Calamity to the empire第1話


隣国ヴィルトディンに領土拡大の為に戦争を仕掛けたエスヴェテレス帝国だったが、

あえなく敗北し、命を助けて貰う代わりに敗走すると言う条件で自国へと戻って来た

帝国軍。しかし、そんな帝国に新たなる敵の姿が現れようとしていた……。

「結局、今の領土で満足してろって事かねぇ」

あの戦争から2ヶ月経った今でも、まだ敗北の空気から抜け出せていない

エスヴェテレス帝国騎士団副騎士団長のユクス・ウォルトークはそんな事をぼやきながら

鍛錬場で弓の特訓に精を出していた。


「過ぎた事を何時までも悔やんでいても仕方が無いだろう。私達は戦争に負けた。

だがヴィルトディンはこのエスヴェテレスに侵攻する訳で無く、そのまま敗北した私達を

見逃してくれただけでも有り難かっただろう」

そりゃまぁ確かになぁ、と言う答えをその声の主であるザドール・サイヴェルにユクスは返した。

「それよりも気を抜くな。戦争が終わったからと言って、何時また何処で戦いが始まるか

分からん。弓の練習が終わったら今度は武器術で私と手合わせをして貰うぞ」

「へいへい……相変わらずお堅いこって」

ザドールの真面目すぎる態度に呆れながらユクスは返事をした。


ザドール・サイヴェルはこのエスヴェテレス帝国騎士団のトップに立つ騎士団長であり将軍だ。

年齢はまだ33歳と若く、実際に見た目も30代にしては若く見える。

そんな彼の見た目は短く切った茶髪にヒゲ1本見当たらない小奇麗な格好をしている

軽そうな若者と言うイメージが強いが、ユクスと話している会話の内容からも分かる通り

それこそ「超」がつく程の堅物であった。

騎士団を纏める将軍としての立場にある自分のやるべき事を第一に優先し、任務を

確実に遂行すると言う事を常に考えている。


元々、彼の家が代々騎士団の人間だけで構成されていると言う騎士団一家だったからこそ

彼もまた騎士団員の道へと進むのは必然だったと言える。

ザドールの父親は騎士団長ではなかったが、それでも第233部隊長として1つの大きな

歩兵部隊を纏めている存在だった事、母親は騎士団の医療部隊に所属していた事があり、

そこで兵士達の怪我や病気の処置に当たっていた。

それから彼の7歳年下の弟も若手騎士団員として活動している他、4歳年下の妹も

騎士団の宿舎の厨房で料理を作っている上に、先月騎士団員の男と結婚した。


まさに家族が何かしらの形で全員騎士団に関わっている彼の家では、小さい頃から

ザドールも弟も妹も武器の特訓、体術の特訓、騎士になる為の心構えや礼儀作法と

言った物を厳しく躾けられて来た。

その結果として堅苦しい性格のザドールと言う男が育ったのであるが、どうやら父よりも

はるかに上の役職……もうこれ以上は上が無い帝国軍の将軍と言う立場にまで27歳で

上り詰めたのであるから人間何がどうなるか分からない物だった。

そしてザドールは将軍として、騎士団を纏めて国内外の事件を解決する為に日々奔走している。


彼自身は確かに2ヶ月前の戦争においてヴィルトディンのエルガー・ザリスバートに敗北して

しまったものの、決して弱い訳では無い。むしろこの若さで将軍の座についている訳だし、

小さい頃からスパルタ教育で武器や体術の特訓をして来たので弱い筈が無かった。

それから魔法の訓練もして来ており、戦場ではその魔法と武器を巧みに使いこなす戦い方をする。

得意な魔法は土系統であり、岩の柱を地中から突き出させるグレイブ、岩を空に出現させて

敵の頭上に降らせるコメットブレイク、更には土の精霊の力を利用して自分に1回だけ

物理攻撃を無効にさせるバリアーを展開させるマットガード等が主な技だ。


それと組み合わされる武器については一通り剣から始まって弓や斧、槍等一通りの武器の

練習をしているが、1番得意な武器はハルバードなのだ。

彼曰く、ロングソードや普通の槍等よりも取り回しが凄くしやすいらしく、1番フィットしているのが

ハルバード。しかし先の戦争でエルガーと勝負した時は狭い山道でハルバードは振り回せる

スペースが限られているので已む無くロングソードをを使用していた。

だがそれでも自分がエルガーに負けたのは武器のせい、と言う言い訳をしたくは無かった。

ただ単に自分のロングソードでのテクニックがエルガーより劣っていただけなのだから。


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