Calamity to the empire第18話
「容疑は殺人だ」
直々に牢屋までやって来た皇帝ディレーディから告げられた罪状はそれだった。
しかし、当然自分達はあの場所で人は1人も殺しては居ない。
騎士団の任務で敵を切り伏せる事はあれど、今回の任務は討伐目的では無い。
ただの紛失した証拠品があの傭兵達が調べてくれた場所にあるかどうかの調査だったのだ。
「さ、殺人って……私達は何もしていません!!」
「そうですよ! 何で僕等が!?」
だが、ディレーディも一緒について来たヴァンイストの視線も冷ややかな物だった。
「あの場所で何人かの騎士団員達が殺された。そしてその死体の傍からは
血がついている御前達の武器が発見されている。更に騎士団に通報して来た
人間が言うには、御前達と騎士団員が争っているのを見たと言う証言も出ている。
そして……あの洞窟の中にその取り引き現場で無くなったと言う武器が多数押収されている。
こんな結果になるとは……残念だ」
「いやいやいやいやいやいや!! お、お待ち下さい!!」
ブンブンと首を横に振ってユクスが激しく否定するが、ヴァンイストがそれに答える。
「ご安心下さい、まだ処分は決まっていませんから。また後で来ます」
「…………僕等……どうなるんだ?」
「分からない。でも、私達はあの時にはめられたとしか考えられないな」
「ああ、僕もそれしか無いって思う。それに今陛下が言った事が本当なら、僕等に殺人
容疑がかけられているのも納得出来る。でもこの状況に僕は納得出来る訳が無い!!」
確かにそうだ、とザドールはユクスの怒りの声に頷いて同調した。
「ああ。何とかしてまずは私達の無実を晴らさなければ。このままだと武器の密輸に横流しの
手引き、それから殺人容疑で大変な事になるぞ」
「でも、どうする……?」
そうしてしばらく考え込んで話し合い、2人は何とかここから出る為の作戦を考えていた。
しかし、幾ら考えてもここから出る為の作戦が見つからない。
「くっそ、やっぱり駄目か……」
「このままじゃあ本当にまずい。荒っぽい手段も視野に入れるか……?」
だが、そんな2人の話し合いは牢屋に戻って来たヴァンイストに話しかけられる所で終わった。
「お待たせしました。お2人にはひとまず食事をお持ちしました」
「ああ、どうも」
「……何かご不満な点でも?」
「私達は本当にやっていません。それだけですよ」
「そうですか……」
そうして食事を受け渡す為に鍵を開け、ヴァンイストが牢屋の中へと入って来た。
だが彼は次の瞬間、突然こんな事を言い出した。
「……私も貴方達は無罪だと思っております。ですが、確固たるその証拠が無い以上どうにもなりません。
本当は今すぐにでもここから出して、貴方達に捜査権を差し上げたいです」
「……お心遣い感謝いたします。しかし私達は今捕らわれの身。とてもここから出る事等……」
そんなザドールの言葉尻に繋げる形で、ヴァンイストはとんでもない提案をしだした。
「それは確かに普通の方法では無理です。だから私なら……こうしますかね」
その提案に従って食事を猛スピードで平らげた後、牢屋から出たヴァンイストに続いて
ザドールとユクスも牢屋を出る事を許された。
「それでは行きましょう、ヴァンイスト様。準備は良いですね?」
「はい。失敗は出来ません」
「こうなったらもう、やれるだけ僕もやってやりますよ!」
ただ2人は牢屋を出るのでは無い。城の牢屋は地下に存在している構造となっており、
そこから地上の階へと上がって行く。
だからこそ、地上に出て来たヴァンイストとザドールとユクスを見て周りの騎士団員達は驚いていた。
自分達の上司であり騎士団のトップとナンバー2が、あろう事かこの国の宰相に対してそれぞれ
ロングソードと短剣を突きつけていたのだから。