A Solitary Battle High Speed Stage第39話
「え、エジット!? ……ぐおぅ!?」
エジットが息絶えてずるりと地面に崩れ落ちたのを見て、流石の冷静沈着な
騎士団長セレイザも動揺を隠し切れずに息絶えたエジットの方に気を
取られてしまう。だけどそんな事はニールには関係が無いので、動揺して動きが
止まっているセレイザは格好のターゲットになっていた訳だ。
なのでそんなセレイザの顔面に前蹴りを食らわせてニールは更に追い討ちをかける。
「良くもエジットを……この国の若い光を!!」
利き腕の関節を外されてしまったとは言え、左手でも何とかロングソードを振って
セレイザはニールに襲い掛かって行くが、利き腕では無い分狙いもスピードも先程とは
比べ物にならない程隙だらけになってしまっている。
(しかし余り長引かせるのもまずい。ここは短期決着と行きたい所だ!!)
リーチに関してはロングソードの長さが向こうにある分どうしても自分が不利だと分かっている
ニールは、振るわれるセレイザのロングソードをかわしてから突き出されたロングソードを持つ
左手の手首を左手で、そして左腕の上腕二頭筋を自分の右肘で挟み込んでさっきと
同じ様に肩の関節を後ろに捻る。
そしてそこから上腕二頭筋のロックを解除してそのまま右の肘をセレイザの顔面に叩き込み、
手首を掴んでいた右手を離して振り向きざまにもう1発セレイザの顔面に全力のストレートパンチ。
自分でも驚く程のストレートパンチを繰り出す事に成功した為、ニールは思わずよろけてしまい
咄嗟にそばの壁の壁画に左手をついて倒れるのを防ぐ。
だが、それがニールにとって思わぬ事態をこの後にもたらす事になろうとはニール自身が
1番思いもしなかった。
「……!?」
何と、手をついた壁画が突然まばゆく光り輝き始めたのだ。いきなりの事でセレイザの事よりも
壁画に意識が向いたニールの目の前で、壁画の光はどんどん大きくなって部屋中に光をもたらす。
「ま、まさか……」
まさかこの壁画が、俺が地球へ帰る事が出来る道になっているのか? と思いながらもまるで
吸い込まれるかの様にニールはその壁画に向かい合い、そして1歩を踏み出す。
しかしその時、背後で何かが動く気配がしたのでニールは咄嗟に後ろを振り向く。
だけど反応してから対処するまでには1歩遅かった様で、体勢を立て直していたセレイザが
ニールに向かって左手で握ったロングソードを下から上へと振り、腹から胸にかけてニールを切り裂いた。
「ぐへう……っ!?」
ニールは痛みを渾身の力で踏ん張って堪え、思いっ切りセレイザの顔面目掛けて左ハイキック。
そしてセレイザのロングソードの柄を握っている手を両手で掴み、彼の左首に刃の部分を押し当てた
ニールは全力で自分から見て左から右に向かってセレイザの腕を引っ張った。
「ぐわっ!?」
首筋を切り裂かれたセレイザもエジットに続いてそのまま絶命し、それを見たニールは後ろを
振り返って光り輝く壁画のその光の中へと足を進めて行った。
そうしてニールが光の中へと消えて行くと段々部屋中に広がっていたその壁画の光の大きさも小さくなって行き、
ついには完全にニールがこの部屋に入って来た時と同じ様に何の変化も無い不気味な壁画に戻った。
違う所と言えば異世界からやって来た人間が壁画に吸い込まれて跡形も無くこの場所から消え去ってしまった事、
この部屋でソルイール帝国の騎士団長とギルドトップの期待の若手とされていた実力のある冒険者が
それぞれ死体となって息絶えている事であろう。
そして、この約30分後にこの部屋にやって来た配下の騎士団員達によって2人の遺体が発見された後は、
騎士団員達が団長の死を悲しみながら地下の研究施設の遺体の回収等の後始末に追われる事になったのであった。
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