A Solitary Battle High Speed Stage第26話


「そうか、だったらその男に私も1度会ってみたいものだな」

ソルイール帝国の帝都ランダリルを象徴するのが、この王城クレイアン。

その中にある大きな執務室でひざまずくエジットの目の前で、感心した様な口調で

騎士団長のセレイザが後ろ手を組んで窓の外の城下町を見下げながら呟く。

このクレイアン城を中心として円形に造られたこの帝都ランダリルは、円形であるが故に

360度の何処からでも敵の襲撃を見つける事が出来る。

そもそも、この帝国の人間は好戦的な人間が多い。と言うのも国のトップである皇帝が

好戦的であり、それに呼応するかの様に帝国軍の士気も普段から相当に高い。

そしてエジット達ギルドの人間も勇猛果敢な事で知られており、他国のギルドの人間の

倍以上は戦果を出しているとの事で国内外を問わずに名前を知られている者も多い。


そんな帝国騎士団のトップである騎士団長セレイザと、ギルドのトップに君臨している

エジットの次なる狙いはあの奇妙な人間の事についてだった。

「と言うよりも……その男はあんたも会ったんだろ?」

「いや、その時はただ単にすれ違っただけだ。御前の報告を聞いてようやく容姿が一致した。

その男を捜すとしよう」

セレイザはあの時、怪我人の治療の為に薬を分けて貰いに行った診療所でその茶髪の男と

すれ違ったのである。そしてその男が自分の横を通り過ぎた時に、恐ろしい程に存在感を

感じなかった違和感の理由がはっきり分かった。


「まさかとは思うが、そんな人間が居るのであれば帝国としても放っておく訳には行かないな」

「ああ。まさか足止めのオーラの魔術を使ったのにあいつにはそれが全く効かなかった。

と言うよりもはなっからその存在その物が見えていなかった様に、あいつは崖に向かって何の迷いも

無くジャンプして行ったんだ。俺の長い冒険者生活の中でも初めての体験だった」

実はエジットは、あの時崖に向かって走り出したあの茶髪の男にオーラを使った魔術を放って

壁を作り出して足止めをしたつもりだった。しかしあの男には何の効果も無く、オーラがあの男の

身体をすり抜けて行く光景がはっきりと見えたそのシーンは今でも記憶に新しい。

「もしこの世界に、魔術が通じない人間が居るのだとしたら」

「もしこの国に、魔力を感じる事の出来ない人間が居るならば」

「「そいつを捕まえて、研究材料にする!!」」


2人の考えは声がはもる事で完全に一致した。しかも、それ以外にあの男を捕まえなければ

いけない理由がまだ2人にはあった。

「俺はあの時、あの山道であいつに先を越されているからな。かなりの実力者と見受けたが」

「エジットがそう言うなら間違い無さそうだ。だがそれ以上に、今回御前に託していたその

盗賊団討伐の任務は、あの他国で散々被害を出していた盗賊団を私達ソルイール帝国が捕らえる事で、

この世界での名を挙げるつもりだったのだ。しかし……もしあの男が何らかの手段で国外に脱出し、

あの盗賊団を倒したと吹聴して回ったとしたら……?」

「それはこの国にとって、名も無き冒険者に先を越される程屈辱的な事は無い。ましてやギルドに登録すら

していない上に、見た所武器を持っている様子は無かった。となれば体術だけであの盗賊団を壊滅させたと

言う事になる。そこまで吹聴されたとしたら、今まで勇猛果敢で名を売って来たソルイール帝国騎士団よりも

更に上の存在が居ると言う事で一気に評価が下がる……だろ?」


セレイザは帝国の評価を落とす危険性があると感じ、エジットはあの男に以来を潰されたと言う事で

メンツとプライドも潰された。

「となれば、やる事は1つだ。少数精鋭の部隊を騎士団から人選して作り、秘密裏にあの男を探し出す。

帝都から出られる前にやるしか無い。手伝ってくれ、エジット」

「分かった」

騎士団には興味が無いが、今回ばかりは協力を惜しまないとエジットも快くその騎士団長の依頼を引き受けた。


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