Calamity to the empire第17話
「ぬおっ!?」
「うわあっ!?」
いきなりザドールもユクスもそれぞれ後ろから殴り倒され、地面に伏してしまう。
「結構手こずっていたみたいだな」
「ああ……すまないな」
頭上から聞こえて来る声の主。それは何処かで聞き覚えのある声だった。
それもその筈、その声の主は……。
「これはこれは、ザドール将軍にユクス副将軍。こんな所までわざわざお疲れ様」
「き、貴様は!?」
「御前等……!」
聞き覚えのある声だったのは、その声の持ち主がザドールとユクスがそれぞれ
あの山脈で追い掛け回していた金髪の男と紫髪の男だったからだ。
「あーあ、誰がばらしたかは知らないけど、まさかこの場所が見つかっちまうなんてねぇ?」
「帝国騎士団でも金に困っている奴等は居るみたいでな。役に立ったよ」
「やっぱり、御前等が横流しを手引きしていたんだな!?」
そのユクスの問い掛けに、今度は赤髪の男が口を開く。
「ああそうさ。俺達傭兵もその為にこうして雇われたんだしな。あー良かった、これで
せいせい……するぜっ!」
最後の「ぜっ!」と同時に強烈なミドルキックを縛られた上に羽交い絞めにされている
ザドールの腹目掛けて突っ込んだ。
「うぐっ!? ごほっ……」
「ヴァレル、その辺にしておけ。俺達はこの2人に対してやるべき事があるだろう?」
赤髪の男をヴァレルと呼んだ黒髪の剣士が言う「やるべき事」が次の瞬間意外な形で明かされる。
何といきなり紫髪の男とヴァレルが、一緒に戦っていた筈の騎士団員姿の人間達を殺して行く。
「な、何っ!?」
「おい、何してんだよっ!?」
そうして5人位を殺した後で、持っている武器をその殺した人間達のそばに置く。
彼等が殺しの為に使ったのは自分達が使っている武器では無く、ザドールとユクスが
羽交い絞めにされた時に取り上げられたハルバード、弓、そして短剣だったからだ。
「まだ終わりじゃない」
そう言いつつ、今度は金髪の男が懐から取り出した2枚の布に同じく懐から取り出したビンの
中身の液体を染み込ませ、1枚を黒髪の男に渡す。
「さぁ、少しおねんねだ」
ザドールとユクスはそのまま抵抗空しく2人に甘い香りのする布を口元に押さえつけられ、
がくんと意識を失って力が抜けて地面に倒れ込んだ。
「これで作戦終了だ」
「ああ、結構上手く行くもんだな」
「たった2人で乗り込んで来たのが間違いだったな!」
「さぁ、あと一息だ!」
眠らされている2人の横でそんな会話がされていたが、当然眠ってしまった2人には
それが聞こえる筈も無かった。
そうして大量の武器が入っている沢山の木箱は殺されていなかった襲撃者と新たに
洞窟の外から現れた彼等の仲間達によって洞窟の外へと持ち出されて行く。
やがて全て……では無く幾つかを残した殆どの木箱の持ち出しが終了し、木箱から少しだけ
離れた地面にザドールとユクスが眠らされた状態で放置された。
「これで良し。それと後は……」
新たにやって来た応援の人間達の中で、緑のロングヘアーで長斧を獲物としている
男が辺りに目を配らせ、お目当ての物を発見する。
「その辺で良いだろう」
更にもう1人、応援の人物達から茶髪でひげを生やした中年の男が指示を出す。
その男の指示で眠らされているザドールとユクスと一緒に、先程目の前で殺された騎士団員の
格好をした人間達の死体も地面に横たわって置かれた後、ザドールとユクスが自分の武器として
使用している血のついているハルバードと短剣、そして死体に刺さっている矢と同じ矢が入っている
矢筒とセットになっている弓の3種の武器を眠っているザドールとユクスのそばに置いた。
「よっしゃ、撤収だ!!」
茶髪の男がそう号令をかけ、一行は倒れている人間達を残してその場所から去って行く。
それもただ去って行くのでは無く、洞窟の外から呼んで来た帝国騎士団の騎士団員達をこの洞窟に
呼んでからであった。
当然そうなれば、この状況を見た騎士団員達は一目見てザドールとユクスがこの騎士団員殺しに
関連していると強く頭の中で結びつける事になる。
眠らされたままのザドールとユクスが次に目を覚ました場所は、薄暗くて鉄の臭いが充満している
牢屋の中であり、2人は一緒に寝かされていたのであった……。