A Solitary Battle High Speed Stage第32話


伊達に20年培って来た、地球の全ての武術の基礎になったと言う話もある

カラリパヤットのそのテクニックを見くびって貰っては困るとばかりに、ニールはその後も

鬼人の様な速さとキレでユフリーの部下の騎士団員達を1人、また1人と倒して行く。

(まずいわ……このままじゃあ……)

自分以外の騎士団員が全てやられてしまうと感じたユフリーは、ニールが他の

騎士団員を相手にしている間に素早く木箱が積み上げられた場所の陰に隠れる。

そうしてニールの動きを観察しながら、ジャケットの懐からある物を取り出した。

(流石にこれは効くみたいだし……)

その取り出した物体に目を1度くれ、ニールが段々こちらに近付いて来た所でタイミングを見計らう。

(まだだ……まだまだ……我慢……!!)


ニールが積み上げられた木箱の前で、最後の騎士団員を回し蹴りで倒した時。

(今だっ!)

ユフリーは懐から取り出した2本の投げナイフを、木箱の山と木箱の山の間からニールに向かって投げつける。

「っ!?」

いきなり飛んで来たそのナイフを何とかギリギリ……避け切れなかったニールの脇腹を1本のナイフが掠り、

痛みが走る。それに気を取られ過ぎたニールは完全に反応が遅れ、次にユフリーが体当たりで崩して

自分の元に崩れて来た木箱の山から逃げ切る事が出来ずに足が挟まってしまった。


「ぐぐ、う……」

何とか足を引っこ抜こうと躍起になるニールの元にユフリーが駆け寄り、槍を彼の顔の前に突き付ける。

「ここまでの様ね。私がまだ居るんだから油断は禁物よ。流石の貴方もこれだけの人数には

敵わなかった様ね。このまま私と一緒に来るなら良いけど、来ないならどうなるか分かるわよね?」

垂れ目の中のオレンジ色の瞳に狂気的な光を宿し、満足気な笑みを薄く口元に浮かべるユフリーを

見上げるニール。しかし、ここである作戦を思いついた。それが上手く行くかどうかは分からないが、

まずはそれよりもユフリーに聞きたい事があった。


「それはそうと……さっき俺がここのドアを閉めようとしたのに俺の方に向かって勢い良く開いただろう。

あれってどう言う仕組みなんだ?」

その問い掛けにユフリーはああ、と思い出して説明する。

「あれは私の魔術。貴方があそこのドアを閉め切る前に、私が風の弾丸を放って阻止したって訳。

貴方には風の弾丸が見えたかしら?」

そう問い掛けられてみると、あの時ニールの目にそんな物は全く見えなかった。それ所かいきなりドアが

自分の方に向かって来たのでびっくりしたのだ。幸いにも閉めようとした時に力を入れていた為、

いきなりこっちに戻って来て顔面衝突……の様にはならなくて良かったのは救いである。

「いいや、全然」

「なるほどね。普通の人間にはその風の弾丸も見える筈なのに、異世界人の貴方には見えないって事か。

だったらますます研究対象になりそうね」


研究対象と聞いて、じりじりと少しずつではあるが足を抜きかけているニールには余り聞こえの良い言葉では

無い事が分かった。

「俺をどうするつもりだ。研究って、俺を一体どうする気だ!」

「決まってるじゃない。一度貴方の身体の中を良く調べなくちゃ。それから魔術への耐久テストも

させて貰わなくちゃね。まぁ、私はこれ以上の事は良く知らないから、後で騎士団長とかエジットに

聞いてみた方が良いわよ」


ユフリーは凄く当たり前の様な顔と口調で事も無げに言い放つ。

だが、そんな解剖実験に自分の身体を提供する様な考え等ニールには勿論存在していない。

「そんな実験に参加なんてするもんか。俺は絶対に行かないからな。せっかくいじめから生き延びて来たって

言うのに、こんな所で死んでたまるか!!」

そう言い終わると同時に、ようやく足を引っこ抜いたニールは一か八かの賭けでユフリーの突き出している

槍の柄をぎゅっと握り締めた!


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