりもみ回転しながら地面に叩きつけられ、何とか起き上がろうと
するもののユクスに胸の上に圧し掛かられて2本の短剣をクロスさせて首筋に突きつけられる。
「僕の勝ちだ」
ニカッと笑いながらの勝利宣言に、ザドールは敗北を認めるしか無かった。